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手をかければ美しくなるもの

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 私はヨナの手を借りながら、ここ何日もドレスのお直しをしている。
 母付の侍女を通じて、デビュタントドレスのお伺いを立てたら、やはり姉のドレスの着用を命じられた。

 姉のドレスは保存状態があまり良くなく、白い生地は殆ど黄色味を帯び、レースにはところどころ穴が開いていた。

「うん、なんとななります、お嬢様」

 ヨナに励まされ、新たに生地とレースを購入して帰宅すると、驚いたことにマークスからプレゼントが届いていた。
 
「あら!」

 箱を開けると、中には真珠のネックレスが入っていた。

「あの坊ちゃんにしては、気の利いたプレゼントですね」

 ヨナが同封されているカードを、ヒラヒラさせる。

「あっ……」

 カードに書かれていたのは、バーランド夫人の名前だった。
 
「なるほど。そういうことですか」
「夫人に気を遣わせてしまいましたね」
「息子が何もしないことを、きっと察したのでしょう」

 理由はともかく、有難かった。
 実の母も父も、私のデビュタントに何かを用意する気などないだろう。
 早速私は御礼の手紙を書いた。

 
「お嬢様。ドレスのお直し進んで来ましたね」
「ええ。私が思っていた様な型になってきたわ」

 お裁縫の合間に休憩を取る。
 温かいお茶と焼き菓子を頂く。

「ところでお嬢様。ポンコツ婚約者はその後如何ですか? 暴力受けてないでしょうか」
「ああ、アレ。最近、幼馴染の女性と一緒にいるから」
「へえ、幼馴染?」
「うん。なんでも領地で遊んでいて、最近彼の従妹になったそうよ」

 ヨナに、マークスとリオエル嬢のことを話した。
 栗色の髪と煉瓦色の瞳を持つ少女と、マークスが遊んでいたところから。

 話の途中から、ヨナの眉間に皺が寄ってくる。

「ちょっと良いですか。クズ、じゃなかったバーランド伯爵の領地ってどの辺でしたっけ?」

「割と隣国に近い処だったと思うわ」

「なるほど……」

 ヨナはカップを置き、キリリとした目を私に向けた。

「お嬢様。二日か三日、お休みをいただけますか?」
「いいけど……でも、何で?」

「少々調べたいことがありまして、片付きましたら速攻戻って来ます」
「わ、分かったわ」

 ヨナはテキパキとドレスの仕上げにかかり、翌日から何処かへ行った。
 同日、私はデビュタントのエスコートの件を、マークスに訊く。

「次の夜会のエスコートをお願い出来ますか?」

 マークスは一瞬ギョッとした顔をすると頭を掻く。

「あ、わりぃ。それ、リオエルからエスコート頼まれて、受けちゃった」

 心底悪いとは思っていない彼に、ため息をつくことなく私は言う。

「かしこまりました」

 なんとなく、そんな気がしていた。
 最近の馬車の中で、マークスは平気でリオエル嬢の肩を抱き、二人にしか分からないような話を続けている。
 たまに彼は私をチラッと見て、唇を歪めて笑っている。

 私はなんで、一緒に馬車に乗っているのだろう。
 婚約者を蔑ろにはしていないというポーズ?
 それとも、単なる嫌がらせ?

 マークスからのエスコートがないと分かった私は、再び父の部屋を訪れた。

「お父様。私のデビュタント、エスコートをお願いいたします」

 父は顔を上げ、明るく言った。

「いいよ」

「あ、ありがとうございます!」

 ほっとして廊下に出ると、母が居た。
 母の纏う空気は真冬のようだ。

「何を浮かれているのかしら?」
「いえ、別に」
「デビュタントって聞こえたけれど」
「はい」
「準備は出来ているの? ローザン伯爵家の子女として、恥ずかしい振る舞いはしないでちょうだい」

 母親が何の準備もしないことは、恥ずかしいことにならないのだろうか。
 勿論それを口にすることはせずに、私は自室に戻った。  
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