12 / 44
十一章 東京に、特許許可局はないみたいだ
しおりを挟む
連絡をもらった翌日の午後。
加藤は、東京の郊外にある、氷沼の勤務先の大学に向かった。
結局、明け方近くまで、ネットで検索を続けていたので、加藤は殆ど寝ていない。
まあ、これなら、氷沼の睡眠時の脳波研究に、協力しやすいであろう。
研究棟の前で、氷沼が待っていた。
相変わらず、イケメンである。
無駄に……。
パリっとした白衣を着た氷沼は、片手を上げる姿が妙にさまになっていて、加藤はちょっとムカついた。
「よお、せいさく! 相変わらず、アンキロサウルスみたいな目してんな」
『アンキロサウルス』は草食恐竜で、氷沼のお気に入りの一種である。
「ほっとけ! だいたい、本物のアンキロサウルスを、見たことあんのか、お前は」
「まあまあ、アンキロサウルスは、肉食恐竜に負けない防御力をもってる、スゴイ奴なんだぜ」
「知るか!」
「ああ、俺の研究室はこっちだ」
午後の日差しのなか、トレーニングウエアの学生たちが、構内を走り抜けていく。
現在、氷沼が所属している大学は、スポーツ推薦の学生が多数おり、世界選手権やオリンピックの代表に選ばれる者も多い。
アスリートたちのパフォーマンス向上には、質の良い睡眠が不可欠であり、そのために専門家として氷沼が招聘されたらしい。
この大学の英断、か?
それとも……愚断か。
「しかし、無呼吸症候群対策の枕なんぞ、いくらでも手に入るがな」
ぶつぶつ言いながら、加藤は氷沼の研究室の隣の、実験室に入る。
実験室にもあちこちに、恐竜のイラストが貼ってある。
何の研究をやっている教員か、分からないほどだ。
「ふふふ、甘いな加藤君。俺の開発中のツールは、そんな簡単なもんじゃない」
薄暗くなった実験室で、加藤は頭に電極を装着させられて、用意されたマットレスに横になる。
三秒後、加藤は眠りに落ちた。
夢を見ていた。
ガキの頃の加藤と氷沼。
互いに図鑑を持っている。
加藤は昆虫図鑑。
氷沼はもちろん恐竜図鑑。
――すげえ、コエロフィシス! さすが肉食、共食いするんだ。自分の子どもも、食ってるみたいだ!
――自分の子ども、食うの? なんか、やな恐竜……。
嫌だなと、口に出していた。
加藤の上半身が、勝手に起き上がっていた。
加藤は、マットレスが盛り上がり、彼の上体を起こしているのに気付く。マットレスは、端からくるくると、巻きずしのように巻かれていた。
なんだろう。
起きた感触が、いつもより気持ち悪い。
睡眠を中断されたからか。
それとも……
「あれ、もう目覚めたの? 相変わらず、せいさくの睡眠時の脳波は読めないな。ああ、一応レム睡眠だね、夢でも見たか?」
「俺、どの位寝てた?」
「三十分も寝てないよ」
加藤は呼吸を整えた。
「これは、どんなからくりなんだ?」
氷沼の話によると、時間ごとにマットレスの形態が変化し、睡眠を中断させるものだという。
脳が睡眠の中断を察知すると、呼吸が回復するらしいのだ。
いちいち中断なんかしたら、余計睡眠不足になりそうだが。
「従来のタイプだと、お前みたいな奴には、完全覚醒を促す、っと」
氷沼は何やら記録をつけていた。そんな姿は、研究者っぽい。
加藤は氷沼に訊く。
「従来型って、これはお前が作ったもんじゃないのか?」
「うん。俺が開発したのは、こんな低レベルじゃないよ。これを作ったのは、脳神経系の医者らしい。ただ、特許云々で揉めて、丸ごと外国の企業に売ったみたいだ」
加藤のアンキロサウルスの様な瞳が光る。
「これ作った医者ってさ、四の五の、何だっけ……」
「よく知ってるな。篠宮って医者だ」
加藤は、東京の郊外にある、氷沼の勤務先の大学に向かった。
結局、明け方近くまで、ネットで検索を続けていたので、加藤は殆ど寝ていない。
まあ、これなら、氷沼の睡眠時の脳波研究に、協力しやすいであろう。
研究棟の前で、氷沼が待っていた。
相変わらず、イケメンである。
無駄に……。
パリっとした白衣を着た氷沼は、片手を上げる姿が妙にさまになっていて、加藤はちょっとムカついた。
「よお、せいさく! 相変わらず、アンキロサウルスみたいな目してんな」
『アンキロサウルス』は草食恐竜で、氷沼のお気に入りの一種である。
「ほっとけ! だいたい、本物のアンキロサウルスを、見たことあんのか、お前は」
「まあまあ、アンキロサウルスは、肉食恐竜に負けない防御力をもってる、スゴイ奴なんだぜ」
「知るか!」
「ああ、俺の研究室はこっちだ」
午後の日差しのなか、トレーニングウエアの学生たちが、構内を走り抜けていく。
現在、氷沼が所属している大学は、スポーツ推薦の学生が多数おり、世界選手権やオリンピックの代表に選ばれる者も多い。
アスリートたちのパフォーマンス向上には、質の良い睡眠が不可欠であり、そのために専門家として氷沼が招聘されたらしい。
この大学の英断、か?
それとも……愚断か。
「しかし、無呼吸症候群対策の枕なんぞ、いくらでも手に入るがな」
ぶつぶつ言いながら、加藤は氷沼の研究室の隣の、実験室に入る。
実験室にもあちこちに、恐竜のイラストが貼ってある。
何の研究をやっている教員か、分からないほどだ。
「ふふふ、甘いな加藤君。俺の開発中のツールは、そんな簡単なもんじゃない」
薄暗くなった実験室で、加藤は頭に電極を装着させられて、用意されたマットレスに横になる。
三秒後、加藤は眠りに落ちた。
夢を見ていた。
ガキの頃の加藤と氷沼。
互いに図鑑を持っている。
加藤は昆虫図鑑。
氷沼はもちろん恐竜図鑑。
――すげえ、コエロフィシス! さすが肉食、共食いするんだ。自分の子どもも、食ってるみたいだ!
――自分の子ども、食うの? なんか、やな恐竜……。
嫌だなと、口に出していた。
加藤の上半身が、勝手に起き上がっていた。
加藤は、マットレスが盛り上がり、彼の上体を起こしているのに気付く。マットレスは、端からくるくると、巻きずしのように巻かれていた。
なんだろう。
起きた感触が、いつもより気持ち悪い。
睡眠を中断されたからか。
それとも……
「あれ、もう目覚めたの? 相変わらず、せいさくの睡眠時の脳波は読めないな。ああ、一応レム睡眠だね、夢でも見たか?」
「俺、どの位寝てた?」
「三十分も寝てないよ」
加藤は呼吸を整えた。
「これは、どんなからくりなんだ?」
氷沼の話によると、時間ごとにマットレスの形態が変化し、睡眠を中断させるものだという。
脳が睡眠の中断を察知すると、呼吸が回復するらしいのだ。
いちいち中断なんかしたら、余計睡眠不足になりそうだが。
「従来のタイプだと、お前みたいな奴には、完全覚醒を促す、っと」
氷沼は何やら記録をつけていた。そんな姿は、研究者っぽい。
加藤は氷沼に訊く。
「従来型って、これはお前が作ったもんじゃないのか?」
「うん。俺が開発したのは、こんな低レベルじゃないよ。これを作ったのは、脳神経系の医者らしい。ただ、特許云々で揉めて、丸ごと外国の企業に売ったみたいだ」
加藤のアンキロサウルスの様な瞳が光る。
「これ作った医者ってさ、四の五の、何だっけ……」
「よく知ってるな。篠宮って医者だ」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
義妹のギャルに初恋を奪われた話
白藍まこと
恋愛
水野澪(みずのみお)は、先輩で生徒会長の青崎梨乃(あおざきりの)を尊敬していた。
その憧れの感情から自身も生徒会に入ってしまうくらいに。
しかし、その生徒会では度々だが素行不良の生徒として白花ハル(しらはなはる)の名前が挙がっていた。
白花を一言で表すならギャルであり、その生活態度を改められないかと問題になっていたのだ。
水野は頭を悩ませる、その問題児の白花が義妹だったからだ。
生徒会と義姉としての立場で板挟みになり、生徒会を優先したい水野にとって白花は悩みの種でしかなかった。
しかし一緒に生活を共にしていく中で、その気持ちに変化が生じていく。
※他サイトでも掲載中です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる