人違いです。

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青空の下にて

10.(※)

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「なになになになになに待って待って待って待って」
「なんでお前はそう……セレネは素直に受け入れたぞ」


 顔を近づけてこようとするヘイデル王と、その両肩を鷲掴んで押し返そうとする俺。しかしやはり、上からの圧力と下からの圧力では前者の方が優勢である。徐々に壁と国王との間に圧迫される形となっていく。
 だがしかし俺は絶対に諦めない。そう意気込んで今一度力を入れ直し、押し返そうとしたその時ーーふ、と相手の力が抜ける。


「ぇ、うわ、」


 当然前のめりになった俺の身体は、目の前にある男の身体にぶつかる訳で。彼はぼすっとガタイのいい身体に収まってしまった俺を、抱き締めたままくるりと向きを変えてベットに押し倒した。


「ーーもう逃げられないな?」
「は?舐めてんのか逃げれるわこんな、ーーーーぁ?」
「はァ……漸くか」


 かくん、と力が抜ける。寝具に完全に倒れ込んだ俺の様子を見て、もう力を加える必要が無いと判断したらしいヘイデル王はうっすら浮かんだ汗を拭う。
 身体を起こそうとしても、全く動かない。文字通り指1本も動かない。

 いつ盛られた?起きてからじゃない。魔法の気配もない。なら寝てる間か。それなら仕方ない。……いや仕方なく無いわふざけんな。

 抵抗できなくなったのをいい事に、彼はとっくにはだけかけた俺のガウンに手を伸ばし、その間からするりと手を入れてくる。他人の手が自分の肌に触れる感覚が気持ち悪くて身動ぎするも、上から覆い被さられているため、殆ど効果はなかった。


「手こずらせてくれた分、楽しませてやろう」


 







チュ、…じゅる、


「……う、ん、んぐ、…や、んんッ、」


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!
 呼吸もままならないまま続けられる口付け。早々に唇を開かされ、口腔内を舐め回す下品な音が耳に響く。薬物のせいで力が抜けているのもあって、完全に相手の思うがまま。魔法を使おうにも、恐らく妨害装置でもついているのだろう。全く使えない。両腕はいとも容易く頭上で拘束され、もう片手で腰骨や湧きをなぞられては過敏に反応する自分の身体が憎らしい。

 
「はぁ、あ…や、も、ンん」
「思い出したか?」
「は、も、もぅ、思い出したからぁ、やめ…んんッ……」


 唇を離し、俺が呼吸しようとしたところをまた塞ぎ、を繰り返してくるせいで、酸欠で頭が朦朧とする。視界が霞み、目を瞑れば生理的な涙が零れる。分厚い舌に上あごを擦られるだけであられもない声が出てしまい、思わず赤面してしまう。そこを擽られると、なんか、腰が変な感じになる。
 何とか目を開けて王を睨みつければ、ずっと俺を観察していたらしい彼は漸く唇を離した。

 ツゥ、と二人の舌が銀糸で繋がり、ふつりと切れる。王の真っ赤な舌がぺろりと涎をなめとる様がひどく扇情的で、目を逸らす。ぜぇ、ぜぇ、と必死に酸素を取り入れようと胸が上下する。口はだらしなく開いたまま、頬を涎が伝っていくのを感じる。
 どうやら茶会で知らぬ存ぜぬを通したことが気に入らなかったらしい奴は、俺が白状したことで満足したのか、わしわしと俺の頭を撫で、額に軽く口付けを落とす。


「みと、みとめたから、終わりですよね、ぇ」


 みっともなく息を荒げながらも彼の金の目を見上げれば、奴はしたり顔で俺のガウンの腰帯をするりと抜く。今度こそガウンとしての役目を失った布は、はらりと寝具の上に広がった。ぽかん、とその素早い動きを見つめていた俺は、完全に裸体を晒していることに気付いて慌てて陰部を隠す。かーっと顔が熱くなる。
 その様子を黙って見ていたヘイデル国王は、いまだ力の入らない俺の腰をがしりと掴み、ぐるりと一回転させた。


「ひっ」
「寧ろここからが本番だろう。どうやら伽の経験はないようだが……仕置きだからな」









「――ッ、ツぅ、…ッグ」


 クソみたいな抵抗などなんのその。俺を己の膝の上に乗せて無理矢理足を開かせ、どこから取り出したのか甘ったるい香りのする香油をドロリと手に垂らして陰茎をぐちゅぐちゅと上下に擦る。嫌だやめろと叫び続けた俺に機嫌を損ねたらしい奴が、脱がした下着をそのまま俺の口の中に突っ込んできたせいで、吐き気が永遠に襲っている。
 もう片方の手では俺の乳首を摘まみ、無理矢理コリコリと動かすせいで、痛みに呻き声が漏れる。しかし、奴は相当嗜虐壁があるのか、むしろ楽しそうに俺を痛めつけてくる。


「どうやら痛いのがお好みらしい」
「ンンッ”、ンンン”ン”!!」

――グチュグチュグチュッ!!!


 ぎゅっと陰茎を強く握りこまれ、思わず身体を縮こまらせるが、赦さないとばかりに顎に手を掛けられ顔を上げさせられる。ヘイデル国王は俺の目に浮かんだ涙を舐めとると、さらに陰茎をこする手を速めた。快感など一切ない、痛みを与えるためだけの行為に絶叫するが、我関せず。ニヤニヤと悪辣な笑みを浮かべているだけだった。
 しかし、人間だれしも性器を触られていれば襲ってくるものがあるわけで。


「ん、んん、ンぐ、ン、」
「気持ちいいか?」


 せりあがってくるゾクゾクとした感覚に、ぶるりと身体を震わせる。楽しそうに声を上げて笑う男が憎らしくて睨みあげれば、亀頭をグリッと抉られまた見悶える。口を塞がれていなければ霰のない声が漏れていただろうと思うと、羞恥で涙が出そうだった。
 いやだ、やめろ、という声も全て、呻き声としてしか出てこない。ぐちゅぐちゅというはしたない音が耳を犯す。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。


「ーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」


 ぱたた、と滴り落ちる白濁が、白い布を汚していく。同時に襲う倦怠感に、ヘイデル王の身体に凭れるように倒れ込む。最早声も出す気になれず、俯いて虚空を見つめていると、男が顔を覗き込んできた。
 口の中に突っ込まれた下着を抜き取られ、溜まった涎が口に違和感を残す。

 白濁に濡れた太ももを見つめ、失笑してしまう。

 あーあ、みっともない。気持ち悪い。何がって、俺が。敵地で敵に触られて快感を拾ってる自分が。皆は戦ってしんでいったのにおれはこんなとこでどれいのように。

 がり、と手首を掻く。掻く。掻く。

 それを見ていた男は何故か布で俺の陰部を拭き取ると、立ち上がった。


「……てっきり、拷問挿入までされるのかと」
「そのつもりだったが」


 壁に埋め込まれるようにして置かれた洋服棚から新しいガウンを取り出して座り込んでいた俺にかけると、奴は温度のない目で俺を見下ろした。


「萎えた」
「……そりゃ良かった」


 かけられたガウンを気直し、ぼんやりと相手の顔を見返すと、何故か彼はくしゃりと顔を顰めた。……その顔は、初めて見たな。ーーあぁ。


「セレネとは違いました?今のでももっと可愛らしく喘ぎました?気持ちいい気持ちいいって啼きました?」
「……レーネ」
「だから言ったじゃないですか。俺はセレネじゃないって」
「わかっている」
「わかってないですよーーッッ"」


 顎を掴まれ、無理やり上を向かされる。骨が軋む痛みに顔を顰めたが、すぐに俺は驚きに目を見張った。


「ーーわかっていないのはお前だ」


 なんでそんな。


「うるさい」
「レーネ」
「うるさいうるさい」
「レーネ落ち着くんだ」  

ーーバシッ!!!

「触んじゃねぇよ!!!!使い捨ての塵屑だって憐れんでんだろうが!!!俺はセレネじゃない!!!」


 なんなんだもう。俺はただ戦って戦って国に勝利をーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















「おや、随分とお早い」


 若かりし頃の自分とそっくりの声に振り返れば、ロバル王子の元から帰ってきたらしい息子がにこやかに此方を見つめている。特に返事をすることも無く歩みを再開すると、彼も引き止めたりはせず、斜め後ろを着いてきた。


「最後までなさらなかったので?」
「発狂したから寝かせた」
「……はぁ……お優しい」


 今までにも、望んでいない行為に絶望する顔や泣き叫んで赦しを乞う顔を見てきたが。あんな顔は初めて見た。あんな、なにも見えていないかのようなーーいや、どこか違うところにいるような。


「17歳……か」
は好みではありませんでしたか?それなら俺にくれてもーーおっと、失礼」


「ルキナ」
「はい」





「心を手に入れるにはどうしたらいい」





                                                    
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