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一章 始まり
異世界へ 2
しおりを挟む「あ、文乃っ!」
慌てて足を止める。
文乃が転んだからだ。幸い大きな怪我は無さそうで安心する。
「ごめん……疲れちゃって」
「文乃……大丈夫? 家まであと少しだから頑張って」
「あ、アイツが来たぞ!」
鷹広の言葉に俺は後ろを確認する。仮面のアイツは宙を漂いながら確実に追い掛けて来るが遅い。よっぽどの事がない限り追い付かれないだろう。
俺の手に掴まりながらゆっくりと立ち上がる文乃。足にはすり傷が見える。痛くても顔には出さない……。
「行きましょう!」
草部の一声で一斉に走り出す。ようやく石段まで辿り着いた。あとは石段を上がって鳥居をくぐれば、アイツは入って来れない!
俺達は無我夢中で石段を駆け上がる。ただ、横目で文乃を確認しながら確実に。
よし、文乃はちゃんと着いてきてる!
ゴールである鳥居が目の前に見えた。そしてーーー
「よしっ!」
俺達は鳥居をくぐった。
こんな全力疾走したのは久しぶりだ。クソ……学校に行こうとしただけでこの有様だ。
「はぁはぁはぁ……も、もうアイツ来ないわよね!」
「あ、あぁ…………なっ!」
確認の為に鳥居を見ていた。すると、アイツは石段をゆっくりと上がってきた。それには愕然とする。
「な、う、嘘! 悪しき者は入れない筈なのに」
「…くっ。喧嘩なら得意だがなんな怪物とはごめんだぜ?」
希望からの絶望。神社に逃げ場はない。ここまでなのか…。
「まだだよ! ねぇ、アキ。こんな時…赤レッドならどうする?」
赤レッド…。
俺の好きなヒーローだ。赤レッドなら…絶対に諦めはしない。
「……まだ諦めない!」
そう言うと他は呆れたように微笑む。
「そうね。どうせ逃げ場はないんだもの、やってやろうじゃない」
「おぅ! 喧嘩だぜ」
一気に雰囲気が変わった。これも文乃のおかげだな。
「じゃあ私は巫女装束に着替えて来るから、男子。足止めお願いね」
「は?」
「足止め…だと?」
草部の事だから見捨てるというのは無いと思うが。鷹広はともかく、俺は何も出来ないぞ?
「行こう、文乃」
「う、うん」
文乃は心配そうに俺を見ながら頷く。
ここに居るより草部といる方が安全だろう。だから反対はしない。
「お前達も気を付けろよ」
「ふん…当然よ」
普段強気な草部らしさが戻ってきた。
二人が家に入ったのを確認して、俺は仮面のアイツを見据える。最初は怖くてここまで逃げて来たが、一つ分かった事がある。それは足が遅いという事だ。
「……鷹広、考えはあるか?」
「いーや。俺は馬鹿だからな、これで行くぜ」
剣道で鍛えられた筋肉。喧嘩慣れしてるだけあって拳も硬そうだ。
『…クイナク イキラレタカ』
こいつはこれしか言えないのか。喋れると言う事は知能があるのか?
「…秋哉。お前は下がってろ」
「おい!」
一歩前に出て左腕を振り回す。鷹広はやる気だ。
一方の怪物は当然ながら一言も発しない。
「行くぜ! おりゃーー」
鷹広は左手を怪物に突き立てる。
な、なんだ? 当たった感触はない。防がれたのか? 俺の拳はバケモンの体ギリギリで止まっている。どんなに力を入れても当たらない。
『…ミウラ タカヒロ。クイナク イキラレタカ』
「…なっ! 今、なんて」
聞き間違えじゃなければバケモンは俺の名前を言った。なんで知ってるんだ?マジ気味わりぃ。
『…クイナク シネ』
「な、うわ!」
俺の頭は混雑していた。
怪物が鷹広の名前を呼んだからだ。それだけじゃない、悔いなく死ねと言った。ほんとに何なんだ。
「た、鷹広っ!」
今だって怪物が鷹広を飲み込もうと覆い尽くそうとしている。悪友だが、友人だ。助けたくても足がすくんで動かない。情け無い…。
「ぐ……クソっ」
もう…ダメなのかよ。
ごめん……美代。
ーーーーーヒュン
何か光る何かが飛んで来た。それが矢だと分かったのに時間はあまり掛からなかった。矢がバケモンの仮面に刺さったからだ。これは…。
「鷹広、大丈夫?」
大好きな幼なじみの声がこの状況じゃ凛々しく感じる。腰が抜けて崩れたままゆっくり後ろを振り返ると巫女装束に着替えた美代の姿があった。
「草部…」
後ろから矢が飛んで怪物に的中した。振り返ると巫女装束の草部と文乃が。
「美代! 助かったぜ」
「ふふん。感謝してよね」
巫女姿の草部はあまり見慣れない。しかし、それ以上に見慣れないのは文乃の巫女姿だ。本人は恥ずかしそうに顔を赤めている。
「そういやバケモンはどうなった!」
あ、そうだ。
つい倒したみたいになってたが矢は仮面に突き刺さっただけだ…まだ倒してはない。
「動かないぞ」
仮面の怪物は草部の矢を受けて石のように固まっている。
「……もう、大丈夫かな?」
俺達は少し警戒しながら怪物に近付く。死んでるのか、動かない。
「ハァ。何とか助かったか」
「そうみたいね……でもこの怪物は何者なのかしら、鷹広の名前も知ってたし…」
それを聞いて黙り込む。
まだその謎が分かってない。あの時、確かに三浦 鷹広と奴は言った。鷹広の知り合いか、それとも未知のエイリアンみたいなのか?
「お、おい。怖い事言うなよな! 終わり良ければ全て良しって言うだろ」
「そうだね。終わった事だし学校行かなきゃ」
「あ……今何時?」
草部の質問に、俺はポケットに入れたスマホを確認する。待ち受け画面には08時50分という字が。
「……8時50分。完全に遅刻だな」
最悪だ。
変な奴に追い掛けられて遅刻しました、なんて理由にならない。まして先生に「頭、大丈夫?」と言われそうだ。
「遅刻か……どうせ遅刻なら行くの止めね?」
「…不良のお前と一緒にするな」
「ねぇ、ちょっと! こいつの素顔見たくない?」
……正気かっ!!
エイリアンかもしれないんだぞ、地球外生命体かもしれないんだぞ!
「…俺はいい。普通に学校にーー」
「ほら、アキもアキも!」
……既に文乃はやる気満々で俺には逃げる時間が無かった。
「おい……やっぱりやめた方がいいと思うぞ?」
「ったく、男の癖に怖がりだなぁ。平気だって」
こいつらは肝試しのノリでエイリアンを解剖しようとしている……それが恐ろしい。
「じゃ、まず邪魔くさい仮面を取ってみましょ! 人間か、そうじゃないか分かるでしょ」
いきなり仮面を取るのか。
人間だという事を祈るしかないな。
「こんな事、滅多に無いし。全員でやろうぜ」
ぜ、全員だと!
仮面を取るのに全員いらないだろ。誰か一人で良いじゃないか!
「お、俺は見学にしとく」
「ダメよ。秋哉も! ほら、手を伸ばして」
く、草部に言われたら仕方ない。俺は嫌々ながら手を伸ばす。不思議にも心臓の脈が速まる。ドク、ドクと聞こえるんじゃないかというぐらい早い。
全員の手がエイリアンに触れた瞬間
「うわっ」
「きゃっ」
「な、なんだ」
「ははは…」
眩い光が俺達を包んだ。
こうして俺達は異世界へと飛ばされた。
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