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6 魔王の都の春の祭り

6―11 巨木

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 6ー11 巨木

 その白衣の美しい男は、クロネと名乗った。
 クロネは、従僕らしい少年たちに命じて白い薄絹を用意するとそれを手ずから俺に纏わせた。
 俺は、クロネに話しかけたかったのだが、なぜか、声が出せなかった。
 「ご心配なく『聖王』。少し、枷をはめさせていただいているだけですから」
 いやいや!
 心配することだらけだろうが!
 俺は、クロネに逆らいたかったが体がいうことをきかなかった。
 まるで、こいつに体を支配され操られているかのように。
 クロネは、俺の手をとり部屋の外へと導いた。
 部屋の外も、やはり白い壁に囲まれた場所だった。
 うん。
 通路のようなところ?
 俺たちを見かけると行き交う人々は足を止め頭を下げた。
 ここは、どこなんだ?
 俺は、クロネに手を引かれて歩きながら懸命に辺りを見回していた。
 だが、どこにもここがどこなのかわかりそうなものは見当たらなかった。
 ふと、視線に気づいてそちらを見ると、クロネが俺をじっと見つめていた。
 艶然と微笑むクロネに俺は、思わず見とれた。
 美しい男だった。
 人間離れしているほどに。
 というか、精霊ですか?
 「どうされましたか?『聖王』」
 ぼぅっとクロネを見つめていたことに気づいて俺は、かぁっと頬を熱くした。
 俺は、視線をそらした。
 クロネの手から自分の手を抜こうとするが思ったように力が入らない。
 クロネは、俺にはかまわず歩き続け、その白い通路の果てにあった両開きの扉の前で立ち止まった。
 「こちらへ、『聖王』よ」
 俺は、クロネの指し示す方へと手を伸ばし、扉を開いた。
 そこは、草原だった。
 遠く、遠くまでも広がっていく草原の中に俺とクロネは、立っていた。
 俺は、心地よい春風に吹かれて目を閉じた。
 瑞々しい草原の香りに包まれる。
 俺は、草原の中を歩いていった。
 導かれるように歩いていくと、やがて一本の巨木が見えた。
 あれは?
 俺は、なぜか、その木の方へと引き寄せられていった。
 その木は、滅びかけていた。
 木の幹の皮が剥がれ落ちていき、枝についた葉は、茶色く枯れて色を変えていっていた。
 
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