【第一部完結】保健室におっさんは似合わない!

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幕間その2 ルッキズムの凋落~音竹樹梨の問診~

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 東条蘭佳による聞き取りメモ。 
 
 音竹樹梨、三十二歳。
 ベンゾジアゼピン系や抗ヒスタミン系を常用。
 以下、なるべく本人の発した言葉を、その通りに書き留めておく。

**

 すいません、泣いちゃって。
 お医者さん、女医さんなんですね。
 何を話せば良いのかな。
 ああ、しんちゃんが産まれた頃からの……。

 まさか妊娠するとか、全然思ってなくって。
 ノブ君が、あ、しんちゃんのパパですけど、まだ学生、じゃなくって院生だったかな。
 産んで欲しいって言ったので。

 お姉ちゃんのカレシだったけど、ノブ君、お姉ちゃんより私の方が可愛いって言ってくれて。
 お姉ちゃんは、キツイから。
 自分にもだけど、他人にも。

 だからノブ君は、私を好きになったって言いました。
 お姉ちゃんが選んだ人だから、良い人だろうって思って、私もその頃は、カレシいなかったので。

 最初はノブ君、優しかったんです。
 でも結婚してから、なんか冷たくなって……。
 
『お前、そんなことも知らないの?』

 よく言われました。
 だって私、お姉ちゃんみたく、頭良くないし。
 高校だって、バカっぽい高校だったし。
 
 ノブ君は、奨学金? 貰ってたけど、足りなくてバイトして。
 私は悪阻がひどくて、家のことも何にも出来なくて。
 こっそりお母さん、あ、ウチのお母さんに連絡して、お金送ってもらったりしてました。

 しんちゃんが産まれた時は、嬉しかったです。
 ふにゃふにゃしてて、ああ、可愛いって思ったの。
 でも、ノブ君はあまり、嬉しそうじゃなかったな。

 ノブ君がたまに、お姉ちゃんに連絡してたのは知ってます。
 うん、ノブ君に黙って、彼のケイタイ見てたから。

 私は花粉症だったので、ひどい時はお薬飲んでました。
 お薬貰う時、薬局の人、薬剤師さん? に注意されたことがあって。

『運転する前は、飲まないでね』

 そっか、これって、眠くなるお薬なんだって。
 だから、ノブ君にも飲ませたの。
 しんちゃんが産まれてから、寝不足だって言ってたし。

 あの日。
 ノブ君はお姉ちゃんに、会いに行こうとしてました。
 
 ヤダ!
 絶対ヤダ!!

 お姉ちゃんは何でも出来るし、お金もあるし。
 ノブ君は、もっかいお姉ちゃんの処へ行ったら、絶対帰って来ない。

 一晩寝たら、そんなこと、思わなくなるかな。
 だから一緒に、お薬飲みました。
 一緒に寝ようって言って。

 だから知らなかった。
 あの晩、遅くなってから、ノブ君が出かけたってこと。
 そのまま……。
 帰って来なくなることも。

 ねえ、お医者さん。
 私がいけないの?
 
 お姉ちゃんのカレシを取ったんじゃないよ。
 ノブ君と二人で、真実の愛に目覚めただけだよ。
 お薬だって、まさか深夜にノブ君が、運転するとか思わなかった!

 事故るなんて、思わなかったよ!


 ねえ、お医者さんの隣の人、誰?
 もんかしょう?
 ああ、お役人さん。

 カッコイイね、ふふ。
 あと優しそう。
 優しいと言えば、篠宮センセも優しいの。

 ノブ君のお葬式に来てくれて、お香典もすっごく出してくれた。
 私のことも、旦那失くして寂しいよね、辛いよねって言ってくれた。

 ノブ君がいなくなって、一人でしんちゃんを育てる自信なくって。
 しんちゃんが泣くと、イライラして、「泣くな!」って怒鳴ったりしたけど。

 夜、しんちゃんが寝ちゃうと寂しくって、しんちゃんの寝顔見ながら、文句言ったりしたけど、毎晩じゃないよ、たまにだよ。

 え、何て文句言ったか?

『おまえがいけない』
『おまえが殺した』

 勿論、冗談だよ。
 え、冗談でもいけない?


 虐待!?
 それ、虐待なの?
 そんなの知らない。
 私知らなかったもん。
 
 しんちゃん、私を嫌っているの?
 お姉ちゃんの方が良いの?
 なんで?
 なんでなんでなんでなんでなんでなんで!
 いっつもお姉ちゃんばっかり!!

**

 以下、発作状態になったため、聞き取りは中止。
 要加療。
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