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最終計画

戻る前に決めておくこと

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 俺達は下層の裏口を後にし、拠点に戻った。
本格的な増援が来る前に撤退、被害が出る前に引き上げたという訳だ。成果こそ少ない物のまさに完勝と言えるだろう。その場を抑えていた頭を討ち取っている事から、仮に派閥抗争が起きれば、上層部の地位も危ういのではないかと思う。

とはいえソレはまだ妄想の部類に過ぎない。
相手の経験が浅くて逐次投入をしてしまっただけで、実はまだまだ戦力があるのかもしれないのだから。

「いつもならこのまま引き上げて次回待ちだが少し変える」
「相手がどう動くか判らんし、馬鹿な真似をするかもしれん」
「だから次回に向けて大まかな方針を決めて、細部を整える」
「次回に下層を攻略する時は確実に落とせて、なおかつ俺たちは戦闘に加わらないくらいの余裕が欲しい。無駄かもしれないが、それだけの戦力でせめて相手を殲滅ないし降伏させるんだ」
 言ってることは今までと同じだが、違うのは計画性だ。
おそらくこうなるだろうなと言う事を今までに少しずつ話はしていた。相手によってはもっと詳しく言ってるし、そこまで言っていない者もいる。だが、次回での行動が重要になるとしたら、ここで言っておく意味があるだろう。

重要なのはその日に向けて細部調整が可能な事。
声を掛けられる傭兵や雇用できる兵士の人数や、集められる薬や武器、それらを総合した戦力がまるで違うからである。

「どの道そうなるだろうけど、此処で言う意味は?」
「例えばジャンさんに兵士として戦えそうな開拓民に目星をつけて、訓練してから来てもらえる。他にも他言語理解の呪文を使える傭兵を雇うとして、一度戻ってから許可を得たんじゃ遅過ぎる。洞穴ケイブエルフたちはどうも地魔法特化みたいだからな」
 エレオノーラはあえて聞いて来た。
事務手続きの面倒さを知っているから、一族を集めての親族会議をする面倒さを知っているからだろう。ひとまずジャンさんに移民たちから兵を募る話をしたが、実際には彼女の親族衆が兵士を集めるという意味合いに聞こえただろう。彼らも含めて、圧倒的多数で攻めるって感じだな。

そして洞穴ケイブエルフが馬鹿な事をしないようにというのも嘘ではない。

「必要ならば集めても良いが何を警戒している?」
「一番警戒しているのは地震ですね。範囲攻撃魔法の中では威力よりもその広さで知られてます。直撃喰らっても中々死にませんが、動き続ける地面で自由に歩ける奴はそう居ません。しかし、一番困るのはそこじゃない」
 属性魔法はそれぞれ得意分野がある。
地属性はその中でも継続性に優れていて、水晶を矢の他に武器や盾にしたり、壁を作って分断とか地面に一時的な穴を掘れる。その中でも飛び抜けて危険なのは、相手に強烈な衝撃を与えた後、継続して周囲を揺らす自身の呪文だった。欠点としては威力が大規模魔法の中でも低めな事なのだが……。

この魔法を地盤が緩い場所で使ったり、地下で使うと危険なのだ。

「落盤か。砂漠では突如地面に穴が開くな」
「そういう感じで周囲自体がどうなるか判りません。少し揺れるだけでも、農民が住んでるあばら家は危険なくらいです。それが地下と成ればどれほど面倒か。本当ならやるべきじゃないのですが、攻められている時に一番良い呪文も地震の呪文なんですよね」
 まず何も考えずに呪文を使ってくる可能性がある。
その時は経験がないだけなので、連発しない可能性や途中で打ち切る可能性があるからまだ良い。危険性はあるが、延々と使われるよりマシだからだ。戦闘する以上は命の危険は常に付きまとうし、火球の魔法を連発されて丸コゲにされるよりは余程安全と言える。問題なのは危険性を承知で、死なば諸共とばかりに使う可能性だろう。

よって速攻で壊滅させ、術者を討ち取る必要が出て来る。
その為には今迄みたいに時間をかけるような余裕はない。足止めして来るオーガや小頭率いる洞穴ケイブエルフたちに邪魔される訳にはいかないのだ。

「実際にはホムンクルスを突っ込ませます。しかし、俺一人だと命令を上手く与える余裕がありません。あいつらは下手すると邪魔ですからね。一応はバーバレストなんかも使いますが、長や呪術の頭を一気に討ち取る必要があるんです」
「判った。戦いの術ではなく、命令が得意な奴だな? それなら何とかなるだろう」
 ここにきて活きて来るのは、この間の土木作業だった。
あれでホムンクルスに命令をする事を覚えた者も居るし、そういう命令をスムーズに組み込めた者をある程度は判ったところがある。人によって話の理解度や、命令をシンプルにまとめられるかなどの適性がある事が判ったのだ。

これが馬鹿な奴の命令だと『邪魔者をすべて討ち取れ!』なんて手下の兵士に言い聞かせるノリで命令し、味方同士で戦う事になる。流石にホムンクルス同士だと時間が長引くので、途中で静止する余裕があるが、邪魔でしかなくなるのだ。

「フィリッパはウイザード・アイを使える呪文型の後も、そのまま製造しててくれ。こいつの改良型はそう時間掛からねえんだろ? それに合わせて、間に合う程度の量産型を連れて来てくれ」
「構わないっすけど、それだと足が遅く成るっすよ? 自分だけなら馬に乗れますけど、他はそうも行きませんし」
「なら予定通りなら呪文型とお前さんだけで頼む。大幅に遅れるなら、事後処理も兼ねてで良い」
 フィリッパは戦力外なので居なくていい」
次回は兵士や量産型も連れて降りるので、途中で修繕をする必要がないからだ。ならば呪文2つに絞った改良型の完成を目指す方が良いし、戦闘に遅れるくらいならば諦めて、万が一にも落盤が起きた時用に備えるべきだろう。

斥候と言う意味では、エレオノーラの提案で作成中の、幻影とウイザード・アイを組み合わせる個体だけで十分なのである。

「ブーとフーは予定日に合わせて予約しとく。間で何かするかは、大怪我さえしなきゃ良いよ。好きに埋めてくれ、安価で済むなら待機料を払うけどな」
「その辺りは兄貴が決めてくれ」
「なら戻った時の依頼次第ネ。何も無ければ待機料貰って寝ておくの事」
 一方、オーク兄弟の方はシンプルなものだ。
故郷に戻ってまたやってくるような時間がないし、予定日に合わせて戻って来てくれさえすれば良い。こっちに知り合いで信用できる知り合いがいれば良いが、そんな都合が良い事は無いだろう。まあ連れてきたら賃金を弾むくらいだな。

そして最後の一人が少しだけ心配そうな顔をしている。

「あの……もし彼らが降伏して来たらどうするんです?」
「その辺りは私も聞いておきたいわね。待遇にも寄るんでしょうけど」
「裏切らない呪いを受け入れてくれるなら良いが、まあ無理だろうな。監視付きでダンジョンの何処かに住むか、領内の洞穴の何処か。あるいは希望する受け入れ先が遠くにいるなら……ってとこだ。何時裏切るかもしれん奴らを、身内の傍には起きたくないな。呪詛を掛けるのに、時間と魔力を掛けても良いなら別だが」
 ゴブリンにしたように、ダンジョンの何処かで何もしないなら良い。
だが、そんな事は無いだろう。過去にダンジョンを占拠した経緯はともかく、家族を殺され住んでいた場所を追い出されたのだ。反抗することを前提に監視を付けておくか、さもなければ戻って来れないくらいまで遠くへ連れて行くしかない。それこそサンドーンの砂漠とかまでな。

俺の言葉にリシャールは何処かホっとしたような顔になり、エレオノーラの方は難しい顔をしている。数人ならばともかく、数が多く成れば呪詛を掛けるためにダンジョンの魔力を使うというのが気になるのだろう。

「その辺りは下層に残ってる魔力と、戦闘が危険かどうか次第ね」
「本当に地震の呪文で危険だというなら否応は無いもの」
「魔力を精査して呪詛を掛け、暮らしている間に懐柔できるなら良し」
「ダメなら遠くの国への旅費と食料を私が持つわ。ここまで取り返しておいて、落盤で敵も味方も全滅。ダンジョンは駄目になりました……というのじゃ御先祖に合わせる顔が無いもの」
 どうやら現実的な判断をしたようだ。
これから回収する下層の魔力を収入として考えたら、財宝であり彼女の家の持ち物である魔力をフイにすることになる。だが、ダンジョン自体が落盤してしまう事を考えたならば、少々の出費は仕方ないと割り切ることにしたのだろう。

そして、この事は計画を今の時点で伝えたことにプラス的な意味を持たせられるのだ。

「よし、じゃあそういう方向性で行こう」
「呪文が仕える傭兵に関しては予定日までに何とかする」
「質にこだわらないか、報酬を積んで腕利きを呼べば何とかなるだろう」
「エレオノーラの方は、下層の魔力の残りは無いものだと説明しておいてくれ。連中が精霊をバンバン呼んでたのは、おそらく蓄積された魔力を使い果たすつもりだろう。一番恐ろしいのは落盤だとな」
 戻る前に計画を決めれば、準備期間が短くても妥協できる。
今から説得に時間をかけ、筋道を立てた報告書を作れば良い。その間にジャンやフィリッパも予定を立て、ブーたちも確実に予定を空けるだろう。

こうして俺たちは最後の詰めを行う計画を始めたのである。
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