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机上のコンサル編

改善策の用意

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 エレオノーラは帰還したが俺がやるべきことは変わらない。
依頼主がどういう判断を行うにしろ、事前にやるべきことはあるからだ。違うのは方針が決定しないとやるべきではない事があるくらいだろう。金を払えば協力してくれる術師にお伺いを入れるだけならまだしも、ワケ有りの人物にコンタクトを行うのは厳禁だ。勝手に現地にいかれて居座られたら目も当てられない。

ただ、そういう人物に限って特化した能力ゆえに有用だったりする。
タイミング次第で味方にも敵にもなるし、ちゃんと制御できればとても心強い味方になる。だから予め動向を探るのは重要なのだが、キテレツな性格の持ち主やマッドな術師だと迷惑の方が大きくなるのだ。

「……真っ先に調べるべきはエルフだな。周辺地形に詳しく親和性も高い」
 エレオノーラのダンジョンは開拓村を守る位置にある。
相互に協力し合っているのだから、この両者だけならばwin-winの関係であるだろう。問題は森を開拓されたエルフに取っては喜ばしい事では無いはずだ。人間と喧嘩をしたくないから文句を言っていないだけの可能性もある。

だが、本格的な戦いを挑んで来る可能性のある相手でもあるのだ。
これを味方に付けられれば危険度が減るし、周辺が森なのだからその親和性を持って魔力を持ち込んでくれるだろう。中にゴブリンなどの亜人種を追い込んで、村人と一緒に討伐してくれると非常に助かる。死体になって吸収はされてくれないが、持ち込む魔力の質が高いので問題はない。

(話の持って行き方次第だな。開拓する場所を弁えるのは難しいだろうが……)
(森を減らし過ぎない契約とか、エルフにも役立つ薬草を育てることは可能か?)
(その辺りの相談役を兼ねつつ、人間を見張りに来いとか提案してみるか?)
(そういった流れの話を持ち込めるかどうか、現地で調べてもらう必要があるな。一番困るのは無関心ってのが笑えてくる話になるが)
 好意の反対は無関心だと言うが、嫌悪と違って説得し難い。
面白い話だが、嫌悪感を抱いてくれた方が説得する理由になるのだ。現地で行動しているエレオノーラや村人たちにとってもエルフを説得する意味が出て来るのだが、お互いに無関心だと話しかけても特に利益がない。政治でも明確な敵は何とでも出来るが、邪魔になっている中立が一番困るのだという話を聞いたことがある。

ただ、先ほども言った通り勝手に動くわけにはいかない。
もし敵対者で説得する必要があったとしても、エレオノーラの態度次第で話がガラっと変わるからだ。既に開拓村と敵対している場合などは、『お前たちの代理人から話は聞いた。さっさと立去れ』と言ってもしないことを言われかねない。この件で俺が利益を得る必要はないが、依頼人のマイナスを行う訳にはいかないからだ。

(それにダンジョンの中で育てるとしてもな。先約がある可能性もあるし)
 エレオノーラに研究職の友人が居るかもしれない。
その場合は内部で研究し、素材を提供することを約束するだろう。それこそお友達価格で譲り渡す代わりに、共同研究者になりつつ戦力として期待するなどあり得るからだ。

だからこの時点でやるべきは、情報を集めておく程度になる。
他にもいろいろな候補が考えられるが、同行を調べて可能ならばスケジュールを把握できる所まで行ければ理想的だろう。

(最終系としては俺らを含めて四・五人ってとこだな)
(それぞれに目的の違うメンバーを集めて、互いが得る物を得る)
(現地で得をする者、研究する者、ダンジョンを得る者、戦いたい者)
(そういった連中が今のダンジョンを共同で管理して、天然のダンジョンに挑むわけだ。まあ傭兵や契約するモンスター次第かな)
 野良の亜人種がロード級やキング級まで育つ事は少ない。
だが天然のダンジョンを占拠している奴ならそのくらいは普通にあり得るのだ。エレオノーラの一族が完全管理できなくなってどのくらいか判らないが……おそらく、今のダンジョンと類似性があるのではないかと思う。それを考えたら最低でもゴブリンキングが率いる大規模集落を想像しておくべきだろう。

まあダンジョン内部に分散して住んでいるならば、四・五名の術師で何とか出来る相手だ。不意打ちで囲まれないようにちゃんとモンスターの集団か傭兵部隊を用意するのは当然だが、それさえ出来れば少しずつ攻略していくことは難しくない。

(召喚師とレンジャーが居れば攻めるのは三人でも行けるか?)
 やはりエルフが居るとありがたいな。対案も用意しておくべきだな。
種族としての特徴もあり、エルフは森以外でも野伏としてのスキルが高い場合が多い。敵の奇襲を察知し、こちらから狙撃を行える可能性。あるいは精霊を召喚して味方を増やせるという意味でエルフの存在は心強いだろう。

だが、現状では居る可能性が高いレベルでしかない。
雇用主次第な面もあるし、仲間に加えられると断言も出来ない。対案を幾つか並べて、その中で妥当な物を選ぶか、それともリソースを費やして行くかはエレオノーラの決断を待つしかないだろう。

(召喚師……俺の知り合いは郊外向きばかりだな)
(レンジャーの代わりが務まるとしたらあいつか?)
(しかし、あいつはオークで傭兵崩れだからなあ。もめるだろうが……)
(いや、エルフの対案としてなら良いのか。やはり力を入れて探すなら召喚師か、それの代わりになるゴーレム使い……ネクロマンサー……反対される可能性しか見えんな)
 伝手と言う物はどうしても傾向ができるものだ。
人間は一冊の本であり、その人脈は書棚の様であるという。俺の場合はクラウディア人の移民や、アカデミー時代の友人関係が主体だ。一応はこの業界に居て知り合いになったオーク野郎とかも居るが、基本的に能力傾向は限られている。

頼りの召喚師は大柄な鷹やペガサスなどが主体でダンジョンには向かない。
その代案となるゴーレム使いは強力過ぎてダンジョン自体を破壊しかねないし、ネクロマンサーに至っては腐臭のするアンデッドを狭い場所に連れ込むという羽目になるだろう。現時点で俺の動員できる範囲に良い奴が居ない。先ほど口にしたオークの傭兵崩れがマシに見える部類だ。

(まずはエルフを説き伏せるのが第一優先。居なきゃ呼ぶとして)
(あいつはガメツイが金を払ってる間は信用ができる)
(トレジャーハンターだから冒険に必要な薬品類や罠の心もあるのも良い)
(召喚師なりそれの代用可能な術師を探す。最低でも前衛としてナニカを呼べる奴だ)
 俺は順を追って案を詰めていくことにした。
エルフを加入させてレンジャーと召喚師を借りる。それが無理ならばオークのトレジャーハンターで穴埋めし、何らかのモンスターを召喚できる奴を雇用。後はエレオノーラが攻撃魔法を担当し、俺がサポート系の魔法という段取りで何とか行けるだろう。

その上で、今のダンジョン管理も考えるとエルフが最適なのだ。
彼らを仲間に引き入れられない場合は、そちらの面でも誰かうってつけの管理者を探す必要があるだろう。

これらの案をレポートにまとめて俺はエレオノーラの元へと向かう事にした。
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