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異世界へ 1
しおりを挟む俺はヒーローが好きだ。
ヒーローと言っても沢山いるが、その中でも異世界ヒーローに出てくる赤レッドが特に好きだ。
番組が始まると俺はテレビに釘付けになる。赤レッドの決め台詞を俺も一緒になって真似をした。
「赤い色はヒーローの色だ! だから君も、仲間だ」
決め台詞を言うと何だか俺でもヒーローになれる気がして嬉しかった。
ピピピピピ…
「……んーー」
久しぶりにあの夢を見た気がする…。そう思いながら耳障りな目覚ましを片手で止めてから部屋を見回す。
「……アイツ、まだ来てなかったのか…」
いつもは起きない目覚ましで起きたのはきっと夢のせいだろう。あぁ、ダメだ。思い返すだけでもにやける。
「あれ? 珍しいー」
風の音とカーテンがめくれる音と一緒に幼馴染みが現れた。俺とこいつの部屋は隣で、隙間もあまり無いからすぐ来れる。だから朝が苦手な俺を起こしに来る訳だ。
「えへへ……アキ、エライ」
「………」
幼馴染みの姫路 文乃はハッキリ言うと可愛い。清潔感のある茶髪のセミロングに透明感のある瞳。唇は柔らかそうで身体もスラッとしている。容姿もいいが、一番は笑顔だ。文乃はとにかくいつも笑顔を見せる。それが親しみやすく思うんだろうか。
「…おい、その手やめろ」
「あ…ごめん」
俺が言うと頭に乗せていた手を引っ込める文乃。こんな時でも笑顔を絶やさない。
「それにしても、アキはまだヒーロー好きなんだね」
文乃は俺の部屋をくるっと見渡しながら笑顔で言う。その通り、部屋の中はヒーローグッズで溢れかえっている。あ、ちなみにアキとは俺。成瀬 秋哉の事だ。
だが、文乃も一緒になってハマってた筈だが?
「…文乃はこういうのは卒業か?」
「…あはは」
苦笑いを浮かべるだけだ。気になるがまぁ、いいか。それより学校に遅れてしまう。
「支度するから、お前も着替えて来たらどうだ?」
「あ、そうだね!じゃ。玄関で集合ね」
「バイバイ」と手を振ると来た時と同じように自分の部屋に帰って行った。それを確認してから俺も制服に着替える。
着替えてから家を出ると文乃と見慣れた連中の姿が見えた。見慣れた連中とは文乃と別の困った奴らの事だ。
「お、来た。遅いぞーー秋哉」
「遅いよ~」
連中は俺に気付き声を掛ける。あぁ、朝から最悪だ。
こいつらは悪友というやつだ。金髪で見た目、不良の三浦 鷹広。口も悪いし態度も悪く眼つきも悪いが草部の事が好きらしい。見た目の割に筋肉はある方で父親に剣道を習ってる。
そしてもう一人は草部 美代。流れるような黒髪を後ろのリボンで結んでいる。実家は神社で草部は巫女で破魔の矢を使えるらしい。まぁ、本当か分からないが。そしてなんと言っても胸だ。無駄にデカイ……これ以上言うとあれだし、止めよう。
「んじゃ、行くか」
高校は近所の高校だ。平凡だし偏差値も高くはない。しかも近いから徒歩で行けるのがいい。そして、いつも通り四人で登校する。これも慣れた事だ。
「なぁ秋哉。異世界ってあると思うか?」
「は?」
またか。
鷹広はとにかく影響されやすい。例えばアクション系の漫画を読んだら一週間はその技や主人公の話し方を真似していた。だから今回も、異世界に行く漫画を読んだんだろう。
「もー。夜更かしして、異世界系の漫画読んでたの?」
「いや~、友達に勧められて読んだらハマってさぁ」
やっぱりか。その友達も迷惑な事をしてくれたもんだ。最大で一ヶ月は続いた事もあるな……今回は何日続くか。
「三浦君そんなに面白いの?」
「面白いよ!文乃ちゃん、興味あるんなら貸すよ」
興味ない話しが繰り広げられている。そんな中、俺はあるものが目に入った。
ーーあれ……あの人、宙に浮いてないか?
もう一度じっくり見てみる。住宅街の中の電信柱。一見、電信柱に乗ってるように見えるが少し浮いてるようにも見える。黒いマントと仮面で顔を隠す変な奴…しかも浮いてる!!
「な、なぁ……あれ…やばくないかーーー!」
鷹広に話しかけた瞬間、背筋に寒気を感じた。ドクンドクンと心臓が高まるのも感じる。やばい…やばい!あれはやばいだろー。
「……アキ?もしかして、具合悪いの」
「に、逃げるぞ!!」
話しが噛み合ってない事も、おかしな事を言ってるのも分かってる。でも何故か逃げなきゃいけない気がしてならない。だって浮いてるアイツは間違えなく人間じゃないのだから。
「おいおい秋哉。お前、熱でもあるんじゃねーの」
「そうよ。いきなり逃げろだなんて」
「…アキ……」
「ち、違う! ほらあそこ見てみろ」
そう言って浮いてるアイツの方を指差したが、間違えなくさっきまでいたのに消えていた。それには俺も愕然とする。
「いねーじゃん。秋哉もまだまだだな、俺を驚かすなんざ百年早いぜ」
くそ…なんで消えた。あれは俺の見間違えだったのか?
『ドウダ、クイナク イキラレタカ?』
突然耳元で聞こえた。片言だが人間の声じゃない。仮面をしているからか、声が篭ってる。
「…ッ!!」
振り払うように振り向くと今度は煉瓦の塀の上に立っていた。見間違えじゃなかった、やっぱり浮いてた!
「え、何アイツ…」
「おぉー! かっけー」
鷹広はともかく、女子は気味が悪そうにしている。俺だって気味悪い。
『クイナク、イキラレタカ?』
俺に言った言葉を三人にも聞こえるように言う。
悔いなく生きれたか。何様だ、こいつは。
「…? な、なぁ。ちょっと気味悪いな」
さっきまで目をキラキラさせていた奴がじりじりと後ずさる。
アイツの姿はまるで死神だな……死神?
「おい、逃げるぞ!」
一斉に走り出す。
冗談じゃない、俺達はまだ十六歳だぞ? こんな訳の分からない奴に殺されてたまるか!
「ちょ、アイツ…死神?」
「俺に聞くなー!ハァハァ」
死神なんて世の中、実際に存在する訳ないんだ。でも、コスプレだとしてもどう浮いてるんだ…。
「み、美代ちゃん! 破魔の何とかで倒せない?」
おぉ、その手があった。草部は巫女だった。
「んー。出来るかもだけど、弓と矢は家だし……神社には悪しき者は入れないの、だから神社に向かいましょ!」
草部の家か。
ここからそんな遠くはない。神社に入ればアイツは入って来れない!
「それで行こう! 大丈夫か、文乃」
「う、うん」
心配なのは文乃の体力か。
走りながらチラッと文乃を見る。恐怖か疲労か分からないが呼吸も苦しそうだし顔色も悪い。
「……文乃、ほらっ」
少し照れもあるが今はそんな事言ってられない。俺は文乃に手を伸ばす。文乃の手を引いて引っ張ってあげれば少しはマシになるんじゃないか、と思ったんだ。
「……アキ…ありがとう」
「お、おぅ」
汗で首筋が妙にエロく感じるのは俺だけじゃない筈だ。こんな時に不謹慎だな、俺。
「見えた! ほら、もうすぐよ」
草部の家は石段を上った先にある。ラストスパート、直線だ! 鳥居も見えるし逃げ切れる。
「あと少しだぞ、文乃!」
だが、次の瞬間。繋いでた手が急に重くなり思わず手を止める。
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