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二章:ジャンという少年

12.末っ子は辛い

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「はいはい、ミルクだよー」

 産まれたばかりの子馬は、哺乳器を使う必要があるけど、春の始めに産まれ初夏もほとんど過ぎた子達は、ミルク桶に注がれたミルクを自分で飲めるから世話は楽な方だ。

 でも、哺乳器を使ってミルクをあげるのも楽しかったりするんだよね。つぶらな瞳がミルクを飲みながら見上げてくるのが可愛いんだ。まあ、あまり構いすぎると人慣れしすぎてダメなんだけど……。

 産まれたばかりの子馬を構いすぎて怒られたのを思い出しながら、馬房に備え付けられたミルク桶にミルクを注ぎ、ミルク缶が空になったら二つ目のミルク缶を取りに行く。

 それを三つ目、四つ目と繰り返して、ほとんどの馬房にミルクを注ぎ終わったところで、最後の一頭が僕のシャツの裾が引っ張られた。

「ダメだよ。クロネの524」

 僕がそうして注意すれば、彼は、フン!と、鼻を鳴らし、噛んでいた僕のシャツの裾を離す。

「まったくもう……」

 あの日、人知れず産まれようとしていた子馬は、遅く産まれながらも自我が出てくるのが早く、こうして悪戯をする事が多い。

 母馬のクロネがいる時や大人には、いい子にしているのだけど……なぜだか、僕だけの時は毎回のように裾を噛まれる。

 だからといって、言う事はちゃんと聞いてくれるので舐められているわけではないんだけどね。

「……後で、遊んであげるからいい子にしててね」

 頭を撫でれば、もっと撫でろと押しつけてくる姿が可愛いんだ。

 ややわがままな子だけど、手がかかる方が可愛いと思ってしまうのは、なぜだろう。なんだかんだ賢く、強くなりそうだと確信を持てる子って言うのもあるのかな?

 まあ、今年生まれた競走馬の中で、僕が一番気にしている子。と、言うことは間違いない。の子をシルヴァン様に見せるのが楽しみだと思いながら、空になったらミルク缶を抱えて、作業部屋へと向かう。

「あ、ジャン。それ洗ったら、マルセルのとこ手伝ってくれ。放牧してた重種馬達が昨日の雨でできたぬかるみで遊んで大惨事らしい」

 通路を歩いていたら、僕に気づいたダミアン兄ちゃんが声をかけてくる。次から次へと仕事は尽きない。

「はーい!」

 ダミアン兄ちゃんに返事をして早足で作業部屋に駆け込み、ミルク缶を洗って干しておく。

 急いでいるのは、泥だらけだろう子達の泥が乾いたら、落とすのが大変だからだ。たぶん、マルセル兄ちゃんだけじゃなくて、ジャック兄ちゃんもいると思うから遅れたら怒られるんだよね。

 歳が離れているダミアン兄ちゃんやマルセル兄ちゃんは優しいんだけど、歳の近いジャック兄ちゃんや姉ちゃん達は僕の事を好きに使える子分としか思ってないのだ。

 エマ姉ちゃんはお嫁に行ったからもう怖くはないんだけど……その分エマ姉ちゃんから解放されたアニー姉ちゃんが強くなっちゃったから末っ子の扱いは相変わらずなんだよね……。

 末っ子は辛い……。そんな事を思いながら、僕は放牧場近くの洗い場へと走るのだった。
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