3 / 3
成長日記
年長
しおりを挟む
卒園の頃、2人の周りには、優栞と梓という、ある意味ふたりを狙っているような2人組がいて、2人は度々苦しまされていた。
梓も優栞も、りおの事が大好きだ。
2人とも、里桜と遊びたいという一心から、楓のことをよく思っていなかった。
なんであんな子と一緒にいるの?
私の方が可愛いし
そんな言葉が聞こえてくることも度々あったが、りおが楓と離れることは無かった。
卒園の前の日、事件は起こった。
「りおちゃん、楓のものなくなっちゃった。知らない?」
「知らないよ」
「え~」
「かえちゃん、何がないの?」
「えーっと、」
楓が言葉を用意している間に、優栞がベチャベチャの泥団子を楓の制服につけ、その汚れた手を転びかけた楓の背中に擦り付けた。
バランスを崩した楓は顔から転び、顎を擦りむいた。
「優栞ちゃん!なんでかえちゃんのこと転ばせるの!!ダメだよ!なんでそーゆーことするの!!」
「かえちゃんが転んでもりおちゃんカンケーないじゃん!」
「かわいそーでしょ!」
「なにいい子ぶってるの!」
「優栞ちゃん!!かえちゃんに謝って!!」
「なんで優栞にだけひどい言い方するのっ?」
「優栞ちゃんが悪いことしたんでしょ!」
「りおちゃん、いいよ」
泣き顔の楓がりおの制服を掴んでりおを走り連れていった。
「だって、、」
里桜は悔しさで涙が止まらなかった。
「ふんっ!」
「へへっ!泣いてたの~」
梓と優栞は面白がっていた。
りおの手を掴んだ楓は、梓と優栞から見えない位置に来た。
「里桜ちゃんありがとう」
「なんで2人に怒らないの?なんでかえちゃん怒らないの?2人が悪いのに」
「怒ったら、2人とももっと怒っちゃうもん。だから、、」
「かえちゃんそれでいいのっ!!」
りおは悔しさで赤くした目を見開いて、楓に初めて怒った。
「なんでかえちゃんそれでいいのっ?りおは嫌だった!かえちゃんのよーふく汚されたのも、かえちゃんが転んじゃったのも嫌だった!!全部全部嫌だったの!!なのになんでかえちゃんはそれでいいの?痛くないの?」
「かえでは!!、、」
楓も内に秘めた思いを打ち明ける。
「ホントは、痛かったし、汚されたのも嫌だったけど!でも!そこで怒ったら、あの2人にもっと痛いことされる、、」
「痛いことって?」
りおは知らない。
りおを目的に梓と優栞が、楓のことをいじめているということを。
一見平和そうに見える幼稚園の中では、小さな嫉妬の積み重ねから成る、ひとつのいじめが生まれていた。
楓は、迷った。
言うべきか言わないべきか。
まだ漢字の1つも覚えていない、小さな小さな頭で考えた。
「里桜ちゃんにずっと言わなかった」
「うん」
「あずちゃんとゆーちゃんいじわるなの!ゆーくんみたいなの!だから、、だから、、、、怖いの、、」
「かえちゃん??」
楓はうずくまって泣き出した。
今まで一人で貯めてきた不満を出し切るように、りおの前で充分に泣いた。
「かえちゃん、、」
「2人は、、里桜ちゃんのこと大好きなの」
「ん?」
「2人は、りおちゃんと一緒がいいから、だから、楓どいて欲しいって言って、だから、楓いっぱい叩かれたの、だから、楓可愛くないの、里桜ちゃんに嫌われて1人になるの、だからりおちゃんにこのこと言いたくなかった。りおちゃんがみんなみたいに、、」
「かえちゃん、、」
「りおちゃんに嫌われたら楓、、」
「かえちゃんのこと絶対嫌いにならないよ!!知ってるんだもん!りおはかえちゃんのこと絶対絶対ぜーーーったいに嫌いにならないもん!ぜーったいだもん!約束する!」
「だから、りおちゃん」
「なぁに?」
「楓りおちゃんと遊ぶのやめにする」
「え!、、なんで!!」
「みんなが里桜ちゃんと遊びたいの、ゆうくんが、楓と里桜は釣り合ってないって」
「釣り合ってないってなぁに?」
「ゆうくんに聞いたら、楓が下すぎて、嫌な人すぎて、里桜ちゃんと一緒にいるのなんて出来ないんだって」
「んー?ちょっとりおには難しい~」
「楓りおちゃんと遊んでたかったけど、でも、楓がりおちゃんの友達減らしちゃうんだって」
「りおは、かえちゃんと遊んでたいからっ!!りおだって、、かえちゃんしかお友達いないもんっ!!」
「翔華ちゃんもあずちゃんもゆーちゃんもかれんちゃんもりょーすけくんもいおくんもいーっぱいいるでしょっ!!」
「いるけど、でもかえちゃんが1番大好きなの!!かえちゃん一緒に遊ぼ?じゃないとりお寂しくなっちゃう」
「楓はりおちゃんと遊んじゃ、、」
「いいの!りおがいいって言ったらいいの!なんでいじわるさんのゆーこと聞くの?りおのゆーこと聞くんでしょ!!分かった!?」
「うん、、、」
「にこってして!にこって!そっちのほーがかえちゃん可愛い」
里桜は楓の制服に着いた泥を払いながら呟いた。
「なんで里桜じゃなくてかえちゃんなの」
「ん?」
「なんでもない、かえちゃん!たいくぎ着替えよ!」
「え、、かえで、、たいくぎなくなっちゃったから、、」
「あ、、うーん、じゃあ!里桜の貸してあげる!!」
「いいの、、?でも、里桜ちゃんの汚れちゃうかもしれ、、」
「いいの!!早く!上行こ!!」
「うん、、」
楓が里桜の体育着に着替えている間、里桜は教室中を探し回った。楓のものが全部無くなるなんてありえない。先生も児童も外に出ていった2人きりの教室の中で、全員のロッカーを探し回って、楓のものが紛れていないか確認していた。
「かえちゃん、、ない、、」
「うん、、」
「お外かな??お外に忘れてきちゃったのかな??」
「いや、、たぶん、、」
「うん」
「ゆーちゃんかあずちゃんが楓のものとって、それでどっかに隠れさしたんだとおもう」
「そうなの!?じゃあ聞きに行こ!」
「ダメ!!」
楓が大きい声で叫び、足を止めると、里桜は驚いた顔で楓を見つめた。
「また、、またいじわるされちゃうでしょ?」
「わかった!じゃあ里桜が聞いてくるから、かえちゃんここで待ってて!」
「でも、、りおちゃんがいじわるされたら、、、」
「だーいじょーぶ!!待ってて!!」
楓は里桜の手を離さなかった。
「かえちゃん?」
「気をつけてね、、」
楓は泣きそうな顔をして仕方なくりおの手を離した。
りおが砂場に行くと、梓と優栞は、まだ砂場にいた。
「あれー?かえちゃんはー?」
「かえちゃんはお留守番してるの、あのね、2人に聞きたいことがあるんだけど」
「なーにー?」
「りーちゃんもかえちゃんのこと嫌いになったの?」
「違うよ!!かえちゃんのお道具とかお洋服とかどこに行ったか知ってる??」
2人はぎくっと肩を震わせた。
「うーん」
「しってるかもね~」
「ほんと??どこにあるの?教えて!!」
「どーしよっかなぁ」
「じゃあヒントね!園庭にあるよ」
2人は目を合わせてニヤニヤしていた。
「ほんとに!?分かった!ありがとう!!」
ヒントを得られた里桜は喜んで、楓のところに走って戻った。
「かえちゃん!お外にあるって!」
「ほんとに??」
「探しに行こ!」
「うん!!」
2人は手を繋いで外に出て、園庭の至る所を隅々まで探した。
「あ!!」
園庭にある雑木林の、暗い木の下に来た時、りおが叫んだ。
「あれじゃない!?」
「あ!あれだ!!」
2人は荷物のところまで走っていって、荷物を眺めた。
「汚くなっちゃってる、、」
楓が涙目になって言った。
りおは粘土を持ち上げて、中を開けた。
すると、中には土が入れられて、ねんどと土がぐちゃぐちゃに混ぜられていた。
体育着も、一昨日の雨で作られた水溜まりに浸かり、泥水が染み付いていた。りおは何も考えることが出来なくなり、ただただ黙って、途方に暮れていた。
「りおちゃん、ごめんね、楓だけで来ればよかった。」
「かえちゃんだけで来たら、、」
りおは泣きだした。
「なんでかえちゃんがこんなことされるの、、」
「りおちゃん、、」
「かえちゃん、2人でこれ教室まで運ぼ?」
「うん、、」
2人は泥水に手を伸ばし、楓の泥水だらけになった荷物を持ち上げた。
園庭に出た時、砂場に梓と優栞の姿はなかった。
2人が泥水を払いながら荷物を運んでいると、りおの後ろで“ガラガラ”という音がした。りおが後ろを向いたのとほぼ同じ瞬間に、ガラガラと音を立て、スピードをできるだけ出してスクーターを漕いでいた梓と優栞が、連続で楓に当たった。
1回目、梓が当たった時に楓は物を落とし、2回目、優栞がぶつかった時に楓は転んで、顔を打った。
「え、、」
りおは目の前で起こった衝撃的な出来事が信じられず、荷物を置いて立ち尽くした。
楓が起き上がろうとした時、りおはやっと意識を取り戻し、「かえちゃん、、」としゃがみこんだ。
すると、同じようにスクーターを最高速度で出して“バン”と大きな音を立てて、楓にゆうがぶつかった。
楓は頭を打ち、咳き込み、倒れ込んだ。
「かえちゃん!大丈夫??ごめんね、ごめんね、、」
楓は全身の力を振り絞って、荷物を持って立ち上がった。
りおはそれに続いて、楓の後ろについて歩いた。
やっとの事で教室に着くと、楓は倒れ込んだ。
その頃には2人とも号泣していた。
「痛い痛い」と嘆く楓と、「ごめんねごめんね」と謝り続けるりおは、2人きりの教室の中で泣きわめいた。
りおは楓の眉毛辺りのところから出てきた血を拭き、いつも先生がやっているのを真似して消毒をして絆創膏を貼った。
ティッシュには赤黒い血が滲んでいた。
楓の顔は、泥水と砂と涙と血が混ざっていた。
それでもりおは、楓の顔を綺麗にして、楓のヒザも頭と同じように手当てをした。
傷口が全部手当されると、2人は一緒に荷物の汚れを落とし始めた。
「かえちゃん、さっき、さっき、、すぐかえちゃんのこと守ってあげられなくてごめんね、ぼーっとしちゃったの、ほんとにごめんね」
「ううん!楓、里桜ちゃんが近く来てくれた時、嬉しかった。すっごいすっごい嬉しかった。ありがと!!」
楓の痛そうな体を見て、心から喜んでいそうだけど、やっぱりどこかに、誰にも埋められないくらい大きな穴が、楓の心の中に空いてしまったことに、2人は気づいていた。
いや、里桜は気づいていた。
楓は、、もしかしたら、気づいていなかったのかもしれない。
自分が追い込まれて、これが一生のトラウマになるということを。
これが全ての始まりだった。
楓の人生を悪い方向に変える、第1歩だった。
梓も優栞も、りおの事が大好きだ。
2人とも、里桜と遊びたいという一心から、楓のことをよく思っていなかった。
なんであんな子と一緒にいるの?
私の方が可愛いし
そんな言葉が聞こえてくることも度々あったが、りおが楓と離れることは無かった。
卒園の前の日、事件は起こった。
「りおちゃん、楓のものなくなっちゃった。知らない?」
「知らないよ」
「え~」
「かえちゃん、何がないの?」
「えーっと、」
楓が言葉を用意している間に、優栞がベチャベチャの泥団子を楓の制服につけ、その汚れた手を転びかけた楓の背中に擦り付けた。
バランスを崩した楓は顔から転び、顎を擦りむいた。
「優栞ちゃん!なんでかえちゃんのこと転ばせるの!!ダメだよ!なんでそーゆーことするの!!」
「かえちゃんが転んでもりおちゃんカンケーないじゃん!」
「かわいそーでしょ!」
「なにいい子ぶってるの!」
「優栞ちゃん!!かえちゃんに謝って!!」
「なんで優栞にだけひどい言い方するのっ?」
「優栞ちゃんが悪いことしたんでしょ!」
「りおちゃん、いいよ」
泣き顔の楓がりおの制服を掴んでりおを走り連れていった。
「だって、、」
里桜は悔しさで涙が止まらなかった。
「ふんっ!」
「へへっ!泣いてたの~」
梓と優栞は面白がっていた。
りおの手を掴んだ楓は、梓と優栞から見えない位置に来た。
「里桜ちゃんありがとう」
「なんで2人に怒らないの?なんでかえちゃん怒らないの?2人が悪いのに」
「怒ったら、2人とももっと怒っちゃうもん。だから、、」
「かえちゃんそれでいいのっ!!」
りおは悔しさで赤くした目を見開いて、楓に初めて怒った。
「なんでかえちゃんそれでいいのっ?りおは嫌だった!かえちゃんのよーふく汚されたのも、かえちゃんが転んじゃったのも嫌だった!!全部全部嫌だったの!!なのになんでかえちゃんはそれでいいの?痛くないの?」
「かえでは!!、、」
楓も内に秘めた思いを打ち明ける。
「ホントは、痛かったし、汚されたのも嫌だったけど!でも!そこで怒ったら、あの2人にもっと痛いことされる、、」
「痛いことって?」
りおは知らない。
りおを目的に梓と優栞が、楓のことをいじめているということを。
一見平和そうに見える幼稚園の中では、小さな嫉妬の積み重ねから成る、ひとつのいじめが生まれていた。
楓は、迷った。
言うべきか言わないべきか。
まだ漢字の1つも覚えていない、小さな小さな頭で考えた。
「里桜ちゃんにずっと言わなかった」
「うん」
「あずちゃんとゆーちゃんいじわるなの!ゆーくんみたいなの!だから、、だから、、、、怖いの、、」
「かえちゃん??」
楓はうずくまって泣き出した。
今まで一人で貯めてきた不満を出し切るように、りおの前で充分に泣いた。
「かえちゃん、、」
「2人は、、里桜ちゃんのこと大好きなの」
「ん?」
「2人は、りおちゃんと一緒がいいから、だから、楓どいて欲しいって言って、だから、楓いっぱい叩かれたの、だから、楓可愛くないの、里桜ちゃんに嫌われて1人になるの、だからりおちゃんにこのこと言いたくなかった。りおちゃんがみんなみたいに、、」
「かえちゃん、、」
「りおちゃんに嫌われたら楓、、」
「かえちゃんのこと絶対嫌いにならないよ!!知ってるんだもん!りおはかえちゃんのこと絶対絶対ぜーーーったいに嫌いにならないもん!ぜーったいだもん!約束する!」
「だから、りおちゃん」
「なぁに?」
「楓りおちゃんと遊ぶのやめにする」
「え!、、なんで!!」
「みんなが里桜ちゃんと遊びたいの、ゆうくんが、楓と里桜は釣り合ってないって」
「釣り合ってないってなぁに?」
「ゆうくんに聞いたら、楓が下すぎて、嫌な人すぎて、里桜ちゃんと一緒にいるのなんて出来ないんだって」
「んー?ちょっとりおには難しい~」
「楓りおちゃんと遊んでたかったけど、でも、楓がりおちゃんの友達減らしちゃうんだって」
「りおは、かえちゃんと遊んでたいからっ!!りおだって、、かえちゃんしかお友達いないもんっ!!」
「翔華ちゃんもあずちゃんもゆーちゃんもかれんちゃんもりょーすけくんもいおくんもいーっぱいいるでしょっ!!」
「いるけど、でもかえちゃんが1番大好きなの!!かえちゃん一緒に遊ぼ?じゃないとりお寂しくなっちゃう」
「楓はりおちゃんと遊んじゃ、、」
「いいの!りおがいいって言ったらいいの!なんでいじわるさんのゆーこと聞くの?りおのゆーこと聞くんでしょ!!分かった!?」
「うん、、、」
「にこってして!にこって!そっちのほーがかえちゃん可愛い」
里桜は楓の制服に着いた泥を払いながら呟いた。
「なんで里桜じゃなくてかえちゃんなの」
「ん?」
「なんでもない、かえちゃん!たいくぎ着替えよ!」
「え、、かえで、、たいくぎなくなっちゃったから、、」
「あ、、うーん、じゃあ!里桜の貸してあげる!!」
「いいの、、?でも、里桜ちゃんの汚れちゃうかもしれ、、」
「いいの!!早く!上行こ!!」
「うん、、」
楓が里桜の体育着に着替えている間、里桜は教室中を探し回った。楓のものが全部無くなるなんてありえない。先生も児童も外に出ていった2人きりの教室の中で、全員のロッカーを探し回って、楓のものが紛れていないか確認していた。
「かえちゃん、、ない、、」
「うん、、」
「お外かな??お外に忘れてきちゃったのかな??」
「いや、、たぶん、、」
「うん」
「ゆーちゃんかあずちゃんが楓のものとって、それでどっかに隠れさしたんだとおもう」
「そうなの!?じゃあ聞きに行こ!」
「ダメ!!」
楓が大きい声で叫び、足を止めると、里桜は驚いた顔で楓を見つめた。
「また、、またいじわるされちゃうでしょ?」
「わかった!じゃあ里桜が聞いてくるから、かえちゃんここで待ってて!」
「でも、、りおちゃんがいじわるされたら、、、」
「だーいじょーぶ!!待ってて!!」
楓は里桜の手を離さなかった。
「かえちゃん?」
「気をつけてね、、」
楓は泣きそうな顔をして仕方なくりおの手を離した。
りおが砂場に行くと、梓と優栞は、まだ砂場にいた。
「あれー?かえちゃんはー?」
「かえちゃんはお留守番してるの、あのね、2人に聞きたいことがあるんだけど」
「なーにー?」
「りーちゃんもかえちゃんのこと嫌いになったの?」
「違うよ!!かえちゃんのお道具とかお洋服とかどこに行ったか知ってる??」
2人はぎくっと肩を震わせた。
「うーん」
「しってるかもね~」
「ほんと??どこにあるの?教えて!!」
「どーしよっかなぁ」
「じゃあヒントね!園庭にあるよ」
2人は目を合わせてニヤニヤしていた。
「ほんとに!?分かった!ありがとう!!」
ヒントを得られた里桜は喜んで、楓のところに走って戻った。
「かえちゃん!お外にあるって!」
「ほんとに??」
「探しに行こ!」
「うん!!」
2人は手を繋いで外に出て、園庭の至る所を隅々まで探した。
「あ!!」
園庭にある雑木林の、暗い木の下に来た時、りおが叫んだ。
「あれじゃない!?」
「あ!あれだ!!」
2人は荷物のところまで走っていって、荷物を眺めた。
「汚くなっちゃってる、、」
楓が涙目になって言った。
りおは粘土を持ち上げて、中を開けた。
すると、中には土が入れられて、ねんどと土がぐちゃぐちゃに混ぜられていた。
体育着も、一昨日の雨で作られた水溜まりに浸かり、泥水が染み付いていた。りおは何も考えることが出来なくなり、ただただ黙って、途方に暮れていた。
「りおちゃん、ごめんね、楓だけで来ればよかった。」
「かえちゃんだけで来たら、、」
りおは泣きだした。
「なんでかえちゃんがこんなことされるの、、」
「りおちゃん、、」
「かえちゃん、2人でこれ教室まで運ぼ?」
「うん、、」
2人は泥水に手を伸ばし、楓の泥水だらけになった荷物を持ち上げた。
園庭に出た時、砂場に梓と優栞の姿はなかった。
2人が泥水を払いながら荷物を運んでいると、りおの後ろで“ガラガラ”という音がした。りおが後ろを向いたのとほぼ同じ瞬間に、ガラガラと音を立て、スピードをできるだけ出してスクーターを漕いでいた梓と優栞が、連続で楓に当たった。
1回目、梓が当たった時に楓は物を落とし、2回目、優栞がぶつかった時に楓は転んで、顔を打った。
「え、、」
りおは目の前で起こった衝撃的な出来事が信じられず、荷物を置いて立ち尽くした。
楓が起き上がろうとした時、りおはやっと意識を取り戻し、「かえちゃん、、」としゃがみこんだ。
すると、同じようにスクーターを最高速度で出して“バン”と大きな音を立てて、楓にゆうがぶつかった。
楓は頭を打ち、咳き込み、倒れ込んだ。
「かえちゃん!大丈夫??ごめんね、ごめんね、、」
楓は全身の力を振り絞って、荷物を持って立ち上がった。
りおはそれに続いて、楓の後ろについて歩いた。
やっとの事で教室に着くと、楓は倒れ込んだ。
その頃には2人とも号泣していた。
「痛い痛い」と嘆く楓と、「ごめんねごめんね」と謝り続けるりおは、2人きりの教室の中で泣きわめいた。
りおは楓の眉毛辺りのところから出てきた血を拭き、いつも先生がやっているのを真似して消毒をして絆創膏を貼った。
ティッシュには赤黒い血が滲んでいた。
楓の顔は、泥水と砂と涙と血が混ざっていた。
それでもりおは、楓の顔を綺麗にして、楓のヒザも頭と同じように手当てをした。
傷口が全部手当されると、2人は一緒に荷物の汚れを落とし始めた。
「かえちゃん、さっき、さっき、、すぐかえちゃんのこと守ってあげられなくてごめんね、ぼーっとしちゃったの、ほんとにごめんね」
「ううん!楓、里桜ちゃんが近く来てくれた時、嬉しかった。すっごいすっごい嬉しかった。ありがと!!」
楓の痛そうな体を見て、心から喜んでいそうだけど、やっぱりどこかに、誰にも埋められないくらい大きな穴が、楓の心の中に空いてしまったことに、2人は気づいていた。
いや、里桜は気づいていた。
楓は、、もしかしたら、気づいていなかったのかもしれない。
自分が追い込まれて、これが一生のトラウマになるということを。
これが全ての始まりだった。
楓の人生を悪い方向に変える、第1歩だった。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
作品登録しときますね(^^)
ありがとうございます!
これから少しずつですが加えていくつもりです!