シュヴァール国競馬伝～平民生まれの少年騎手は、貴族社会の競馬界で旋風を巻き起こす～

序章

0．時代の流れと最終実況

　地に魔物が闊歩し、空にドラゴンが飛ぶ世界であっても人は馬に乗る。

　たとえ他に騎獣となる生物がいても、人は草を食み、冬の厳しさにも堪える馬を好んだ。

　畑を耕す供《とも》に、戦場を駆ける従《とも》に、果てのない旅の友《とも》に。

　人々の生活に欠かせない存在。そして、それは同時に娯楽にも影響してくる。


　競馬。


　速く、強い馬を競わせるこの競技も、人と馬が存在するのであれば、世界が違えど生まれるのは必然であろう。

　最初は、速い軍馬を競わせるだけだったものが、速さを競うために競走馬としての血統にこだわるようになった。

　レースも平原を走るものから、専用のコースを走るものへと変わった。

　やがて、強い馬を所有する事は貴族としてのステータスにもなっていく。

　そして、貴族の嗜みであり、娯楽でもあるこの競技に一人の平民生まれの少年が足を踏み入れる事になるのも、時代と共に変わりゆく競馬の流れと考えるのであれば必然だったのかもしれない。





『シュネルミラージュ大きく先頭を保ったまま直線に入った！後続はまだ第四コーナーを曲がっている！

　このまま独走状態が続くのか！いや、ここで大外からケルンフルーヴが迫ってきた！

　残り四百メートル！ケルンフルーヴ猛追！他の後続はまだ届かない！一着争いは二頭のみ！

　逃げるシュネルミラージュ！追うケルンフルーヴ！残り二百メートルを切り、一馬身差に迫る！

　ケルンフルーヴ前走での雪辱を張らせるか！あと半馬身！しかし、シュネルミラージュ粘る！粘る！粘る！

　粘ったままゴーーーーールイン！

　最強三歳馬！鞍上のジャン＝マルス騎手と共に一年の締めくくりとなるこのレースをアタマ差で勝利しました！』