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戻ったヨな

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 デビュタントの三日前に、ヨナが戻って来た。
 出かける時にヨナは数日と言っていたが、それよりも大分時間がかかった。

「申し訳ございません! 戻るのが遅れました」
「いいのよ。心配していたから、無事に帰って来て安心したわ」

 深々とお辞儀をするヨナの傍らに、一人の少女が居る。
 私と同じ位の年齢だろうか。
 その少女も同じように、頭を下げている。

「ねえヨナ。そちらのお嬢様は……」
「あっ、はい。ご紹介します。私の遠縁のミラリオと言う者です」

 ミラリオ嬢は顔を上げる。
 栗色の髪がふわりと揺れる。

「ミラリオです」

 恥ずかしそうに微笑む彼女は、とても愛らしい。 
 あれ?
 どこかで、会ったことがあるのかしら……。

「お嬢様。大変厚かましいお願いで申し訳ないのですが、ミラリオを少しの間だけ、こちらで寝泊まりさせていただけないでしょうか? 私と同じ、使用人の部屋で構わないので」

 私は少し考えて答えた。

「いいわよ。その代わり、ヨナと一緒に私のデビュタントの準備、お手伝いしてね」

「「はい! かしこまりました」」

 侍女長には、後でこっそり言っておこう。
 デビュタントで、私への仕事が増えるのを嫌がっていた感じだから、数日、お手伝いをしてもらう人が来たと言えば、まあ大丈夫だろう。

 私は二人に、デビュタント用のドレスを見てもらうことにした。

「うわあ! 素敵です。紐の中に、光る石が組まれていて、とっても綺麗」

 ミラリオの目がキラキラしている。
 単なるお世辞ではないみたい。

 ミラリオの瞳は、光の加減で深い赤色に見える。
 まるで煉瓦のような……。

 ハッとする。
 栗色の髪と煉瓦色の瞳って……。

 似てるんだ。
 マークスの幼馴染だという、リオエル嬢に!


 その日の夜。邸全体が寝静まった頃、ヨナが私の部屋に来た。
 来るように伝えていた。

「お呼びでしょうか」

 静々と部屋に入ったヨナは、焼き菓子を私に手渡す。

「ええ。いろいろ事情がありそうだから、ちゃんと聞いておかないとね」

 ヨナが持ってきた焼き菓子は、この国では珍しいまん丸の形をしている。
 一口食べてみると、甘く味付けた木の実が詰まっていた。

「私の故郷のお菓子です。満月を模しているものですよ」

 故郷って……。

「ヨナは故郷に帰っていたの?」
「はい」

 ヨナの故郷ならば、早足の馬車でも、片道一週間はかかるだろう。
 
「まさか、故郷で何か問題でも?」

 ヨナは首を振る。

「いいえ。決してそういうことでは」

 それになぜ、ミラリオを連れて戻ってきたのだろうか。

「まず、帰ろう。帰って確かめなければと思ったのは、お嬢様のクソ婚約者の話を聞いたからなんです」
「マークスの?」
「はい。栗色の髪と煉瓦色の瞳を持つ少女と、馬車の中でイチャコラしているって」

 イチャコラの響きに、思わず吹き出す。
 まさにその通りだから。

「ミラリオさんも、同じ色の髪と瞳だよね」
「そうなんです。だから確かめるために、連れて来ました」

「そう……。それは、どうして? 確かめるって、何を?」

 ヨナは人差し指を立て、「チッチッ」と呟く。

「順を追ってお話しますね。まず大前提です。お嬢様はこの国で、奴隷や人身売買は禁止されているって、ご存知ですよね」

「勿論!」

 胸を張って答える。

「奴隷制度や人身売買の禁止は、この国に限ったことではないのです。私の故郷も、その周辺国も、合わせて五か国間で禁止されています」

 なるほど。我が国だけ禁止しても、他国が許可していたら、抜け道が出来てしまう。

「そして、人身売買や取引を行った者には、厳罰が用意されています」

 確か学園で習った。取引に関わった者だけでなく、その者の二等身まで罰が与えられるって。

「実は、ミラリオは小さい頃、一度誘拐されたことがあるのです」
「えええ!!」

「しかも、誘拐した連中に売られて、しばらくの間この国で、過ごしていたそうです」

 私は、頭を殴られたような衝撃を受けた。
 そんな、人間の命や権利を簡単に踏みつけるようなことが、身近で起こっていたなんて。

「そ、そんなことが……」
「はい。彼女は運よく逃げ出せて、国境警備隊に保護されました。故郷の国に帰ることが出来たのは、奇跡としか言いようがない」

 ミラリオの邪気のない笑顔の裏には、そんな過去があったなんて。
 私、母とか婚約者とかの関係で、自分が一番不幸みたいな気になっていたけど、世の中にはそんなものでは済まないような、大変な思いをしている人がいるのだ……。

「でも、よくもう一度我が国へ、来てくれたね」
「説得しました」
「どうやって?」

「あなたのような思いをする子どもが、二度と出ないために、協力して欲しいって」

 凄いな、ヨナ。
 正論だけど、私には言えないセリフだ。

「それに、ミラリオを買った犯人を、一緒に捕まえようと言いました」

 犯人を、捕まえる?
 ヨナ、出来るの?

「私にも、何か出来ること、ない?」
「ありますよ。それ、お願いしようと思ってましたもの」
「何をすれば良いのかしら」

 ヨナはニッコリする。

「もの凄く綺麗になって、デビュタントの会場に行っていただきます!」 
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