ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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下層攻略の準備編

最後の準備を整えよう

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 下層攻略に向けて資本を集めて行く。
エレオノーラが以前から管理し、その内にフリッパに渡す予定のダンジョン。彼女の一族が管理していた天然のダンジョンの内、支配権を奪還した中層までの部分。そしてこちらに協力的に成った一族たちが管理しているダンジョンも、僅かに収益を寄こした。

まずはそれらを統合し、一本化した帳簿を作成。
色々な物資を集めて行き、不要な物を売って必要な物を購入するサイクルを可視化した。実際に行う前に、紙面としてレポートにしたのだ。

「赤と青のラインを引いたのは、一族内で回せる物だ」
「相場よりも高く買ってやり、相場よりも安く売ってやれる」
「もちろん商人を通して売る品を、直接買い取るからだ」
「荷車と護衛はこっちで用意しないと駄目だが、その辺りも暇をしている兵士たちに仕事を斡旋してやれば良い。報酬として出す金を考えたらあんまり儲からないが、お前さんの実績になるはずだ」
 ダンジョン経営へのコンサルこそが俺の本業だ。
だからこの手の作業は割りと簡単だったりする。実際には借金の方に納入が決まって居たり、浮いた金で贅沢する馬鹿がいるわけだが、その辺りの差配は俺の仕事じゃない。利益を横取りされる商人の怒りには、別の旨味を用意しておこうという転移関しては助言しておくが。そこは新しい四つ足ホムンクルス……ローコスト版の出番だな。

呪文型と一緒に仕上がったローコスト型の四つ足君。
この個体はタフネスこそあるが、パワーは牛と同じくらいで歩く速度もそのくらい。常識的な使い方をする以上は、幾ら作業させてもどれだけ歩かせ続けても疲れない。その代りに戦闘には向かなくなった個体だ。巻き込まれて事故も起きなくなったと思う。これを出入りの商人が買い取れる権利を渡し、こっちが市場に売った個体を買い取るよりも、安くそして俺たちにとっては高く設定する。

「よくもまあ短時間でこんなに調べたわねえ」
「この手の商人はどこも変わらねえよ。領地ごとに独自の商品の方が少ないくらいさ。腕利きの薬師とかが居ればまとめて処理させたり、それをばらまけるんだろうが……まあ、そういうのは都合よくないな」
 エレオノーラの所だと平地なので小麦や葡萄が産物だ。
これは他所に売るだけだが、酒にしたり上流階級用の白パンにしてる地域もある。また冬には豚を潰して肉類にするし、ダンジョンにとっては内部で育成している所もあるだろう。これに薬草類と薬酒を加えれば、温暖な平野部でう理解される物の平均が出せる。この辺りは特に弄るところも無しい、出入りの商人から取り上げる程の利益は無い。

後はこれからはみ出てる物を調べれば良いし、特産品ってのは直ぐに判るからな。内部で売ってるのに何も知らず、わざわざ他所から買ってる物があれば利用するだけのことである。判り易い例でいうと高級酒とかレアなポーションな。

「この辺りの話を一族の会合じゃなく個別に、な」
「全員に周知しちまうと仲介する旨味が無い」
「個別に話して利益をくれてやると告げつつ、向こうにも言わせる」
「どうせ自分の所だけで留めている情報があるだろ。美味しい話にしろ、こないだの領地みたいなマイナスにしろ、コッソリ応じてやると言う態度で行くんだ。良い物は高く買ってやるし、マイナスは今のうちに埋めてやる。代わりに忠誠を誓えって流れだな。何も無い領地には兵士を護衛として、兵士すら居ない場所には……まあ街道でも作らせとけばいい」
 俺はクラウディアの出だから街道の作り方は知らんが、益は知ってる。
整備するには人手が掛かるし、維持するにも守るにもそうだ。代わりに商人の往来が良くなり、ダンジョニアでは魔力の流入用が上がっていく。魔物が街道筋から居なくなれば、人々には安全だし、街道ではなく辺境に設置されたダンジョン方向に逃げ込むから丁度良いって寸法だ。

そして相場ってのが地方ごとに違うのも知ってるし、ちゃんと街道を整備して、安全な町に商人が出入りすることは良く知っていた。

「ひとまずこの方式で暫く過ごせば、一族も潤いお前さんの権威も上がる。そうなりゃ内からのちょっかいもまず減ると言って良いだろ。その間に戦力を整えて調査しちまおうぜ。その結果次第で下層攻略の目途が立つ」
「まあ、そこまでの流れは前回で聞いたわ。肝心の呪文型は?」
 この辺りの話は前回の相談で確認したことの補強になる。
当主候補として確定したエレオノーラのゴーサインが出たことで、今までは決められなかった経営方針に口が挟めるようになったからな。そこに具体的な道筋と数値を付けただけだし、全ての一族をまとめたわけではないのでまだまだ穴がある。

対して前回に話が出て、まだ話していない新型ホムンクルスに興味が移るのは当然だろう。

「試してみたが見て回る分は問題ねえ」
「移動しながら案内させ、何処に妙な反応があるか?」
「そういう部分には順当だ。気を付ける時間ってのは限られてるからな」
「二人以上潜んでる時に前面の一人だけを報告する事もあったが、その点は命令する方が慣れれば行ける。問題なのは維持する方だな。潜入時や怪しい時だけならともかく、休憩中に何時間もってのは難しい。呪文二つに絞って強化し型を作って、それで完成するかもわからねえ」
 完全な新型なのでこれは仕方がない。
世間で行われてる呪文型の研究は、攻撃呪文や補助呪文を戦闘時に掛ける為だ。なので使用回数がそれなりにあれば良いのだが、フィリパに作らせたのはダンジョンでの調査用である。短い戦闘中に何発がぶちこめば良いやつとは完全に傾向が違うのである。

完成するのは少なくとも、ここから改良して次かその次くらいになるだろう。

「それだと下層の調査には難しいんじゃない? 延期する?」
「いや。それに関してはジャンが教えてくれた縄張り案で処理する。次の個体で改良できてるとは限らんし、ここまで順調だったのに、ホムンクルスに不備があるくらいで延期はまずいだろ」
 これが作戦の要とか、姿隠しがキー戦術なら話は別だ。
だが、今のところは洞穴ケイブエルフが下層の支配種族らしいとか、昔の報告例では姿隠しを多用したという程度なので、そこまで過敏になるべきかは分からない。

それに、相手がもっと凶悪な戦術を考案してる可能性がある。

「下層の連中がえげつねえ事を考えてたり、それこそドラゴンを飼ってたら根本から判断し直す必要がある。延期するのはとこまで取っておきたいからな」
「それを言われたらそうなんだけど、本当に大丈夫なの? 目が覚めたらみんな死んでたとか嫌よ」
 この件に反してはどちらも正論になる。
信用問題は置くにしても、過程に過ぎない話に怯える過ぎるのは良くない。同時に目に見えた危険をそのままにしておくのも無能のすることだろう。だからここは、対策案を立てて豆に処理することにした。

「お前さんを残して死んだりはしねえさ」
「それはそれとして、野営陣地を工夫する」
「風がない場所を選び、曲がり角のような場所に設営」
「足元に粉をまいておき、胴の位置にロープを張るんだ。敵からは胴の位置にあるロープが柵代わりに見えるが、実際には粉の方で見分けるって寸法だ。なんだったらホムンクルスに魔法無しで見張らせても良いくらいだしな」
 姿隠しはあくまで姿を隠すだけだ。
そこに居るという事実は隠せないし、隠れた姿でロープを通り越したりはできない。同時に粉を踏んだ時に、いびつな形になるのは避けられないだろう。風が無く曲がり角なら粉が飛んでいくことも無いしな。

後は曲がり角の位置から狙撃されないようにしておけば良いだろう。

こうして次の戦闘用ホムンクルスが生産されたころに、メンバーを招集して下層に挑むことになった。
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