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二章:旅立ちの夏
26.出発の日
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「ジャン。準備は、いいか?」
「はい!大丈夫ですシルヴァン様!」
よく晴れた夏の日。僕は、シルヴァン様と故郷を後にする。
「シルヴァン様。どうか、ジャンをよろしくお願いします」
「ああ、任された」
自身の愛馬……芦毛のエクレールに乗ったシルヴァン様に父さんが頭を下げるのを、僕は繁殖を引退する事になったクロネに乗って見ていた。
「ジャン。シルヴァン様に迷惑をかけるんじゃないぞ」
「わかってる」
「どうか元気でね」
「うん」
心配そうな父さんと母さんに見上げられながら、言葉を返す。
「ジャン!都会が合わないと思ったら帰ってくるんだぞ!」
「すぐに帰ってきたら笑ってやるからな!」
「もし、帰ってくるならお土産よろしくー」
「私のもねー」
優しいダミアン兄ちゃん。
いつも通りに見えて激励してくれてるっぽいジャック兄ちゃん。
そして、いつも通りなマルセル兄ちゃんとアニー姉ちゃん。
そんな兄弟達の中に、お嫁にいったエマ姉ちゃんだけが居なかった。
シルヴァン様に近寄らないよう父ちゃんから禁止令出されてるから仕方ないけどね……。
最後まで締まらない家族だなー。なんて、思いながら小さく笑ってしまった。
「それじゃあ、いってきます!」
「ああ、頑張ってこい」
笑顔でみんなに手を振れば、みんなが振り替えしてくれる。
「もう、いいのか?」
「はい!」
シルヴァン様の問いに頷けば、シルヴァン様はエクレールに歩くように指示を出す。
牧場から村へ続く道を進みだしたシルヴァン様に着いていくように僕もクロネに指示を出し、その後ろへと続く。
二頭の馬が牧場を出て、村へと差し掛かる道で、村の方に一人の人影が見えた。
それは、遠目だったけどエマ姉ちゃんのようで、手を振れば、手を振り返してくれる。
「話していくか?」
「……大丈夫です。行きましょう」
あまりにシルヴァン様を待たせるわけにもいかないし、エマ姉ちゃんも来るとは思ってないだろうから大丈夫だろう。もし、ここに帰ってきた時に怒られたらその時はその時だ。
「わかった」
村へ続く道ではなく、その反対に向かうようにシルヴァン様がエクレールを進めた。
その後に続けば徐々に村から離れて、領都まで続く街道へと変わっていく。
この辺りまでなら、調教の一環としての遠乗りで来たことがあるが、これ以上は僕にとっては未知の土地だった。
「この辺りからは、人も少なくなるし街道を逸れて馬を走らせる事になるが……大丈夫そうか?」
「僕は大丈夫ですが……クロネは、長い間繁殖牝馬だったので、少しペースを緩めてもらえると嬉しいです」
長らく繁殖牝馬として、母馬をしていたクロネだが、今年の種付けでは受胎せず、歳の若い繁殖牝馬も増えた事から父さんと領主様で引退させる事が決まっていた。
本当は、秋口までは牧場に置いておいて、その頃に肉として潰す予定だったのだが……シルヴァン様が僕を連れていく際の馬が欲しいと、領主様にお金を払って買い取ってくれたのだ。
僕としては、クロネが助かった事は嬉しいと感じるけど……予定より早く母馬から離され、牧場に残されたクロネの524は可哀想だとも思ってしまう。
「……ジャン?」
僕がクロネの足を止めた事に気づいたシルヴァン様がエクレールを操って引き返してくる。
「あ、すみません……ちょっと、残されたクロネの524の事考えちゃって……寂しくないかなって」
「ああ、確かにあの子には可哀想な事をした。君と母親を同時に奪ってしまったのだからな」
僕の言葉にシルヴァン様が頷く。
「だが、あのままクロネを牧場に置いておいても未来はなかった。あんないい子を産める母馬だ。一度の不受胎で処分するには勿体無い」
シルヴァン様の言葉に首を傾げる。勿体無い?シルヴァン様は、僕の足としてクロネを買い取っただけじゃないのだろうか?
「……?クロネは、繁殖を引退させるんじゃ……」
「いや?大変だとは思うがもう少し頑張ってもらおうと思ってな。繁殖として引き取ってくれそうな場所が一つある」
そう言ってシルヴァン様は、どこか楽しそうな笑みを浮かべた。
「はい!大丈夫ですシルヴァン様!」
よく晴れた夏の日。僕は、シルヴァン様と故郷を後にする。
「シルヴァン様。どうか、ジャンをよろしくお願いします」
「ああ、任された」
自身の愛馬……芦毛のエクレールに乗ったシルヴァン様に父さんが頭を下げるのを、僕は繁殖を引退する事になったクロネに乗って見ていた。
「ジャン。シルヴァン様に迷惑をかけるんじゃないぞ」
「わかってる」
「どうか元気でね」
「うん」
心配そうな父さんと母さんに見上げられながら、言葉を返す。
「ジャン!都会が合わないと思ったら帰ってくるんだぞ!」
「すぐに帰ってきたら笑ってやるからな!」
「もし、帰ってくるならお土産よろしくー」
「私のもねー」
優しいダミアン兄ちゃん。
いつも通りに見えて激励してくれてるっぽいジャック兄ちゃん。
そして、いつも通りなマルセル兄ちゃんとアニー姉ちゃん。
そんな兄弟達の中に、お嫁にいったエマ姉ちゃんだけが居なかった。
シルヴァン様に近寄らないよう父ちゃんから禁止令出されてるから仕方ないけどね……。
最後まで締まらない家族だなー。なんて、思いながら小さく笑ってしまった。
「それじゃあ、いってきます!」
「ああ、頑張ってこい」
笑顔でみんなに手を振れば、みんなが振り替えしてくれる。
「もう、いいのか?」
「はい!」
シルヴァン様の問いに頷けば、シルヴァン様はエクレールに歩くように指示を出す。
牧場から村へ続く道を進みだしたシルヴァン様に着いていくように僕もクロネに指示を出し、その後ろへと続く。
二頭の馬が牧場を出て、村へと差し掛かる道で、村の方に一人の人影が見えた。
それは、遠目だったけどエマ姉ちゃんのようで、手を振れば、手を振り返してくれる。
「話していくか?」
「……大丈夫です。行きましょう」
あまりにシルヴァン様を待たせるわけにもいかないし、エマ姉ちゃんも来るとは思ってないだろうから大丈夫だろう。もし、ここに帰ってきた時に怒られたらその時はその時だ。
「わかった」
村へ続く道ではなく、その反対に向かうようにシルヴァン様がエクレールを進めた。
その後に続けば徐々に村から離れて、領都まで続く街道へと変わっていく。
この辺りまでなら、調教の一環としての遠乗りで来たことがあるが、これ以上は僕にとっては未知の土地だった。
「この辺りからは、人も少なくなるし街道を逸れて馬を走らせる事になるが……大丈夫そうか?」
「僕は大丈夫ですが……クロネは、長い間繁殖牝馬だったので、少しペースを緩めてもらえると嬉しいです」
長らく繁殖牝馬として、母馬をしていたクロネだが、今年の種付けでは受胎せず、歳の若い繁殖牝馬も増えた事から父さんと領主様で引退させる事が決まっていた。
本当は、秋口までは牧場に置いておいて、その頃に肉として潰す予定だったのだが……シルヴァン様が僕を連れていく際の馬が欲しいと、領主様にお金を払って買い取ってくれたのだ。
僕としては、クロネが助かった事は嬉しいと感じるけど……予定より早く母馬から離され、牧場に残されたクロネの524は可哀想だとも思ってしまう。
「……ジャン?」
僕がクロネの足を止めた事に気づいたシルヴァン様がエクレールを操って引き返してくる。
「あ、すみません……ちょっと、残されたクロネの524の事考えちゃって……寂しくないかなって」
「ああ、確かにあの子には可哀想な事をした。君と母親を同時に奪ってしまったのだからな」
僕の言葉にシルヴァン様が頷く。
「だが、あのままクロネを牧場に置いておいても未来はなかった。あんないい子を産める母馬だ。一度の不受胎で処分するには勿体無い」
シルヴァン様の言葉に首を傾げる。勿体無い?シルヴァン様は、僕の足としてクロネを買い取っただけじゃないのだろうか?
「……?クロネは、繁殖を引退させるんじゃ……」
「いや?大変だとは思うがもう少し頑張ってもらおうと思ってな。繁殖として引き取ってくれそうな場所が一つある」
そう言ってシルヴァン様は、どこか楽しそうな笑みを浮かべた。
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