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一章 《カーラヤー》暮らし一日目。

昼ごはん。

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 二人で協力して掃除を終らせると昼を越えて、二時近い時間になっていた。

 頑張った甲斐もあって綺麗になった部屋を見渡すと清々しい気分になる。

 部屋の襖も全開だから広々としているのも清々しい要因の一つだろう。

「あー、スッキリしたけど腹減ったなぁ」

 なんだかんだと集中していたから忘れていたが、昼飯を抜いているので空腹感がすごい。

 今から買いに行かないとかぁ……と思っていたら、あかりーが台所の冷蔵庫を開けた。

「ヒラヤーチーでいいー?」
「えっ? 材料あるの?」
「うん。ヒカルーにーにーの事だからご飯の事忘れてるかもと思ってー」

 耳が痛い。事実、すっかり忘れていたからだ。

「すぐに作るから待っててね」
「……手伝うよ」

 来た時に持っていたビニール袋をゴソゴソと漁るあかりーに思わず言葉が出る。

「えー、いいよー。ネギ切って、ツナと水と小麦粉混ぜて焼くだけだし。座って待っててー」

 が、あっさり断られてしまった。

 三つも年下の女の子に任せきり……なんと情けない事だろう。

 しかし、邪魔になりたくなかったので大人しく三番座にある座卓に座りながらボンヤリと出来上がるのを待つ。

 ネギを切る音のあと、時間を置かずにツナの混じった生地が焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。

「お待たせー」

 香ばしい匂いに空腹感がピークを迎えた頃、ヒラヤーチーの乗った皿を持ったあかりーが台所から出てきた。

「先食べていいよー」

 ヒラヤーチーの乗った皿と箸。そして、とんかつソースを置いて台所を戻っていくあかりーを見送る。

 なにも、なにもすることがない。

 だけど腹が減ったのは、事実。

「……いただきます」

 薄焼きでネギとツナだけの具が入ったシンプルなヒラヤーチー。とんかつソースをかけ、味の濃くなったそれを頬張れば、口の中を塩分とうま味が埋め尽くす。

 あー、うめぇ。これだこれ。

 お好み焼きやたこ焼きみたいな粉ものも好きだけど、小さい頃から昼飯やおやつで食べてきたこれがしっくりくる。

「もう一枚焼けたよー」
「ん、ありがと」

 最初の一枚をペロッと平らげると新たな一枚が追加される。

「あかりーは、食べてるのか?」
「うん。つまみながら作ってるよ」

 一人だけ食べてるのは、申し訳なかったのでそれを聞いて安心する。まあ、こっちは座って食べて、あっちは立ったまま食べてるから申し訳ないんだけど。

 薄焼きのヒラヤーチーを一枚二枚と次々食べ、五枚目くらいでいい感じに腹が満ちてくる。

「あかりー。食ったから変わるよ」
「いいのー? じゃあ、お願いしようかな」

 次の一枚を焼きながらヒラヤーチーを食べているあかりーと交代して、ヒラヤーチーを焼いていく。

 焼いていくはずだったんだけどなぁ……。

「意外と難しいな……」

 ひっくり返そうとしてぐちゃぐちゃの塊になったヒラヤーチーに黄昏た。

 焼くだけだから簡単だと思ったんだ。思ったんだけど……水が多めの柔らかい生地が思ったより強敵で、フライ返しでひっくり返そうとしてしてもヨレる。

 それを直そうとするとさらにヨレていき、最後にはぐちゃぐちゃの塊になっていくなんて……。

「あー、やっぱりぐちゃぐちゃになってるー」

 落ち込む俺の元にあかりーが三番座から顔を覗かせてくる。

「意外と難しいんだよねぇ……あかりーもしょっちゅう折ったり、ヨレるもん」
「……初心者には、荷が重かった」

 あれだけ綺麗に焼けるあかりーでさえ失敗することもあるなら、料理なんて調理実習でしかしたことない俺には、荷が重すぎる。料理を嘗めていた俺の敗北だった。

「ほら、変わるから。それは、自分で食べてね」

 あかりーは、塊のヒラヤーチーを俺の皿に乗せると三番座に戻るように入り口を指差す。

「……わかった」

 戦力外通告を受け、俺は肩を落としながら三番座へと戻ったのだった。
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