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二章:旅立ちの夏
25.不機嫌な子馬
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シルヴァン様と一緒に行く事が決まり、その日は、父さんに僕を連れていく事を伝えて、シルヴァン様は領都へと帰っていった。
「気に入られていたとはいえ……本当に、シルヴァン様の所へと行く事になるとはな……」
シルヴァン様が帰った後、父さんは呆然と呟きながら僕の頭を撫でた。
「まだ、二週間あるが……頑張ってくるんだぞ」
どこか寂しそうな顔をする父さんに、忙しくてかまってもらえない事が多かったけど、やっぱり子供が自分の元を離れるのは寂しいのだなぁ。と、思った。
それから数日が経ち、旅立ちの日は刻々と近づいている。
それだというのに、毎日が過ぎるのが遅いように感じ、今か今かとその日になるのを待っていた。
「ふふふーん」
いつもの馬房の掃除を機嫌よく、鼻歌を歌いながらこなしていく。
毎日毎日、浮かれている僕に他の兄弟は呆れ、特にジャック兄ちゃんには、度々小突かれた。
「お前、お貴族様のところに行くからって調子乗るなっての!」
ジャック兄ちゃんからしたら、末っ子の僕がシルヴァン様と一緒に行くのは面白くないんだと思う。たまーに村の外に出たいって言ってるから特にね。
でも、小突かれるのも後少しの辛抱って思うと気にならない。まあ、離れると少し寂しいって気持ちは湧くかもしれないけどね。
そんな感じで毎日ご機嫌に過ごしている僕だけど、それを面白くないと思うのがもう一人……というか、一頭。
「うわっ!?ちょ、止めてよ!」
ただ者ではない子馬クロネの524だ。
ご機嫌な僕を見かける度にシャツを咥えるようになってしまったのだ。母馬のクロネが居ようともである。
「もー……そんなに僕が嬉しそうなのが嫌なの?」
なんとか、咥えられたシャツを離させて、その顔を撫で繰り回せば、その通りだとでも言うように鼻を鳴らす。
こういう仕草を見ると本当に言葉を理解してるんじゃないかと思う。
「うーん……嫌かぁ。でも、もう決まった事だから。僕が厩舎街に行くの。だから、喜ぶなって言う方が無理なんだよー」
不服そうながらも、撫で回されるのを良しとするクロネの524に言い聞かせる。
「もう一週間切ってるし……こうやってじゃれられるのも今のうちだから許しちゃうけどね……って、うわぁっ!」
僕の言葉を聞いて、手を振り払うクロネの524。……本当に理解してる?
「もー……一度行ったら、帰ってこれるかわからないんだから、残りの期間くらい可愛がらせてよ」
なんて、言って手を伸ばせばまた触らせてくれるからよくわからない子だ。
「……もし、僕が帰ってこれなくても、君が競走馬になれたら会えるはずだから、頑張ってシルヴァン様や領主様に認められる馬になってね」
どんな賢い子であっても、本当は理解できないだろうけど、なんとなくそう告げる。
「ジャーン!掃除終わったかー?」
「ごめーん!あと、もうちょっと!」
通路の奥からダミアン兄ちゃんの声が聞こえて、慌てて言葉を返す。
「ごめん、また後で遊ぼうね」
掃除に戻る前に、もう一度クロネの524の頭を撫で、僕は敷き藁を乗せた手押し車を押すのだった。
「気に入られていたとはいえ……本当に、シルヴァン様の所へと行く事になるとはな……」
シルヴァン様が帰った後、父さんは呆然と呟きながら僕の頭を撫でた。
「まだ、二週間あるが……頑張ってくるんだぞ」
どこか寂しそうな顔をする父さんに、忙しくてかまってもらえない事が多かったけど、やっぱり子供が自分の元を離れるのは寂しいのだなぁ。と、思った。
それから数日が経ち、旅立ちの日は刻々と近づいている。
それだというのに、毎日が過ぎるのが遅いように感じ、今か今かとその日になるのを待っていた。
「ふふふーん」
いつもの馬房の掃除を機嫌よく、鼻歌を歌いながらこなしていく。
毎日毎日、浮かれている僕に他の兄弟は呆れ、特にジャック兄ちゃんには、度々小突かれた。
「お前、お貴族様のところに行くからって調子乗るなっての!」
ジャック兄ちゃんからしたら、末っ子の僕がシルヴァン様と一緒に行くのは面白くないんだと思う。たまーに村の外に出たいって言ってるから特にね。
でも、小突かれるのも後少しの辛抱って思うと気にならない。まあ、離れると少し寂しいって気持ちは湧くかもしれないけどね。
そんな感じで毎日ご機嫌に過ごしている僕だけど、それを面白くないと思うのがもう一人……というか、一頭。
「うわっ!?ちょ、止めてよ!」
ただ者ではない子馬クロネの524だ。
ご機嫌な僕を見かける度にシャツを咥えるようになってしまったのだ。母馬のクロネが居ようともである。
「もー……そんなに僕が嬉しそうなのが嫌なの?」
なんとか、咥えられたシャツを離させて、その顔を撫で繰り回せば、その通りだとでも言うように鼻を鳴らす。
こういう仕草を見ると本当に言葉を理解してるんじゃないかと思う。
「うーん……嫌かぁ。でも、もう決まった事だから。僕が厩舎街に行くの。だから、喜ぶなって言う方が無理なんだよー」
不服そうながらも、撫で回されるのを良しとするクロネの524に言い聞かせる。
「もう一週間切ってるし……こうやってじゃれられるのも今のうちだから許しちゃうけどね……って、うわぁっ!」
僕の言葉を聞いて、手を振り払うクロネの524。……本当に理解してる?
「もー……一度行ったら、帰ってこれるかわからないんだから、残りの期間くらい可愛がらせてよ」
なんて、言って手を伸ばせばまた触らせてくれるからよくわからない子だ。
「……もし、僕が帰ってこれなくても、君が競走馬になれたら会えるはずだから、頑張ってシルヴァン様や領主様に認められる馬になってね」
どんな賢い子であっても、本当は理解できないだろうけど、なんとなくそう告げる。
「ジャーン!掃除終わったかー?」
「ごめーん!あと、もうちょっと!」
通路の奥からダミアン兄ちゃんの声が聞こえて、慌てて言葉を返す。
「ごめん、また後で遊ぼうね」
掃除に戻る前に、もう一度クロネの524の頭を撫で、僕は敷き藁を乗せた手押し車を押すのだった。
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