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青空の下にて
11.
しおりを挟む「レーネ。こちらへ来い」
「レーネ。出掛けるぞ」
「レーネ。どれが欲しい」
レーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネレーネうるさいわァァァァァァ!!!!
敵国の国王陛下に謎にお仕置きをされてブチ切れてからというものの奴の様子がおかしい。
何処へ行くにも俺を連れて行こうとするし、なんなら機密であろう会議にも入室させようとする(流石に宰相に止められていた)。視察と評して俺を街に連れ出したり(街でもまたセレネorレーネ問題で揉めた。どうやらセレネは平民にも人気だったらしい)、物を買い与えたり。おかげで今の俺は多分、ここに来る前よりも裕福だ。
ちなみにヘイデルの新鮮な海産物はとても美味しかったです。内陸のフィオーレ王国では、基本敵に加工品しか出回らないので、生で食べる魚は初めて食べた。食べすぎてしまった。
ーーあれ以来全く手を出されることも無く。
どうやら俺が寝かされていたのはあろうことか国王陛下その人の寝室らしかったのだが、拒否したら客間に通された。許されるんかい。いや有難いけれども。
そして今日も。
「レーネ。騎士団の本部に視察に行くが来るか」
彼の執務室でぼんやりと棒立ちしていた俺に、王様はさらりととんでもない事を口にした。共に仕事をしていた宰相が頭を抱えてしまっている。俺も思わず白い目で奴を見てしまう。
「そりゃ行けるなら行きたいですけど。向こう様がお断りでしょうね。敵国の騎士なんて、まさに殺し合いの相手じゃないですか」
「いや騎士団長たっての願いだ」
「うーーん、どうやらヘイデル王国の方々は随分寛容な精神をお持ちのようですね????」
俺はもうこの国が分からないッッッ。
敵国の騎士団の役持ちを本部になんか突っ込まれたら普通は反発の嵐だ。というかその場で殺す。ヒラでも殺すけど役持ちなんて、拷問に次ぐ拷問の末殺す。
「……あぁ、拷問でもします?」
「いや、一緒に訓練をしたいらしい。騎士団の戦闘担当の実力がみたいとな」
「……俺、対人向きじゃないんですけどねぇ。……まぁ、行ってもいいなら有難く視察させてもらいますよ」
思わぬ棚ぼたににこやかに微笑めば、何故か国王と宰相は瞬きをした後、がしりと手を握りあっていた。
沈黙。
じろじろと俺を観察しているヘイデル騎士団と、対面する国王とそのそばに控える俺。全く喋らない俺に戸惑っている相手の騎士団長が、王をちらりと見つめる。
国王は小さく息を吐くと、俺の背中をとん、と優しく叩いた。
「レーネ」
「……レーネ・フォーサイス。フィオーレ王国近衛騎士団第3部隊隊長」
「……もう少し可愛げのある自己紹介は出来ないのか」
「できません。セレネ・ブライトでは無いので」
そっぽを向いたままそう言うと、王は大きく溜息をつき。騎士団の人間たちはにわかにざわついた。敵にセレネの名前を出されるのは嫌か?馬鹿め!!敵の嫌なことは進んでやる。これ騎士の鉄則だから!!
どんどん悪くなっていく空気を察したのか、王が騎士団長に「終わりだ」と告げる。苦笑した騎士団長が、1歩前に出た。
「初めまして……と言うべきかしら。国際会議とかで何度か会ってはいるけれど。お喋りした事はないわよね」
「ないですね。初めまして」
「ええ初めまして。そしてヘイデル王国騎士団本部へようこそ。アタシはアイン・ツヴァイ。今日はよろしくね」
「よろしくお願いいたします」
横に立つ王様よりもさらにガタイのいい男が女性口調で話すのはなかなか迫力がある。女性なのかと思ったが、白銀の髪は短く切り揃えられているし、騎士服も男物だし、よく分からない。
礼には礼を。俺も丁寧に騎士の礼をとれば、何故かツヴァイ騎士団長は楽しそうに微笑んだ。
「……なにか?」
「んふふ、なんでもないわ」
その後。
騎士団長に呼ばれた王様がどこかへ行ったことにより、俺は一人ぼっちで訓練所に置いていかれることとなっていた。圧倒的疎外感。視線が痛い。
流石に監視されているだろうからどこかへ行く訳にも行かず、円形の訓練所の階段にぽつんと座って待つことにした。
訓練をしている騎士たちはきっと入団したばかりの新参なのだろう。動きが杜撰と言うか、改善の余地ありというか。何人かは芽の出そうな若者もいるが、多くはヒラどまりだろうな、といった感じだ。まず俺の事をチラチラ時にしすぎて訓練が疎かになっている時点でどうかと思うけれど。
まぁ、こんな無能たちでも1万人集まれば脅威となる。ヘイデル王国の戦争はまさに戦略重視だから、質より量みたいなところはあるのかも。
俺たち?近衛騎士団は完全に各部隊の隊長に委ねられている。他は知らない。俺は完全に質重視の少数精鋭派。第一部隊もそう。けれど、第2部隊や第4部隊は量重視。どちらがいいのかはよく分からないけれど。
「……」
第3部隊の皆、大丈夫だろうか。ナヨンあたりが自傷に走っていないか心配だ。会いたい。
「どうかしら。アタシのカワイコちゃん達は。遠慮しなくていいわよ」
気配は感じていたが、殺意は感じられなかったのでぼんやりと座ったままでいると、背後から王様とツヴァイ騎士団長が階段を降りてきていた。どうやら話は終わったらしい。
「2、3人は小隊を率いるくらいにはなれるかもしれませんが、他は歩兵止まりでしょうね」
「あら手厳しい」
「俺の存在で集中が途切れる時点でお遊びの範囲。まず本気で打ち合ってない。剣先はブレブレ。体幹もなってない。訓練と言うよりお遊戯会ですね」
わざと聞こえるようにそう言ってやる。そこかしこから殺気が飛んでくるので鼻で嗤って一蹴してやると、実力差は理解しているのか、彼らは悔しそうに目を逸らした。
ツヴァイ騎士団長はクスクスと笑うと、否定も肯定もしないまま、俺の横に腰を下ろした。王様は立ったまま。ここの身分関係もよく分からないな。
「なら、アタシのカワイコちゃん達に指導してやってくれないかしら。アタシもアナタの戦いぶりには興味があるの。ほら、アナタ達が一番つよいって言うじゃない?なのに全く戦場に出てきてくれないんだもの。見てみたいわ」
それが目的か。何となく分かってはいたけれど。
ちらりと王様を見上げると、彼もどこかわくわくとした様子で頷いた。……最近、傍に居すぎて基本真顔のこの人の感情が何となく理解できるようになってきた。嫌すぎる。
ーーこちらとしても好都合だ。
「いいですよ。ずぅっとずぅっと疼いて疼いてたまらなかったんです」
「んふふ、わかるわァ。溜まったもの全部出しちゃっていいわよ」
「……アハ、喜んで」
やっと、やぁっと戦える。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アイン・ツヴァイ(43)
ヘイデル王国騎士団長。サイラス・ヘイデルの異母兄弟にしてサイラスの兄代わりでもあった。その為、サイラスの前でも全然遠慮しない。おネエ口調であるが、別に女性になりたい訳ではない。可愛いものが大好きだが、その基準は謎。彼が可愛いといったものはすべからく可愛いのだ(圧)。
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