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青空の下にて
14.
しおりを挟むぶははははは馬鹿め!!根深い恐怖を植え付けて戦力を下げるのが俺の本当の目的、まんまと引っかかったなぁ!!!
――と言いたいところだが、新参が多少強くなった所で別に関係ないのでどうでもよかった。まぁ、結果として今後剣すら持てなさそうな有様なのでこれはこれで良しとする。この場にアリアがいれば「相変わらず最低ですね」なんて言われかねないことを考えながら、蹲って震えるクソ野郎を見つめる。
俺としては、こいつをボコボコにしてやれたので大変満足だ。……多分あとでガタが来るんだろうけど。
『幻影結晶』は、死亡するか最終勝者が決まれば自然と元の世界へと転送され、結晶内で得た外傷や汚れなどはすべてなかったことになる。そのため、あちこちにこびりついていた返り血はすっかり綺麗になっている。地面に転がっている騎士20人ほども怪我は全てなくなっている。ーーが、憐れなことに恐怖に竦んでえらいことになっていた。ごめんな。でも何回もやればいずれ慣れるから。俺も死にすぎてその内よくわかんなくなったから。
ぱちぱちぱち、と単調な拍手が円形訓練所に響く。ぼんやりと雑魚共を見つめていた俺が視線を移すと、そこには先程とは違い、かなりの人数が座っていた。見たところ、騎士だけではない。
「いいものを見せてもらっちゃったわ。どう?うちのカワイ子ちゃん達は」
何がカワイ子ちゃんだ、と思う。先程から救いを求めるように見つめる彼らを一瞥もせず微笑むツヴァイ騎士団長に彼らへの関心がないことなど、俺でなくてもわかる。彼の隣に立つ王様も呆れたように白い目を向けていた。
限界が来たのか、1人の騎士がぼろりと涙を零し、失神した。自分の上司に真面目に取り合ってもらえないのはつらいよな。分かるよ。俺も第3王子見てると殺してやりたくなるから。
「……まず散り散りに逃げる時点で駄目です。何人かは残って最初の足止め役。基本的に剣士よりは魔法士の方が良いですね」
剣士と魔法士両方が混ざってしまうと初動の連携が取りづらい。かといって剣士で集めてしまうと威嚇効果はあるが視線でタイミングがバレやすいので、魔法で一斉攻撃するほうが他の騎士を逃がしやすい。まぁ、初動要員はほぼ間違いなく全員死ぬのでその覚悟ができていないと無理だろう。そこはもう訓練次第だ。慣れろ。それか強くなれ。毎日3回、5年間くらい続ければ「あぁ、自分は死ぬのが仕事なんだ」と思考が洗脳されていくらしい。知らんけど。
……初動要員が殺されている間に、他の騎士を囲み、背後から順番に同時攻撃を図るべきだろう。弱いので1人ずつ突っ込んでも負けるし、一斉に突っ込んだ方がまだ怪我くらいは与えられる。はず。……多分。
「あら、普通に指導しちゃっていいの?」
「もともと指導のつもりです。――まぁ、誰も聞こえていないと思いますが」
しれっと八つ当たりした事実をなかったことにする。しかし、間違ったことは言っていない。第3部隊で同じような訓練をしているのは紛れもない事実である。ただ、一対全員ではなく大乱闘だが。同士討ちを経験させなかっただけ優しいと思って欲しい。
因みに、この訓練方法は俺が尊敬する第1部隊隊長(当時は訓練監督官だった)が俺がヒラ騎士だった時に考案したもので、当然賛否両論を呼んだ。特に、貴族の次男以下で適当に参加して忖度だけで上り詰めようとしている奴らは大いに反対した。外から監視されているのもあって逃げられないし、死ぬまで終わらせてもらえないし。
少なくとも俺は賛成派だったので、独立した今もやっている。
懐かしいなぁ。
ーーパカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、
「疲れたか」
「特には」
「……」
「……」
手を振って見送ってくれるツヴァイ騎士団長に会釈をし、本部を後にした。王族専用の馬車が整地された道を、規則的な音を響かせながら進んでいく。この足音が何となく心地いい。
まさか敵国の馬車に乗る日が来るなんて、昔の俺に言ってやりたい。『国賊じゃん。自害しろよ』って言われそう。俺なら言う。
……自害できるもんならしてるわ。魔法契約以前に第3部隊と第3王子を置いて死ねるわけがない。第3部隊に至っては俺の後を追いかねない。
せっかくフィオーレ王国の為に俺が集めた人材なのだ。そう簡単に殺す訳には行かない。
「どうだった」
「まぁまぁです」
「そうか」
「……」
「……」
元々さほどお喋りでないらしい王様と、彼に敵意以外持ち合わせていない俺が2人きりになれば会話なんてこんなものだ。気まずさしかないだろうに、よくこんなに連れ回すなぁなんて思う。
ちらりと目の前に座る彼を一瞥する。
小さな小窓から外の風景を眺めて黄昏ている様子の王様は、普段の威厳ある姿とは違う、どこか儚いような印象を与えた。西日に照らされてキラキラと輝く金色の目が宝石のようでしばし見とれていると、視線を感じたのか、金色が此方を向いた。あわてて目を逸らす。
会話の糸口を考えているのだろうか。何度か口が開閉しては、閉じた。
「……」
「……」
「驚きました?俺の戦い方」
「!」
「随分違ったでしょう」
そわそわと所在なげにする王様がなんとなく、なんとなく憐れに思えて、話題を引っ張り出してやる。
『幻影結晶』から出てきた時、まず最初に目に入ったのがなんとも言えない顔をした王様だったものだから。皆の言う「セレネ」は、あんな戦い方はしないのだろうなと思って。
俺が自発的に口を開いた事に大層驚いたらしい王様は、ぱちぱちと数回瞬きをした後、一つ頷いた。
「……新兵が相手とはいえ、傷一つなく圧倒するのは容易くはあるまい。世界最強の近衛騎士団と言われるだけのことはある」
「え、」
「前に相対した時から思っていたが、風魔法の制御も素晴らしかった。詠唱無しであの精度の魔法を繰り出せる魔法士はなかなかおらんだろうな。それに『魔法詠み』が出来る人間は私はお前以外に両手で数えられる程しか見たことがない」
「え、あ、」
「ツヴァイも言っていたぞ。20人の部下の犠牲でもお釣りが来るものを見せてもらったとな」
「……あ、そ、そう、ですか」
俺はてっきり、「セレネならもっとこうする」とか「セレネとは違ってこうだった」とか、そういう評価をされると思っていたので。
それに、敵とはいえ、自分よりも各上の人間にこんな風に賛美されたことがなかったので。
なんか、顔が熱い。
「レーネ?」
「!……ま、まぁそうでしょうね!俺はどちらかと言うと魔法の方が得意なので!」
「ああ、素晴らしかった」
「~~~~ッッッ別にッこのくらいフィオーレ王国なら当たり前なので!!!!」
赤くなった顔を悟られないように窓の外を見る。王様は尚も何か言いたげな様子だったが、頑として聞かない姿勢を貫いていれば、諦めて彼も風景に再び視線を投げた。
ーーあぁ、くる。
だめだだめだだめだ。髪の毛を乱暴に掻きむしる。
「素晴らしい」なんて。素晴らしくなんかない。人を殺す為だけに磨いた技が素晴らしいわけが無い。さっきだって、玩具のように同じ人間を弄んで俺は楽しんでいた。楽しかった。殺せたのが。それを褒められて喜ぶなんて。恥知らずにも程がある。
ぶるりと芯から震える。ーーーーを殺した相手だって楽しかったかもしれない。俺が小隊長にしたように、衝動のままに弄んで殺したかもしれない。ーーそんなの許せない。
自分だけは、自分の力を誇ってはいけない。
「ーーーーッッ"」
ぐしゃりと顔を歪める。ともすれば涙がこぼれそうな気がして、必死で上を向いた。
眩い西日が浮かんだ涙を蒸発させてくれないかと願って。
「……」
そんな俺の様子を、王様がじっと見つめていたことなんて、俺は知る由もない。
本当はもっと、もっと違うことに魔法を使いたかったはずだ。何故だか、思い出せないけれど。
「見た?」
「見た。レーネ泣いてた」
「もう駄目だね」
「うん、駄目」
「「迎えに行こう」」
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