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シュリーの侍女は考える
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◇◇侍女ヨナ視点◇◇
私はローザン伯爵家に雇われ、二番目のお嬢様、シュリー様付の侍女となった。
丁度、お嬢様が婚約された時である。
伯爵家には令嬢が三人。
長女のモニク様が婿を取り、伯爵家を継ぐ。
末女のケミファ様は、シュリー様より三歳年下だが、シュリー様よりも早く婚約している。
奥様のキャサリーヌ様は、金髪に青眼の美しい御方で、モニク様とケミファ様も同じ色を持つ。
三人が並ぶと、絵に描いたような貴族の母と娘たち。
ところが真ん中のシュリー様だけは、アッシュグレイの髪と目を持ち、キャサリーヌとあまり似ていない。そのせいか、キャサリーヌ様は、どうもシュリー様に冷たい。
いや、冷たいとかではない。
そもそも関心がないのだ。
買い物に出かける時に、キャサリーヌ様はまず長女のモニク様を誘う。
モニク様が忙しくしていると、ケミファ様を誘うのだ。
私は一度、キャサリーヌ様に声をかけてみた。
「あの、奥様。シュリー様は如何なさいます?」
「え? シュリー? ああ、シュリーもいたわね。行く気あるかしら? あったら連れて行っても良いけれど」
シュリー様はとっくにお邸の中でのご自分の立ち位置をご存知で、絶対と言っていいほど、奥様たちと一緒のお出かけはしなかった。
私は此処よりも東にある、他民族の国で生まれ育った。
兄弟姉妹の数が多いので、親が多忙の時には、上の子どもが下の子どもの面倒を見るのが当たり前。だから兄弟の仲も良かった。
そして家を継ぐのは、必ずしも長男長女ではない。親たちも均等に、子どもに接していた。
だから、このローザン家の家庭が歪んでいるように見えた。
家を継ぐ長女には学費以外のお金をかけ、婚約者の選別も厳しく行っている。
末女は無条件に可愛いのか、我儘な振る舞いにも注意することはない。
割を食うにが中間子。すなわちシュリー様だった。
シュリー様は奥様にあまり似ていなくても、十分愛らしい少女だ。
だが、私服は長女のお下がりばかり。
髪と目の色が違うので、モニク様の服はあまり似合わない。
「やっぱりシュリーはダメだわ」
奥様のため息を、何度か私は聞いた。
末女のケミファ様には、お下がりではなく新しい服を用意する。
むしろケミファ様にこそ、モニク様のお下がりが合うと思うのだが、体の大きさが違うので仕立て直しが必要になる。
奥様は、面倒がってそれをしない。
私がお付きになった時には、既にシュリー様は自信のなさそうな目をしていた。
でも婚約者は由緒正しいバーランド家だ。
嫡男のマークス様は、端正な顔をして女性ウケが良い。
上手くいけば良いと思った。
信頼関係を築いて、愛し愛されるようになれば、シュリー様ももっと自信が持てるだろう。
だが、この婚約者のマークスは、とんでもなくクズだった。
女性に人気があることを自覚しているのか、まあシュリー様への当たりがキツイ。
クズ、失礼、マークスと一緒に学園に通うようになると、更に一層、シュリー様の顔が曇るようになった。
こんな婚約者では、シュリー様は幸せになれない!
私はそう断言する。
穏やかで、我慢強いシュリー様は成績も良い。
きっともう少し大人になったら、匂いたつような美しい女性になるだろう。
もっと……。
もっとシュリー様にふさわしい、お相手がいるのではないか。
とはいえ、貴族同士の婚約は一旦成立したら、そう簡単に解消出来ないのも事実。
請い願わくは、クズの方から婚約解消を言い出してくれないだろうか。
豊穣祭で見た組み紐に、シュリー様は興味を持たれた。
自分でもやってみたいと。
一歩前に足を踏み出したシュリー様を、私は全力を挙げて応援する。
ところで、奥様がシュリー様の存在を忘れるって、髪や目の色以外に、何か理由でもあるのだろうか? 旦那様、ローザン伯爵はご存知なのか?
まさかね。
シュリー様の妊娠中に、ローザン伯爵が浮気でも……。
そういうことがあると、生まれた子に興味が持てなくなるって、昔聞いたことがあるけど。
まさかだよね……。
あとで古参の侍女にでも訊いてみよう。
私はローザン伯爵家に雇われ、二番目のお嬢様、シュリー様付の侍女となった。
丁度、お嬢様が婚約された時である。
伯爵家には令嬢が三人。
長女のモニク様が婿を取り、伯爵家を継ぐ。
末女のケミファ様は、シュリー様より三歳年下だが、シュリー様よりも早く婚約している。
奥様のキャサリーヌ様は、金髪に青眼の美しい御方で、モニク様とケミファ様も同じ色を持つ。
三人が並ぶと、絵に描いたような貴族の母と娘たち。
ところが真ん中のシュリー様だけは、アッシュグレイの髪と目を持ち、キャサリーヌとあまり似ていない。そのせいか、キャサリーヌ様は、どうもシュリー様に冷たい。
いや、冷たいとかではない。
そもそも関心がないのだ。
買い物に出かける時に、キャサリーヌ様はまず長女のモニク様を誘う。
モニク様が忙しくしていると、ケミファ様を誘うのだ。
私は一度、キャサリーヌ様に声をかけてみた。
「あの、奥様。シュリー様は如何なさいます?」
「え? シュリー? ああ、シュリーもいたわね。行く気あるかしら? あったら連れて行っても良いけれど」
シュリー様はとっくにお邸の中でのご自分の立ち位置をご存知で、絶対と言っていいほど、奥様たちと一緒のお出かけはしなかった。
私は此処よりも東にある、他民族の国で生まれ育った。
兄弟姉妹の数が多いので、親が多忙の時には、上の子どもが下の子どもの面倒を見るのが当たり前。だから兄弟の仲も良かった。
そして家を継ぐのは、必ずしも長男長女ではない。親たちも均等に、子どもに接していた。
だから、このローザン家の家庭が歪んでいるように見えた。
家を継ぐ長女には学費以外のお金をかけ、婚約者の選別も厳しく行っている。
末女は無条件に可愛いのか、我儘な振る舞いにも注意することはない。
割を食うにが中間子。すなわちシュリー様だった。
シュリー様は奥様にあまり似ていなくても、十分愛らしい少女だ。
だが、私服は長女のお下がりばかり。
髪と目の色が違うので、モニク様の服はあまり似合わない。
「やっぱりシュリーはダメだわ」
奥様のため息を、何度か私は聞いた。
末女のケミファ様には、お下がりではなく新しい服を用意する。
むしろケミファ様にこそ、モニク様のお下がりが合うと思うのだが、体の大きさが違うので仕立て直しが必要になる。
奥様は、面倒がってそれをしない。
私がお付きになった時には、既にシュリー様は自信のなさそうな目をしていた。
でも婚約者は由緒正しいバーランド家だ。
嫡男のマークス様は、端正な顔をして女性ウケが良い。
上手くいけば良いと思った。
信頼関係を築いて、愛し愛されるようになれば、シュリー様ももっと自信が持てるだろう。
だが、この婚約者のマークスは、とんでもなくクズだった。
女性に人気があることを自覚しているのか、まあシュリー様への当たりがキツイ。
クズ、失礼、マークスと一緒に学園に通うようになると、更に一層、シュリー様の顔が曇るようになった。
こんな婚約者では、シュリー様は幸せになれない!
私はそう断言する。
穏やかで、我慢強いシュリー様は成績も良い。
きっともう少し大人になったら、匂いたつような美しい女性になるだろう。
もっと……。
もっとシュリー様にふさわしい、お相手がいるのではないか。
とはいえ、貴族同士の婚約は一旦成立したら、そう簡単に解消出来ないのも事実。
請い願わくは、クズの方から婚約解消を言い出してくれないだろうか。
豊穣祭で見た組み紐に、シュリー様は興味を持たれた。
自分でもやってみたいと。
一歩前に足を踏み出したシュリー様を、私は全力を挙げて応援する。
ところで、奥様がシュリー様の存在を忘れるって、髪や目の色以外に、何か理由でもあるのだろうか? 旦那様、ローザン伯爵はご存知なのか?
まさかね。
シュリー様の妊娠中に、ローザン伯爵が浮気でも……。
そういうことがあると、生まれた子に興味が持てなくなるって、昔聞いたことがあるけど。
まさかだよね……。
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