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3章 後編

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 デソン先生とボーデンが、縛られた女山賊を見ながら勝手に盛り上がっている。

「どうだい、ボーデン君? 今度、僕と縄縛り定石の研究会でもやろうか」

「いいですねぇ。私も新しい技を開発したいと思っているんです」

 ダメだ、こいつら……。俺、早く家に帰りたい。

「ところで、先生はリバーシブの町の方から登って来ていましたよね。どうして、ここまで駆けつけてくれたんですか?」

「ああ。最近、オッパイ剥ぎが活発に出没するって聞いていたから。小遣い稼ぎに捕まえて賞金をもらおうとしてたんだ。暇を見ては街道を巡回して探していたんだけどねぇ。結局、見つけられなくて。君達に先を越されたというわけだよ」

 ふむ。どうやら山賊には、懸賞金がかけられているらしい。
 てっきり、先生はマラソン大会にでも出場するためトレーニングしてるのかと思っていた。やけに街道をバタバタ駆けていたけど、その理由がやっと判明した。

「なるほど。それで走り回ってたんですか。まったく、もう。俺達かなり危なかったんですよ。山賊が出るって知ってたなら、先に教えて欲しかったです」

「それなら昨日、君から二千エノムをもらっただろ。もしかして金を奪われるかもしれないなら、僕が先に預かっておこうと思ってね」

「あれって、そういう意味だったんですか。そんなら返してくださいよ」

「魔法を見せてやった授業料でもらったんだから、返さないよ。あと、残り千エノムもキッチリ払ってもらうから。忘れずに、今週中に支払いに来てくれたまえ」

「相変わらず先生はガメついなぁ」

「そんで、この山賊は村に連行するんだろ? 事件現場が微妙な位置で、刑事裁判の管轄がリバーシブになるかもしれないけど。山を下るよりは、このまま上のハンキングテンダー教会まで送った方がいいと思うな」

「この世界って警察とか無いんですか。どうして教会に?」

「カイホ君は、知らないのかい? 教会の地下には牢獄があって、犯罪者を勾留しておくこともできるんだ。裁判にかけるにしても、村の自治権の管轄内で発生した事件なら教会が法廷になるからね」

 教会が警察署兼裁判所だったのか。
 犯人グループの中にはホル族も混ざっていた。バスチャー村まで身柄を引っ張った方が都合がいいのかもしれない。

「分かりました。どうやって3人を連れて行きますか?」

「亀甲のメスは3号馬車に乗せてしまおう。レモネも一緒に乗って、村まで先に帰っててくれ。そんで定員オーバーになるから、カイホ君は走って帰宅だ」

 馬車は空樽便とはいえ、上り坂だ。3人も乗ると馬も重くてキツイのだろう。
 縛られた女山賊は歩けないし、レモネさんは怪我をしたばかりの身だ。
 2人を乗車させると、消去法で1人が外に弾かれる。

「えぇー!? 俺だけマラソンだなんて、酷いなぁ」

「まだ君は若いんだから、これくらいの距離なんて大丈夫だろう。体力が減ってきたら、自分でヒールでも飲めばいい」

「仕方ないなぁ。まあ、この場所からなら半分くらいか。歩いて帰ってみますよ」

「よし、では行った行った。パイラマ街道ではバスチャーの村人達が、ボーデン君のことをずっと待ちわびているよ」

「そうですね。今日は、かなり遅くなってしまいました。ミルクの買取をしなければなりませんし。では出発します」

「僕は、ここで残りの山賊2人を見張っているから。村から援軍が来たら、一緒にこいつらを連行するよ」

 それから、女山賊はM字開脚のまま馬車に乗せられた。
 さっきまで眠り落ちていたが、また目を覚まして騒ぎ出していた。少しうるさいので、ボーデンが目隠しと猿ぐつわを装着させた。
 山賊に襲われたはずなのに、まるで俺達の方が誘拐犯みたいだな。
 ボーデンが「GOGO」とサンゴーに声を掛け、馬車を発進させた。

 俺は後ろから歩いて付いて行く。馬の方が歩くスピードが早いので、普通にしていると馬車からどんどん離されてる。
 距離が50メートルくらいになったところで、「えっさ、えっさ」とジョギングすると何とか追いつくことができる。疲れたら、また馬車の後ろを歩いて行く。
 こうしてラン&ウォークを繰り返し、置いて行かれないよう足を動かし続けた。

 途中で、村の方から東へと歩いて来る3人組の男と出くわした。ボーデンが黄色の狼煙を上げたので、それを見て駆けつけた南トリカンの私兵団だそうだ。
 彼らに事情を説明し、デソン先生のところに合流して山賊2人を連行してもらうよう頼んでおいた。

「はぁはぁ、ぜぇぜぇ」

 つ、疲れた。たしか、バスチャーからリバーシブまで6kmだっけな。その半分を走ったにすぎないので、マラソン選手からしたら大した距離ではないだろう。
 ただ、俺は日頃から長距離走のトレーニングをしているわけではない。急に走れば息が切れるのも当然だ。
 足でなく腕なら、毎晩のようにオッパイ揉み揉みして鍛えてあるのだが。

 ジョギングを続けること20分くらいだろうか。やっと村が近づいてきた。
 ふと、自分が走ってきた街道の東側を見ると白い煙が上っているのが見えた。
 ボーデンも後ろの方を振り返り、狼煙に気づいたようだ。

「信号がカラーチェンジしていますね。黄色を消火して、白に着火したのでしょう。無事、上手くいったようです」

「そうか、良かった。それで亀甲女は、どうするんです?」

「デソンさん達が戻ったら、賊は3人まとめて教会まで運んでもらうつもりです。それまで馬車の中に軟禁しておきます」

「そんじゃ、今日は俺の役目も終わりかな。ボーデンさん、昨日からお世話になりました。ありがとうございます」

「いえいえ、とんでもない。ではカイホ君、お疲れ様でした。このまま私は、商売の方に戻らせていただきます」

「はい。村人が難民みたいに並んでいますね」

 ミルク樽を抱えた村人が「まだか、まだか?」と言いながら列を作っていた。彼女達にとって、1リットル二百エノムの収入があるかないかで大問題なのだ。
 俺は普段、いつも昼下がりに納品に来ていた。行商人の馬車を訪れる他の客の姿は、まばらしにしか見かたことはなかった。
 こんな午前中から、開店待ちが発生しているとは知らなかったな。
 もう少し遅かったら暴動になりそうな剣幕だ。3号馬車が居ないので、行商人の縄張りを無視して2号車や4号車に客が流れたかもしれない。

 先ほど、ボーデンは山賊に襲われ運転資金を奪われそうになった。そのあと、バッグを持った山賊Bを倒し、どうにか無事に取り返している。
 たしか、普段は二万エノムほど持ち歩いていると聞いたような気がする。行商人にとって、それは大事なミルク仕入資金であり、これが強奪されたら死活問題だ。
 それと同じように、貧しい村人にとっては百エノムが非常に重要なのであった。

 馬車の中から、レモネさんがジェットとニトロを抱きかかえて降りてきた。
 あんな事件があったばかりだから、馬を買ったことなんて忘れかけていた。

「私は治療院に戻ります。カイホ君、ジェリーとニトリを毎日ちゃんと世話しなきゃダメですよ。もし育てられないようなら、ジンギスカンにしちゃうね」

 たしかジンギスカンというのは、マトンとかラムを使った料理のはずだ。
 この世界の人達は仔馬を見ては、そればっかり言って食う気まんまんなのか。本当にしょうもないなぁ。

「ジェットとニトロです。食べるのは、やめてください」

「10%くらい冗談よ」

 やっぱり、9割方は本気のようだ。危険だな。

「俺も疲れちゃったし、真っ直ぐ自宅に向かいます」

 家に帰るまでが遠足だ。ノロ子達には、首輪にロープも装備させてある。馬商人からオプションのサービスで付けてもらった物だ。
 2本を引っ張って、犬の散歩をさせるようにペットを連れ帰ることにした。

「おふたりとも、まいどです」

「お大事にどうぞ」

「いや、レモネさんの方こそ、お大事にしてください。では、また」

 俺は街道の北へ、レモネさんは南へと別れた。
 途中、ジェットとニトロにミルヒールのガソリン補給をしつつ、何とか帰り道を誘導する。仔馬達は、俺のことを親だと思ってくれるようになったかもしれない。ちゃんと付いて来てくれる形になり、助かった。
 街道での山登りマラソンもきつかったが、ペット2頭まとめての散歩も意外と大変だ。やっとのことで、自分の家へと辿り着いた。

 玄関デッキの柵に、ノロバの縄を括りつけて繋いでおいた。
 山賊から奪った覆面は、とりあえず物干し竿に掛けておく。
 ミルドリップで発酵乳をぶっ掛けてしまったから、ベトベトになっている。先に洗濯してから乾かさないと着用はできないだろう。
 それから家の玄関ドアを勢い良く開け、中へと入った。

「ただいま!」

「あらまあ、カイホちゃん。無事に戻ってきて良かったわ」

「おお、カイホ。ちゃんと帰ってきたな」

「お兄ちゃん、お帰り。モミアゲあるの?」

「カー君おかえり」

「坊ちゃま、お帰りなさい」

 家族は、俺を含め全部で9人だ。そのうち5人がダイニングで雁首並べていた。
 他の3人は昼寝でもしているのだろう。基本的に、ホル族の女性は起きている時間より寝ている方が長いからな。
 ダイニングにモーリアとサヒラがいることの方が珍しいのだ。たしか、ミルクを出すと魔力を回復するために眠くなるはずだ。
 母親のモーリアは特に心配していたようだ。積もる話は何個かあるが、オッパイ剥ぎが出た話をすると長くなる。そのことは、しばらく黙っていようと思う。
 姉や妹の態度は、普段とほとんど変わりない。まあ、たったの1日だけ家を空けていたにすぎないからな。

「俺の留守の間、何か変わったことは?」

「ああ、大変だったぞ。散々な目にあった」

 グランがそんなことを言う。一体、何が起きたというのだろうか。

「いえ。今朝セニィがパンを温めようとして、黒焦げになっただけです」

「なんだ、そんなことか」

 サヒラから報告を聞いて、ガタっと気抜けした。

「表面は苦いけど、外側の消し炭を剥がせば中身は普通に食べられたぞ」

 あまり炭は食べない方がいいだろう。発癌性物質を含んでいるかもしれないし。

「お兄ちゃん、カリアゲ! ズボンのポケットに入れてるんでしょ」

 モミアゲだのカリアゲだのと、俺は床屋じゃない。
 ポケットには特に何も入れた記憶は無いが……。

 俺は右手で自分のズボンを触ってみた。何やら布状の物が入っている。
 破れて血痕の付着した巨乳用の白いブラジャー。あー、レモネさんが身につけていた物だ。無意識に、お持ち帰りしてしまったのだろうか。

「これ違う。アキホ用のお土産じゃないから」

「ん、どうしたカイホ? それブラジャーじゃないか。しかも、血まみれだし」

「いや、これはその。ちょっと街道でトラブルがあって。レモネさんのブラだよ」

「なにぃー、さてはオッパイ剥ぎをしてきたのか。とうとう、やっちまったな!」

「そんな。カー君が、メスを襲って出血させるなんて」

「何てことでしょう。坊ちゃまは、魔が差してしまっただけだと思います」

「お兄ちゃんのエッチ!」

「カイホちゃんダメよ。その赤いのはメスの経血なの?」

「そんなことしてねぇー! 今日、ちょっとレモネさんがカマで怪我しちゃったんだ。俺は手当してあげただけだよ」

 家族みんな、酷い誤解っぷりだ。微妙に端折って事情を説明した。

「なーんだ、そんなことか」

「そんで、お兄ちゃん。アキホのアツアゲはどこ?」

「そうだ。アキホ、ちょっと外に来てくれ。この前、お馬さんごっこしただろ?」

 妹のお土産なんて、何も買ってきていない。それどころではなかったのだ。
 そもそも遠足の小遣いとして三千エノムしか持参しなかったが、昨日のうちに無一文になっている。「おみやげ、おみやげ」と催促されると耳が痛い。

 途中で3枚のパンストをゲットしてはいるが、幼女にはサイズが合わず装備できないだろう。とりあえず、新しいペットをお披露目することにした。
 アキホを呼んだのだけど、他のみんなもゾロゾロと付いて出て来た。

「メヒィィィー」

「なんだ、今夜はジンギスカンか」

 ノロバを見て、真っ先にグランがそんなことを口走った。

「ダメ絶対、食べさせない。ノロバ飼おうと思うんだけど、父さんいいかな?」

「どこから盗んで来たんだ? 仔馬でも末端価格一万エノムくらいしたはずだ」

「盗んでなんかないって。今朝、馬市場に行ったんだけど。ボーデンさんが交渉してくれて、売れ残りを安く買い叩いてきたんだ」

「これが本物のお馬さん? かわいい!」

 アキホは、小さな仔馬をひと目で気に入ったようだ。
 帰ってきたときに、家の前に繋いでおいたノロ子達は勝手に草をかじっていた。
 まだ乳離れしていないのかと思っていたが、既に自分で食べられるのか。
 あとは水やミルヒールを定期的に補給してやれば、どうにかなりそうだな。

「これはノロバですね。あと半年も育てれば、アキホお嬢様なら乗馬できるようになるかもしれません」

「カイホちゃんすごいわね。馬なんて普通は、お金持ちの家しか飼えないでしょ。うちも立派になったわ」

 まあ成馬なら、十万エノムとか言われたしな。貧しい村人には、とてもじゃないけど手も足も出ない。こんなペットを飼っているなんて、自慢になりそうだ。
 村の中で女の子に声を掛けて、「あのさぁ。ウチにノロバがいるんだけど、見て行かない?」という口実にも使えるだろう。

「お馬さんごっこしたい!」

 急にアキホがそんなことを言い出した。
 本物の馬に乗ったら、それは「ごっこ」ではない。ただの乗馬だ。
 それに買ってきたノロバは、まだ小さな仔馬だ。120cm級の幼女型巨人が乗ったら押しつぶされてしまうだろう。

「まだ早いって。もうちょっとノロバが成長して大きくなってからじゃないと、いくらアキホが軽くても重量オーバーだ。そんなの、お馬さんが可哀想だろ?」

「いますぐ、お馬さんごっこするの!」

 また、ワガママを言って困った妹だと思った。
 ところが、アキホは地面に両手・両膝をついて四つん這いになった。

「は? アキホの背中に乗せればいいのか?」

 とりあえずジェットを抱きかかえて、アキホの背中の上に置いてみた。

「わーい。お馬さんごっこだ」

「メメメェェー?」

 そっちかい。本物の馬を使うとは斬新な遊びだな。

「そんで、こっちの栗毛がオスでジェットっていう名前だ。白い方がメスでニトロっていうんだ。みんな、可愛がってくれよ」

「ほう、チェンコにトロロか」

「ジッポとメトロっていうのね?」

「お父さんも、お母さんも違うよ。ジェントルとニラレバだって」

 グランとモーリアの言い間違えを訂正しようとして、ハルナが余計に悪化させていた。それに釣られるように、アキホとサヒラも勝手な名前を言い始めた。

「ヘイトとニート!」

「分かりました。ジゴロにメロメロですね」

「こらこら、サヒラ。ヒモ男に惚れて貢いだりしたらダメだからな」

 誰1人として、正しい名前を言っていない。お前ら、俺を殺す気か。
 ライターでも地下鉄でもないんだぞ。5人掛かりでボケをかまされたら、ツッコミが追いつかないじゃないか。しょうもない家族だなぁ。
 長い旅(1泊2日)を終え、そんな家に俺は帰ってきた。

 やっぱり我が家が一番だ。


【第3章 完】


『カイホ:牛人種オス11歳 ONF』
『乳魔術師:ニューメイジ LV15』

『修得済魔法』
『乳房測定:パイサーチ』
『搾乳魔手:パイサック』
『乳房洗浄:パイキュアー』
『乳液注入:ミルドリップ』
『暗視遠乳:パイスコープ』
『回復乳薬:ミルヒール』
『加熱温乳:ヒートミール』
『温乳流滴:ボイリーパイ』
『冷乳水風:チルミル』
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