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学びの庭にて
44.(※)
しおりを挟む「離せ!ボクに気安く触るなぁ!!」
翡翠階級の校舎の一室。
普段使われないせいで埃が溜まっているそこに無理矢理連れ込まれ、屈強な生徒たちに拘束されて地面に情けなく押し付けられている少年が、それでも尚何とか逃げ出さんと大暴れしていた。
げらげらと下品に嗤ってそんな少年の頬を殴打する男に、少年は怯んだように瞳を潤ませる。男はかつて彼に手を出そうとして、自分たちよりも何歳も幼い少女の騎士にボコボコにされたらしい。さぞや恨みやら屈辱やらでいっぱいなのだろう。ここぞとばかりに、愉しそうに少年のシャツを破り始める。
「やだ!!やめろ、ボクを誰だと思ってるの!!」
「鈍色階級の奴隷だよばぁか!!!ギャハハ、今日はいつも見たいに騎士サマに守ってもらえると思うなよぉ!」
「騎士サマたちは理事長命令で風紀との会議でいないんだってよ!!――なぁ、リーベ」
振り返って確認してくる男たちは、何処までも小物だ。ラルムが無言で頷くと、彼らはどこか安堵したかのように窓の外をちらちらと確認し、再度少年に襲い掛かる。先程までは何処か余裕のあった少年は、護衛騎士の助けが来ないと聞いた瞬間、ざっと顔を青ざめさせた。漸く、自分に本当の危機が迫ってることに気付いたらしい。
徐々に服が剥かれていき、その生白い日焼けのない身体が外気に晒される。暖かい季節にもかかわらずガタガタと震えている少年に、ラルムの心は冷めていった。
『ロバル・フィオーレを輪姦してくれるかい?』
1時間程前。突然学園の最高権力者である理事長から通信魔具で連絡がきた時、ラルムは思わず身震いした。自分の気に入らない人間、弱い人間は悉く冷遇し、淘汰する彼からの質問は、命令と同義である。ラルムに決定権などある訳がない。
少年ーーロバル・フィオーレに悪意を抱くものは多い。というか悪意を抱いている者が殆どだろう。わざわざ自分が長を勤める親衛隊の中から募集しなくても、適当に声を掛ければ人数は簡単に集まる。ラルムが集めた屈強な生徒達が彼を無理矢理ここまで引き摺ってきても、誰も咎めたりしなかった。鈍色に堕ちた人間の正しい扱いに、寧ろ賞賛の言葉すらもらう始末だ。全くもって、歪んでいる。
まもなく全裸にされたロバルに、誰かがごくりと唾を飲む。性格は塵以下だが、身体の方は中々のものである。ウェーブがかった顎までの金色の髪の毛は鈍色の環境のせいか少し荒れてパサついてしまっているが、それでも元々の艶を失ってはいないし、そばかすが特徴の顔は非常に整っている。淡い紫色の目はくりくりと大きく、腐った人間性がなければかなり人気になっていただろうに。宝の持ち腐れだ。
全裸で四肢を拘束された彼に数人の生徒が録画用の魔具を近づける。彼は羞恥と屈辱に顔を真っ赤にして涙ぐんだ。
「やだぁ、やめてよ!誰かぁ!!―――ングッ、」
「うるっせぇなぁ誰も助けに来ねぇよ。おい、こいつの口なんか突っ込んどけ。口臭くて陰茎加えさせる気にもなんねぇわ」
「やッッ、んん"ッ――――!!!!」
脱がされた自身の下着を口に突っ込まれ、思わずえづくロバルに、男達は楽しそうに暴力の雨を降らせる。全く暴力慣れしていない彼は、大して受け身も取ることができずにその生白い身体に醜いあざを増やしていく。
ふと、視線を感じて顔を上げる。すると、ロバルが助けを求めるかのように、唯一傍観に徹していたラルムを涙ぐんだ紫の目で見上げていた。
自分の心の奥底に燻る憤怒や憎悪が、グツグツと煮立ってくるのを感じる。こんな、こんな風に、身体ばかりでかいだけの男達に反抗もできずマワされようとしている少年たちの命令で、ラルムの故郷である『リリアナ村』は滅ぼされたのだ。ラルム1人でも簡単に殺せるような奴らの命令で、ルルは死んだのだ。
魔核の原料となる資源が多く取れるという鉱山を取り合う交戦で、フィオーレ王国は前代未聞の苦戦を強いられた。その結果、王族が彼らフィオーレ王国の騎士に命じたのが、『リリアナ村を村ごと壊滅させ、鉱山資源をヘイデル王国に流さないようにすること』。結果、沢山の火属性の魔法士と爆発物によって、リリアナ村は、草木も残らず更地と化したのだ。――村人も、ヘイデル王国の騎士も、フィオーレ王国の騎士も共に。現場には沢山の誰とも分からぬ肉塊だけが散乱していたという。
ラルムはゆったりと柔らかい笑みを浮かべ、ロバルに近づく。彼の目が期待に染まるのを見つめ――彼の柔らかな腹を思いっきり蹴る。予想だにしなかった攻撃に、咥えた下着の奥で嘔吐したらしく、彼の肩付近を押さえつけていた生徒からブーイングが上がった。それをしれっと無視して、ラルムはロバルのすぐそばにしゃがみ込む。そして彼の前髪を思いっきりつかみあげた。
「ひ、ぐぅ"!!!ううう"う"!!!」
「助けてもらえるとでも思ったか?馬鹿もここまでくると救いようがねぇな――死ねよマジで」
「ヒュウ!言うねぇ」
ラルムの心無い言葉を輪姦開始の合図であると受け取ったらしい生徒たちは、くぐもった叫び声をあげる小さな少年へと覆いかぶさる。
陰茎や乳首にしゃぶりつかれ、襲い来る刺激に身を震わせるロバル。元来快楽には弱い質なのだろう。人間の尊厳を奪うような凌辱で簡単に快感を拾い上げていく彼の淫乱っぷりに、男達が馬鹿にしたように、あるいは興奮したように嗤う。レイプに慣れた生徒の黒ずんだ陰茎を顔に当てられ噎せるロバルは、ボロボロと無様に涙を零している。
こんな三下如きに、フォーサイス君のような人間が命を捧げるのか。あまりの馬鹿馬鹿しさにラルムは思わず鼻で笑ってしまう。どう考えても実力は雲泥の差があるし、反抗しようと思えばいくらでもできる。なのに、彼はロバルの理不尽な暴力暴言をその身に受け、彼の言葉を鵜呑みにして、自ら不幸を求めに行くのだ。
フィオーレ王国の騎士に憎しみを抱くラルムにでも、彼が純粋で真面目で努力を知っている人だとわかった。講堂で初めて彼を見たときは、どこか故郷での幸せを諦めたラルム自身のような、光を失った目をしていた。しかし、最近は何か研究に没頭しているらしいし、少し顔色も良くなってきている。それは本来、ラルムにとって喜ばしくないことであるはずなのに、どこかほっとしている自分がいることに、ラルムは近頃ずっと混乱していたのだ。
唇を重ねたときの煽情的なフォーサイス君の表情が甦り、慌てて首を振る。あの時は可笑しくなっていたのだ。
「ん、ん、んぐ、――――!!!」
どうやら1度目の射精をさせられたらしい。びくびくと身体を震わせて絶頂する彼に、録画魔具が向けられる。存在を否定するような暴言にえぐえぐと泣くロバルに爆笑が上がる。可哀想に。彼の短い人生でおよそ味わったことの無いであろう耐え難い屈辱は、まだ終わらない。――まぁ、可哀想なんて毛ほども思わないが。彼に屈辱を見せられた人間たちと、同じ思いをすればいいんのだ。
外に人の気配がする。透明な窓から中の惨劇は全て見えているだろう。しかし、その気配は一切足を止めることもなく、どこかへと行ってしまった。仕方ない。鈍色階級の人間は、何をされても罪を問うことができないのだから。それこそ、ロバルにフォーサイス君が逆らえないように。
「……」
教卓へと腰掛けたラルムは、ゆっくりと赤褐色の目を伏せ、そして、瞬かせる。
――ふと、思いついた。
もしこの思いつきが功を奏したならば、ラルムの本来の思惑通りにはもう進まなくなる。しかし、ラルムにとって、フォーサイス君はもう、いっそ憐れんでしまう程に不幸そのものだった。幸せがすぐそばにあるのに、簡単に手に入るのに、それに手を伸ばせない可哀想な青年。
元来悪人ではないラルムは、彼をとうに憎めなくなっていた。フォーサイス君は、安寧を、自由を手に入れるべきだと、思ってしまった。
通信魔具を起動する。後肛に手を伸ばされ、身を捩る少年を見下ろして、せめてもの腹いせに舌を打つ。
――お前に駆けてやる。これで、どう転がるかは、フォーサイス君とお前次第だ。
何故、何故、何故!!
何故自分がこんな目に遭わねばならないのか、ロバルには理解が出来なかった。だって、ロバルは生まれながらにして高貴で崇拝されるべき存在なのだ。人々の上に立ち、あらゆる願いが叶う、そんな上位存在なのだ。
なのに、最近の学園生活はと言えば、ロバルにとって耐え難い理不尽な屈辱を与えられることばかり。下位存在であるはずの愚民共に、使用人のような扱いを受けていた。ーーそれだけでも耐え難いのに。
ーーブチブチブチィッッ!!
「ぅ"んんん"んん"ぅ"!」
潤滑油もなしに後肛に指を突き入れられ、思わず絶叫する。すると即座に飛んでくる拳をよけることもできず、視界がチカチカと明滅した。
ルキナ様との行為も学園に来て以来ご無沙汰だったから、恐らく血が出てしまっているだろう。ジクジクと鈍い痛みと後肛をまさぐられる不快感に呻く。どうしてこんな目に遭わねばならないのだ。ーーこんな、性奴にするような仕打ち、フィオーレ王国なら全員即座に死刑にしてやれるのに。
しかし、ルキナ様によって開発されていた後ろは、やはり痛みから逃げるように快楽を掬いあげてはロバルに与えてくる。顔を真っ赤にして善がるロバルに「淫乱」「痴れ者」なんて暴言が飛び交った。
「ん、ぁ"、ぅ、ん、」
「ギャハハハ!!!気持ちいいなぁ淫乱王子!!!」
レイプ慣れしている男の巧みな指捌きにグチグチと追い立てられ、びく、びく、と身体を震わせながら中イキを繰り返すロバルは、虚空を見上げた。無様に肛門を晒すように広げられた両足が淫猥に痙攣するのを見つめ、ふと窓の外へと目を向ける。
「ーーーーー!!!!!」
ルキナ様が、此方を見ていた。生徒達にいいようにされるロバルの姿を、ルキナ様がいつも通りの穏やかな笑みをたたえて見つめていた。偶然通りがかったのだろう。彼の目には微かな驚きが浮かんでいた。
助けて、と口の動きだけで伝える。彼は聡い人だから、きっと伝わっただろう。今にこの部屋の扉を開けて、ロバルの体を押さえつける屈強な生徒達を蹴散らして駆け寄ってきてくれるのだろう。
漸く終わる奈落のような時間に、ロバルが安堵の息を漏らしたーーその時。
ルキナ様が微笑をたたえたまま、フイッと視線を逸らした。
「ーーーーーーーぇ、」
何故?と、疑問だけが脳を駆け巡る。指を3本に増やされて前立腺を掻き回される痛みも快感も、ロバルの小さな掌に陰茎を握らせて自慰に耽る男達も、全てが意識の外で。ただただ絶望だけが、ロバルを包み込んだ。
『フォーサイス殿の代わりに俺が護るよ』と言ってくれたのに。『傍にいるよ』『俺の愛しい婚約者殿』と愛を囁いてくれたのに。
あぁ、全て嘘だったのだ。
ロバルはこの時になってようやく、この国に自分の味方がいないことを知った。
黒黒しいグロテスクな陰茎が、ロバルの小さな後肛へと添えられる。げらげらと喧しい下劣な嗤い声も、顔面に向かって飛んできた強烈な臭いを放つ白濁も、何もかもが思考の外側だった。
自分が今まで与えてきた絶望に、ロバルはボロボロとただ涙を無様に流すことしか出来なかった。
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