人違いです。

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青空の下にて

2.

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――謁見の間にて――

 
「セレネ――」


 フィオーレ王国の人質一行が去ってすぐのころ。彼らを下がらせた本人である宰相は、背後を振り返り、上座に座る友であり仕えるべき相手を見上げた。果たして、ヘイデル国王――サイラス・ヘイデルその人は、ぼんやりと先程まで人質たちが経っていた場所を見つめながら、愛しい者の名を呟いている。
 誰もが、虚空を見つめる陛下を痛ましく見つめることしかできない。それほど、セレネ・ブライトという人物はヘイデル王家及び国民に愛されていたのだ。

 動揺こそしていたものの、幾分冷静であったらしい正妃陛下がするりと陛下の手の甲をなぞるように撫でる。すると、陛下は夢から覚めたかのようにびくりと身体を震わせた。ルキナ殿下が安心したように息を吐く。


「マーヴィン。彼は――」


 殿下の言葉に、宰相マーヴィンは小さく頷くと、真っ直ぐ陛下を見つめ、確かめるように――あるいは説得するように言葉を紡いでいく。異常なまでに静かな部屋に、彼の声は良く響いた。


「はい。彼は、先程紹介に預かった通り、フィオーレ王国近衛騎士団第3部隊隊長、レーネ・フォーサイスでございます。フィオーレ王国の名門公爵家の1つ、フォーサイス家の次男。11歳で7年制の王立魔法学園に入学し、3年半で卒業した後、即騎士団入りしています。学園に潜入している間者いわく、とにかく戦闘好きで、魔物討伐訓練でも常に最前線を希望するほどだったそうです」
「……なら、何故近衛騎士に?」
「王族からの勅命ございます。自分の周りの護衛に有能な人材を集めることに固執していたようですね。本人は不本意だったようですが、素直に従っているあたり忠誠心は高いのでしょう。第3部隊自体も少人数ながらかなりの精鋭の集まりで、過去1度も暗殺者たちを第3王子の視界にいれたことがないとか……とにかく、セレネ・ブライトとは全くの別人。血も一切繋がっておりません」


 すらすらと間者から手に入れておいた情報を諳んじあげると、あちこちから落胆の溜息が上がる。ルキナ殿下や正妃陛下も、どこか納得は言っていないようだが、それでも理解はしたようで小さく頷いて応えた。
 しかし、いまだ一言も発しない者が1人。宰相は丸眼鏡をくいと上げる。


「陛下。お気持ちはお察しいたしますが、彼は敵国の中核を担う1人です。不用意なことは為されぬよう」
「……」


 陛下は無能ではない。だからこそ、不用意なことはできないと自制する理性と欲望のままあのうら若き少年を取り込んでしまわんとする心とで葛藤しているのだろう。ついには瞼を閉じ、熟考の姿勢に入ってしまった陛下を見かねたのか、正妃陛下が凛と声を張った。


「陛下。陛下は国民のために心を費やせる素晴らしいお方ですわ。だからこそ、貴方が初めて心から愛したセレネという存在を我々も受け入れ、心より愛しました。――今度こそ、手に入れてくださいな」
「正妃陛下、」
「お黙りなさい、マーヴィン。フィオーレ王国が何だというの。あの国の栄華は最早風前の灯火。先程の第3王子とやらの姿を見て、今更何を怖気づくというのです。たかが騎士1人、ヘイデル王国がものにできないなんてことがありますか。いずれ我が国は全てを手に入れるの。偶然陛下のものになるのが早くなっただけのこと」


 玉座から立ち上がり、朗々と語りだした正妃陛下の威厳ある言葉に、その場にいる全員が魅せられたかのように聞き入る。ずっと虚ろげだった陛下も、いつしか正妃陛下のことを見上げていた。正妃陛下は尚も語り続ける。


「騎士の少年――レーネといったかしら。彼は我が国のものになる運命だったのよ。これは神が決めたことに違いありません。ならば、神の僕たる我々は、フィオーレ王国から彼を。それができるのは陛下ただ1人ですわ」


 最後は陛下を振り返り、そう締めくくって玉座に腰を下ろした正妃陛下に、階下の貴族たちから称賛と畏敬の喝采が上がる。殿下も今度こそ得心がいったとばかりに何度も深く頷いている。先程まで反対していた宰相も、ここまで言われてしまえばどうにもできないので、特に反論することもなく無言を貫いた。合掌。護衛騎士の少年よ、頑張って欲しい。
 正妃陛下の演説をじっくりと嚙み砕き、受け入れたらしい陛下は、小さく頷き、そして。


「レーネ・フォーサイスは、ヘイデル王国のものだ。今度こそ、


ーー喝采。















 ぞくり。


「ねぇアリア、なんだかこの部屋寒くないか」
「適温ですね。どこかで噂でもされているのでは?」
「ちょ、お前やめろ縁起でもない……え、ちょっと待ってほんとやめろ」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

サイラス・ヘイデル(38)
 ヘイデル王国国王。かつては弱小国だったヘイデル王国を前王と2代で強大化させた名君。国民からの信頼も非常に厚い。しかし、多くの悪意や策略に晒され続けた結果、人を信じ愛する心を失ってしまったが、セレネと出会って回復。そして執着心特化型のストーカーへと変貌を遂げた。

ルキナ・ヘイデル(17)
 ヘイデル王国第1王子。下に2人弟がいるが、兄弟仲はよく政略戦争などは起こっていない。このたび婚約者を手に入れたが、正直全く興味がないので取り巻きに下げ渡してレイプショーでも開こうかと考えている。セレネのことは兄のように慕っていた。レーネにも強い関心を持っている。ストーカーその2。

マーヴィン・ロッド(39)
 ヘイデル王国宰相。サイラスとは学園での先輩後輩で、サイラスが生徒会会長、マーヴィンが副会長を務めていた。2人きりの時は敬語が抜けるが、基本は誰にでも敬語で話す。唯一の良心だが、事なかれ主義なので助けにはならない。

正妃陛下(36)
 ヘイデル王国国王の正妻。本名はアイリーン・シャペル。しかし正妃の名を呼ぶことができるのは国王のみであるため、誰にもその名を呼ばれることはない。ヘイデル王国の神官長の娘であり、信心深く陛下を神の子であると考えている。今回の主犯そして黒幕。ストーカーその3。




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