シュヴァール国競馬伝~平民生まれの少年騎手は、貴族社会の競馬界で旋風を巻き起こす~

華世良せら

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二章:ジャンという少年

13.次兄と三兄

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「遅いぞジャン!」

 洗い場に着くとやはりというか、ジャック兄ちゃんに怒られた。

「ミルクあげてたんだよ!仕方ないじゃん!」
「なんだとー!たっけー魔導具扱えるからって偉そうに!」

 理不尽な怒りに反抗したら、より理不尽な怒りと共にジャック兄ちゃんからヘッドロックをかけられた。

 これだからジャック兄ちゃんは嫌なのだ。

「うわぁああああ!痛い痛い痛い!」

 加減はされているものの、三歳上の兄弟には力では叶わない。ジャック兄ちゃん成長期真っ只中。僕は、未だに成長期がきていないチビッ子。力ずくで逃げる事はできないのだ。

 でも、いつか兄ちゃん達より大きくなってみせる。

 うちは裕福な方だからか、兄ちゃん達も大きい方だし、僕だって大きくなれるはずだからね!

 そしたら、ジャック兄ちゃんにお返ししてやる!

 そんな事を思ってたら、重種馬を連れてきたマルセル兄ちゃんが僕らの様子を見て、呆れたように呟いた。

「はぁ……なに遊んでんだ」

 基本的のんびりしているマルセル兄ちゃんだからか、叱るという事はしない。さすがに危ない事をしたら怒るけど……これくらいは男兄弟だとよくある事だからジャック兄ちゃんを叱ってはくれないのだ。

「ほら、まだ三匹放牧場で泥だらけだから、さっさとやるぞー」
「はいはーい」
「いたた……はーい」

 叱ってはくれないけど、仕事を促してはくれるので、なんとかジャック兄ちゃんから解放される。

「俺が水かけてくから、ジャンはジャックと一緒にブラシな」
「うん」

 連れてきた子を繋ぎ石に繋いで、マルセル兄ちゃんが僕へと柄の長いブラシと手に収まる程度のブラシを渡してくる。

 泥が乾いていたら鉄のブラシでゴリゴリ削って落とすんだけど、今はこれで十分なドロドロ感。すっごい楽しんできたみたいだ。

「さ、急ぐぞ。今日の天気だと、乾くの早いからな」
「はーい」
「はーい」

 マルセル兄ちゃんの言葉に僕とジャック兄ちゃんは頷いて、ブラシを構える。

 昨日は、ドシャ降りだったんだけど、今日は憎たらしいほどの晴天。

 どれだけ急いでも、最後の子はカッピカピになっているのは間違いない。

 だけど、ゆっくりしていたらカッピカピな子が二匹、三匹……と、増えていく。

 そしたら、固まった泥を落として、水をかけて、さらにブラシで磨かなきゃいけないからそれを避けるためにスピード勝負となる。

 気合いをいれた僕達は、マルセル兄ちゃんがバケツで水をかけた子の体を僕とジャック兄ちゃんは必死にブラシで擦るのだった。
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