シュヴァール国競馬伝~平民生まれの少年騎手は、貴族社会の競馬界で旋風を巻き起こす~

華世良せら

文字の大きさ
上 下
20 / 32
二章:ジャンという少年

19.将来が楽しみな子

しおりを挟む
「クロネの524ー。ブラシしてあげるよー」

 ブラシを持って訪れたのは、クロネの524の馬房。

 他の子のブラシもするつもりだけど、午前中に約束した彼を待たせている自覚があったからだ。

「うわっ、ごめんごめん」

 掃除した時はいい子にしてたのに、ブラシを持っている僕を見て、じゃれていいと判断したのか僕の腕に擦り寄ってくる。

 子馬といえど、体重は僕より重い。本気でじゃれつかれて転んだことがあったからか、それ以降は僕がよろけない程度の力に加減してくれてくれているこの子はやはり賢い。

「ブラシしようね」

 母馬であるクロネが居ないこともあって、寂しさもあるんだろうなと思いながらその頭を撫でれば、もっと撫でろと軽く頭を押しつけられた。

「これじゃ、ブラシできないよー」

 子馬らしい甘えた動きに笑いながら、頭や首を撫でてあげる。

 撫でるついでに、ブラシを持った手で、首筋をブラッシングしてあげたら嬉しそうに鼻を鳴らし、尻尾が緩やかに揺れた。

 クロネの524とじゃれながらブラシをかけていく。

 こういう時、名前を呼んであげたいのだけど、僕らが彼らに名前をつけることはできない。

 競走馬になる子の名前は、領主様が。乗用馬になる子や軍馬になる子達は、その主達が名前をつけるからだ。

 僕達が名前をつけれるのは、この牧場で繁殖に回る子達だけ。ヴァロワラファールの母馬リラや、この子母馬のクロネは父さんが付けている。

 まあ、繁殖に入る前に競走馬だった牝馬とかは、領主様が名付けた子もいるんだけど。

 そういう子は、領主様の競走馬とわかるようにヴァロワという冠名が個別の名前の前についている。

 ヴァロワラファールのヴァロワが冠名、ラファールがその子の個別の名前となるわけだ。

 だから、ヴァロワラファールの管理を任されているシルヴァン様はラファールと普段は呼んでいるらしい。

「君は、なんて名前になるんだろうね」

 ブラッシングを終え、僕の周りを甘えるように回るクロネの524を見ながら呟く。

 僕は、彼がすごい競走馬になると思っているけど、領主様に選ばれるかはわからない。

 ただ、牡馬だから、ずっとこの牧場にいる事はないだろう。

 乗用馬や軍馬、馬車馬になったらこの牧場に戻ってくる事はない。

 競走馬だったら、繁殖用の種牡馬として戻ってくる可能性もあるが、種牡馬は領地の別の牧場で飼育されているから難しいかもしれない。

「でも……君が、競走馬になれたら、また会えるかもね」

 僕がシルヴァン様と王都の近くにある厩舎街に行ったとしても、この子が競走馬になれれば、その活躍をすぐ側で見る事ができるかもしれない。その事がただただ、楽しみだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...