上 下
11 / 16

王宮のパーティ・閑話

しおりを挟む
 王宮パーティの当日、朝のこと。

 ブルーノは、父シェルキー伯から執務室へ呼ばれた。

 中に入ると、父と家令が並んで、険しい顔をしている。
 日頃温厚な父の、厳しめの顔を見たブルーノは、唇が乾く。

「何で呼ばれたか分かるか?」
「さ、さあ……」

 父は執務机の上に、バサリと何かの書類を置いた。

「見覚えがあるだろう」

 チラッと見たブルーノの顔が見る見る白くなる。
 先日、ロアナにねだられて買った毛皮の購入書だ。
 月賦支払いのために、父の承諾サインを偽造した……。

「な、なんで……」

 毛皮店からの問い合わせでもあったのだろうか。
 売れれば良いというような、少々胡散臭い店だったのだが。

「毛皮店の店主が、王宮直属の警吏に取り調べを受けている。その過程で、毛皮を購入した者たちにも調査が行われているのだ。購入記録を基に、な」

 そんな……。
 ブルーノは言葉を失う。

 しかし、毛皮店の店主が取り調べ?

「その毛皮店は、違法販売を行っていたようです」
「い、違法!?」

 家令がブルーノに目を向けずに告げる。

「捕獲禁止となっている動物の毛皮を不当に入手。それだけではなく、魔獣の毛皮をも販売していたそうです」

「え……」

「ちなみに、ブルーノ様が購入されたブルーフォックスの毛皮ですが、実際は捕獲禁止の銀糸アナグマの毛皮だそうです」

 シェルキー伯はフンと息を吐く。

「大方、あのゴーシェ家の後妻とか、その娘に騙されたのだろうな。安い毛皮が買えるとかなんとか」

 ロアナを馬鹿にされたように感じたブルーノは、思わず声を上げる。

「父さんは、元々ロアナのことが気に入らないんだ! 男爵家出身だからって!」


 シェルキー伯は目を剝く。
 家令も思わずブルーノを見つめる。

「バッカモ――ン!!」

 邸を揺るがすような大声だった。
 今まで、父からこれ程の叱責を受けたことがなかったブルーノは、身を竦め涙目になる。

「今のお前の発言こそ、爵位の低い者や平民を蔑むものだ! 爵位の高低を問わず、ひたむきに勉学に励み、粉骨砕身の努力を続ける者はたくさんいるぞ」

 そう言ってシェルキー伯は家令を見やる。

「彼とてそうだ。平民の身でも高等学園を卒業し、文官試験に合格したのだぞ。優秀な人材だから、わしが引き抜いてきたのだ」

 家令は目を伏せる。

「それがなんだ、お前は! ミーヤ嬢との婚約を白紙にしたのは致し方ない。あれはウチのが無理を言って結んだものだったからな」

 ビクビクしながらも、ブルーノはキョトンとした顔になる。

 嘘!
 ウチの、って母さんのことだよね。
 母さんが無理を言って、ミーヤと婚約させたの?

 俺に惚れたミーヤが我儘言って、婚約したんじゃないのか?
 だから、俺が冷たい態度取っても、文句ひとつ言わずに付き合ってくれていたんだろ?

――とにかくミーヤちゃんを大切にするのよ。そうすれば……。

 何度か母に言い聞かされた。
 ミーヤを大切にすることに、何かメリットがあるのか?
 家同士、親同士の関係があるのは分かるけど。

 でも、それだけじゃなかったのだろうか……。

「ロアナ嬢でも構わんよ、婚約者は。ただな、今すべきことは何だ? 買い物か? 観劇か? お前は伯爵家と領民たちの将来を、どう考えているんだ!」

 シェルキー伯が机を叩き、書類が散った。

 将来のことなんて、今言われても分からない……。
 父さんも母さんも元気なんだから、考えたくないのに……。
 ロアナと結婚して、孫の顔でも見せてやるくらいなら出来るけど。

 だいたい専門店で、違法な商品を売っているなんて、知らなかった。

 知らなかったんだから、しょうがないだろ?
 怒鳴られるなんて心外だ。

 父に何かを言いたいのに言葉が見つからない。
 何より、ミーヤがブルーノを求めていたのではなかったと聞いて、彼は床に座り込んだ。

 平民出身の家令は、そんなブルーノにそっと手を差し伸べた。



 一方、ゴーシェ家では、ラスディがふらふらしながらも、王宮に向おうとしていた。

「あの、旦那様……」

 家令が来客を告げる。
 誰だ、このクソ忙しい時に……。

「王室警吏官です」

「何だって?」

 まさか……。
 別邸でミーヤの、し、死体が見つかったとか……?

 客間に入ると、王家の紋章を付けた二人の警吏官が立ち上がる。

「申し訳ないが、これから王宮の……」
「存じておりますが、我々も国王直々の命を受けておりますので、ご協力を」

 陛下の?

「ゴーシェ伯爵家で購入した製品の一部に、捕獲禁止とされている動物の毛皮が見つかりました」

「え、捕獲、禁止? 何の毛皮でしょうか」

「先ほど廊下で確認しました。稀少生物の一種、『ダッチフィリー熊』です」

 あの熊の……。
 妻のレイラが買ってきたものだ。自分は知らない。関係ない。
 そう言いたいが体が震えている。

 国王陛下直々の警吏官だ。
 下手な言い訳は利かない。
 おそらくは、殆ど調査済で裏を取りに来ているだけだろう。

 ラスディ・ゴーシェの目が死んだ魚の様になった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔法学校受付事務のおねいさんは、婚約破棄の過去を乗り越え、年下の魔法使いに溺愛される

ウサギテイマーTK
恋愛
ベーグ国は魔法大国で、国立の魔法大学校がある。その受付事務には二人の女性がいる。若い方とやや若い方。本作のヒロインは「やや若い、堅い」女性、ティミナである。彼女はかつて侯爵令嬢として、第一王子と婚約していたのだが、狩猟祭での出来事で、王子から婚約破棄された過去を持つ。そんな彼女を慕うのは、帝国からの留学生であるベネリスだ。魔法の資質は相当高いと噂されているが、恋愛に関しては奥手の男性だ。ベネリスはティミナの婚約破棄の過去を知り、なんとかその傷を癒してあげたいと思うようになる。時は秋。狩猟祭の季節となっていた。ティミナは過去を越えていけるのか。王国にくすぶる陰謀に巻き込まれながらも、二人は狩猟祭に参加する。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...