【第一部完結】保健室におっさんは似合わない!

ウサギテイマーTK

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十章 幼馴染というものは、たまに役に立つかもしれない

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 『子どもが落とされた』という言葉に、加藤の針の穴のような瞳が光る。

 言った爺さんの後頭部も、午後の日差しで光った。
 その後ろから、わらわらと現れた、爺さんの集団が加藤を囲む。

 まるで山の中の羅漢像だ。
 集団圧が凄い。

「あそこの奥さん、いろいろ噂が出てるからなあ」

 音竹の母のことか。

「まあ、美人だから、やっかみ半分だろうが」

 そうか、音竹母の様なタイプを、一般的には美人というのか。
 加藤は、どうでもいいところに反応した。

「ほら、何年か前、ヘンな事件も起こったし。子どもが落ちたのは、同じ頃だったかの」
「そうじゃった、そうじゃった。町内、いろいろ騒がしくなった」

 羅漢たちは、しゃべる喋る。
 騒がしいのは、あんたたちじゃないのか。

 それに。
 ヘンな事件?

「ああ、申し遅れましたな。私ども、こういう活動をやっておりますのでな」

 リーダーの阿像が、ポーチからステッカーを出す。

 『地域と子どもを守る会』

 リーダーの爺さんは、今野と名乗った。

 そうこうしているうちに、音竹母が家の門を開いたので、加藤は布団一式を玄関まで運んだ。

「すみませんネ、センセエ」

 栗色のくるくるとカールした髪を、人差し指に巻き付けながら、音竹母は甘えた声を出す。
 加藤は彼女から、春先の猫のような匂いを感じたが、脳内にはクエスチョンが飛び交った。
 
 美人……ねえ。

 その夜。

 加藤は羅漢爺さんたちが言っていた、「ヘンな事件」が気になり、自宅でパソコンに張り付いていた。

 自宅といっても賃貸のワンルーム。加藤は一人暮らしである。

 いい加減、目も疲れた深夜に、着信があった。

 珍しいというか、だいぶ、お久しぶりの相手である。

「やっほー、せいさく! 元気だったか!」

 無駄にテンションの高い声が響く。

 電話の相手は、加藤の幼馴染、氷沼ひぬまであった。
 加藤の睡眠時の脳波を、測定し、「新生児、もしくは乳児の脳」と判定した奴である。

 黙っていれば「貴公子」、喋れば「奇行種」。
 それが氷沼玲央《ひぬまれお》という男だ。
 至ってザンネンなイケメンと、昔から囁かれている。

「なんだよ、レオ。なんか用か? 金ならないぞ」

「いやいや、今俺、ちゃんと仕事してるから、金は、まあ大丈夫。せいさくにお願いしたことがあってさ」

「また脳波の被験者か?」
「当たり! よく分かったね、さすが天才!」
「お前のお願いって、脳波か恐竜しかないじゃんか!」

 氷沼は、極端に恐竜好きである。
 恐竜オタと言って、差支えない。

「まあそう言うなって。今回は真面目な研究だよ。科研費取ってるし」

 今回は……。 
 ということは、前回は、やはり面白半分で、人の脳波を調べたな、と加藤は思った。

「今どき、脳波で科研費か?」

 加藤の問いに、少し誇らしげに氷沼は答えた。

「睡眠時無呼吸症候群を予防する、ツール開発やってんだ」

 氷沼の研究に付き合う義理もないのだが、ふと加藤は思い立つ。

「やってもいいぞ。その代わり、条件がある」
「うんうん、被験者には、ちゃんと謝金払うぞ」

「謝金は貰うが、条件は二つだ。まず、一メートル五十センチ以上の踏み台を用意してくれ」

「なんだか分からないけど、そのくらい、すぐ用意する。もう一つは何だ?」

 二つ目の条件を聞いた氷沼は、加藤《せいさく》は、真面目に教員やってるんだな、と安心した。
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