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二章 《カーラヤー》暮らし二日目。

洗濯。

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 母屋のタンスというタンスをひっくり返し、布巾やタオル、シーツを次々引っ張り出す。

 出したは、いいが……。

「洗濯ってどうやったらいいんだ……」

 洗濯機の電源を入れる事は、できる。できるが、そこからがわからない。なぜなら実家での家事は、母さんが全部していたから。

 時折こうやるんだよ。と教えてもらったがなにも思い出せないあたり、話を聞いていない。

 え、ホントどうしよう。

 手には、タオル類の入った洗濯カゴ。目の前には、ちょっと年季に入った縦型洗濯機。

 洗剤は、粉のヤツが洗濯機の上の棚に置かれている。

 これを入れたらいいのか? 洗濯物の重量? 水の量? なんだそれ。

 スマホをポチポチしながらやり方を調べるが訳がわからない。

 重量? 水の量? で、洗剤の量が変わる?

 なんか洗濯機にメモリらしき物があるけど、それが水の量ってヤツ? 表記リットルだし、たぶんそう。

 電源入れて? 洗濯物入れて? スイッチを押す? 回った。水量出た。で? 洗剤を、入れる。

 表記の通りに洗剤を付属のスプーンで掬うも本当にこの量でいいのか不安になる。

 いや、でも……オモシロ動画とかで泡だらけになった洗濯機とかあるし……どうしたらいいんだ!

「ヒカルにーにー?」

 頭を抱える俺の元に救世主が現れた。

「あかりー! 洗濯ってどうしたらいい!」
「え? 風呂場のとーが開いてるからなんかなーと思ったら……ヒカルにーにー洗濯できないの?」
「うぐっ……!」

 きょとんと首を傾げる救世主にトドメを刺された。

「どーせ、馨おばちゃんに全部してもらってたんでしょー」
「全くもってその通り……」

 やれやれといった様子のあかりーに反論することなく受け入れる。

「仕方ないから教えてあげようねー。部活着自分で洗ってるからちゃんとわかるよー」

 えへんと胸を張る姿は、俺からしたら頼もしい。

 これがちゃんと部活動に励む運動強者の姿か……美術部もとい漫画部の幽霊部員だった俺とは、大違いだ。

「電源押してー、重さはかってー、水量出たら洗剤入れるだけ。なんだけど、ほとんどできてるねぇ。なにで悩んでたの?」
「いた、洗剤この量でいいのかって……だってさ、洗濯物の量に対して、スプーン一杯って少なくない? こんなにあるのに……靴洗ったことあるけど、泡たたねぇじゃん」

 洗濯をした事は、ないけど靴を洗った事はある。

 濡れた靴にさらさらと洗剤をかけても泡が立たず、これでもかと振りかけて洗っていたのだ。

 汚れが落ちるか不安になる量である。

「靴はねぇ……汚れてるからねぇ……でも、靴もそんなに洗剤使わなくていいんだよー。ヒカルにーにー心配しすぎ」
「そうなんかなぁ……」
「洗剤いっぱい使った靴濯ぐの大変だったでしょ!」
「……確かに」

 思い出せば全然泡がなくならなかった気がする。

「じゃあ、あかりーの言うとおりにしようかな」
「そうしてそうして。よけーな事はしない!」
「はい」

 年上の威厳が昨日に続き行方不明だった。
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