赤瓦屋根の古民家≪カーラヤー≫暮らし

華世良せら

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一章 《カーラヤー》暮らし一日目。

一人の時間。

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「もー! ゴキブリの死骸くらいで叫ばないでよー!」

 俺の叫び声に母屋から出てきたあかりーに怒られる。

「でも、小さいのじゃないじゃん! でっかいやつだし! 生きてたらって!」

 年下の女の子に片づけてもらって情けないことだが、本当に無理なのだ。

 飛ぶし、でかいし、顔をめがけてくるし!

 なんで沖縄のゴキブリは、五センチくらいあるんだ!

「そんなんじゃここで暮らせないよー? 夏とかすごいし」
「今からでも帰えりたい……」

 覚悟は、してた。していたけど、直接見るとゾワゾワする。

「もー、そんなことでどうするのー。がんばれー、ヒカルにーにー!」
「……頑張る」

 すでに今月分の小遣いはもらっている。頑張るしかなかった。

「ふふふっ、その調子!」
「うわっ!」

  肩バシッと叩かれ、思わず体がよろめく。

 インドアな俺と違って、根っからの田舎っ子で運動部なあかりーの力強さよ。

 小柄な体のどこにそんな力があるのか……俺がひょろいだけか……。

 自分の軟弱さに肩を落としていると、あかりーが自分の荷物を持ってきて、自転車に股がった。

「それじゃ、あかりーは、帰るねー」

 空は、まだ明るいが時間を確認すればすでに四時を過ぎている。

 部活の時間よりは、早いだろうが中学生が一人で帰るには、ちょうどいい時間かもしれない。

 それに正徳おじさんが心配するだろうし、遅くなれば動かない体で迎えにきそうだ。事故とか怖いし、これくらいで帰ってもらおう。

「わかった。手伝ってくれてありがとう。助かったよ」
「えへへ、どういたしまして! あ、そうだ。冷蔵庫にヒラヤーチーの残りと夕飯作ってあるから食べてね」

 ……至れり尽くせりか。

 ニカッと笑って帰っていくあかりーを見送りながら思う。

 俺……今日、年上らしい事したっけ?

 ほとんど面倒を見てもらったのでは?

 三つも下の従妹に。

「ふがいねぇ……」

 思わず頭を抱えるもやっちまった事は、仕方ないと気を取り直す。

「……早いけど、戸締まりしよ」

 半分くらい閉めておけば、暗くなっても楽だろう。なんて思考を放棄しながら、引き戸を家の中から閉めていけば、裏座に回ったと同時に裏山からの木々のざわめきが聞こえてきた。

「……良い音」

 市街地も市街地の那覇では、滅多に聞こえない音。

 公園や大きな木のある庭だったら聞こえるだろうけど実家の周囲は、完全な住宅街で木が少ない。

 だから、この家の裏座に聞こえる木々の音は、新鮮でどこか心地の良い音のように聞こえた。 

「……もう少しくらい聞いても良いかな」

 縁側に腰掛け、風に揺れる木々を眺める。

 ゆったりとした心地の良い時間にこれからの不安や今までの悩みが和らいでいくような気がした。
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