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6 魔王の都の春の祭り

6―1 カエルのギルド

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 6ー1 カエルのギルド

 辺境の村、いまや、王都と並ぶ街となりつつある俺の故郷であるカナンにも春の兆しが訪れていた。
 春は、いつでもいいものだ。
 なんだか、心が浮き立ってくる。
 カナンの冬の終わりを告げる青いラミアの小さなかれんな花が咲く頃になると、いつも俺は、思い出すことがあった。
 それは、両親がいなくなった後、俺を育ててくれたじいちゃんのことだった。
 じいちゃんは、ラミアの花が咲く頃に俺を残して逝ってしまった。
 最後まで、俺の手を握って、涙を流していた。
 「すまない、ティル」
 じいちゃんは、俺に何度も謝っていた。
 「お前を一人ぼっちにしてしまって」
 いや。
 俺は、雪の中で懸命に咲いているラミアを見つめてふっと微笑んだ。
 考えてみると、俺は、いつだって1人じゃなかった。
 いつも、みんなが俺の側にいてくれた。
 今は、それが、あり得ないほどの数に膨れ上がっているんだがな。
 魔王城の核となった俺は、もう、完全に1人ではなかった。
 いつも、みんなを感じている。
 俺の世界は、完全に満たされているのだ。
 俺は、1人で村の外れの墓地にあるじいちゃんの墓の前にラミアの花を供えながら呟いた。
 「じいちゃん、俺は、とにかく元気で生きてるよ」
 じいちゃんの墓は、ちょっと大きな石ころが積み上げられただけのものだった。
 といっても、他の墓だって似たようなもんだがな。
 いつも、この村の春は、複雑だった。
 春の訪れは、冬を生き延びた証だったが、必ず、何人もの人々が冬を乗りきることができずに死んでいった。
 だけど。
 それでも、春は、素晴らしい。
 春は、悲しみと喜びの入り雑じったものだった。
 だけど、それも今では違っていた。
 カナンの村は、そびえ立つ魔王城の出現とともにまったく違う場所になってしまった。
 ここは、今では、『通販』の聖地となっていた。
 すべての『通販』の商品がこのカナンの村から注文者のもとへと送り出されていた。
 奥様たちは、物品の輸送を扱うギルドを立ち上げ、世界中、といっても今はまだ王都周辺ぐらいだったが、それを覆い尽くす輸送のためのルートを確立させていた。
 奥様たちのギルドは、そのギルドの紋章であるカエルの絵から『カエルのギルド』と呼ばれている。
 
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