上 下
9 / 12
Re:First fortune 「廻り始める運命」

死神VS無銭飲食

しおりを挟む
 そこからのヘルは酒を飲む勢いが止まらず、時折呂律の回ってない訳の分からぬ呪文を口ずさむ謎の機械と化していた。 

 「……はぁ仕方がない、完全に手が付けられなくなる前に切り上げるか、帰るぞヘル」
 「あ、ふぁあい」

 閉店が近いのか店内も静かだし、迷惑になる前にここを出よう。
 オレはヘルに肩を貸しながら店の会計へと向かった。

 「すみません、会計をお願いします」
 「…………」
 
 ……誰もいない?
 オレはヘルを椅子に座らせてカウンターを覗いてみる。

 「何だ?誰もいないのか…………えっ?」

 カウンターの下に会計係が倒れて――これは血!?――その時だった。
 背後から溢れ出る強烈な殺気と悪寒に押されオレは反射的にその場にしゃがみ込んだ。
 それとほぼ同時に後ろからの強烈な風切り音と共にカウンターが真っ二つに切断されて慌てて振り返る。
 そこにはオレの背丈を超える大鎌を構えたこの世のものとは思えない狂気を醸し出した漆黒のボールガウンに身に纏う気味の悪い女が立っていた。

 「カカカ、外シた、か」

 首の位置がかなり低い特徴的な猫背の所為で白とピンクの長髪がだらんと顔にかかり、髪の間からオレをねっとりと覗く死んだ魚の様な光の無い赤い瞳が彼女の不気味さを際立てている。
 黒い衣装と大鎌、そのいで立ちや雰囲気からオレは死神を連想した。
 
 「な、なんなんだこいつ!」

 こいつはヤバイ。
 本能がそう察し、気が付けばオレはヘルの手を引き店を飛び出していた。

 「はわっ!マズダ様どうしたのですか!」
 「いいから走れ!!ヘル!!」

 今は酔っ払いに状況を説明している暇はない。
 一刻も早くあのバチクソヤバイ奴から逃げないと。

 「……逃がサナイよ、速度向上、デスサイズ」

 死神は奥で何かを呟いた。
 その直後、店の中にいた筈の死神は突如オレ達の目の前に瞬間移動して大鎌を振り上げていた。
 
 「……っ!」
 「死ネ……」

 そしてオレが叫ぶ間もなく死神は持っていた大鎌を振り下ろした――。
 
 その瞬間、音が消え、目に映る景色はモノクロになり周りの人や物、その全てがまるで時が止まったかのように凍り付いて動かなくなった。

 ▽ ▽ ▽

 『……あーあ、結局増田君ってよく分からない異世界でよく分かんない奴に喧嘩売られてもうゲームオーバー手前じゃん。死にゲーか何かと勘違いしてんの?【人生】を』

 凍った世界で聞こえてきた謎の声。
 
 この声、脳内に直接響いてくる。

 『増田ヒロムっていう冴えない人間は、例え異世界に行こうが結局ダメダメな駄目人間なんだよな~』

 駄目人間かどうかなんて関係ないだろうが。
 ……はッ、何が異世界だよ。
 治安悪過ぎだろ。
 いきなり襲われるだなんて、そんなの回避できる訳ねぇじゃん。

 『逃げずに戦ってみれば……いや、無理か(笑)。仕方ないよね。だってさあんな化物じみたやつに絶対勝てないんだろうし』

 ははは、お前の言う通りさ。
 オレだってもっと力があれば、才能があれば、あの瞬間移動する化物に立ち向かうかもな。
 だからオレが悪いんじゃない。
 悪いのはオレの落ちぶれた……生まれ持った能力と報われない才能、そしてこの運命だ。

 『……あーはいはいそうだね……でもさ、世の中には逃げるが勝ちって言葉もあるんじゃん?元の世界でも逃げる事に関しては超天才だったくんならきっとこの状況――リビルド出来る』

 は?一体どういう――。

 『……近い内にが来るさ。その時はもう少しゆっくりと話そう』

 ▽ ▽ ▽

 「はっ!ここは?」

 ……オレは何か変な夢を見てた気が――ってそうだ!ヤバイ、死神の鎌が目前に迫ってきている!!
 
 『キュイン!キュキュキュキュイン!』

 オレが死を覚悟したその瞬間、本当にいきなりの事だった。
 脳内に直接、やけに軽快で何故か興奮を覚える音が響き渡った。

 「は?なんだ?今の音」

 『スキル【無銭飲食ノーマネーイーティン】ノ獲得、コレニヨリ残金ゼロノ時ノ逃走・回避確率ガ上昇シマス』

 は?
 スキル獲得?

 『スキル【無銭飲食ノーマネーイーティン】発動』

 うおお体が勝手に動いて!
 制御の効かなくなった体はオレにも理解できない複雑な動きで振り下ろした鎌を的確に避け、死神の背後を取る事に成功した。

「……アレを躱シタ?」 

 死神は怪訝そうに首を捻りながらぶつぶつと独り言を呟いている様子を尻目にオレはヘルを連れそのまま無我夢中で近くの路地裏へと入っていき走り続けた。

 「はぁはぁ……はぁ」

 5分程走り続けただろうか、ヤツが追ってくる気配はない。
 オレ達は死神を巻く事に成功したようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

処理中です...