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3 おっさん、故郷へ帰る

3―5 怒り

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 3ー5 怒り

 「ところでティル」
 「はい?」
 「そのお腹の子供のことなんだけど」
 奥様が言葉を選んでいるのが俺には、わかった。
 「その、ミミル先生のいうことには、新亜種なのらしいわ」
 新亜種。
 俺は、背筋が凍えるのがわかった。
 それは、魔族でもなく、人でもないもののことをいう。
 普通、魔族と人が交って生まれてくるのは、魔族の特性を持つものか、人の特性を持つものかのどちらかだ。
 だが、たまに、魔族でもなく人でもない、そして、同時に魔族でもあり人でもあるものが生まれることがあった。
 『混血』と呼ばれるそれは、この世界ではおぞましいものとして恐れられ忌み嫌われていた。
 そして、新亜種は、魔族と人類共通の敵だった。
 「この子を殺してください」
 俺は、奥様に懇願していた。
 「男の俺が孕んだというだけでも異様なことなのに、そのうえ、新亜種だなんて。ありえない。この子を殺してください」
 「ティル」
 奥様がふぅっと吐息をついた。
 「私は、気に入らないことだけど、ミミル先生は、それができるなら、とっくにしているでしょうね。それをしていないのは、それか不可能だから」
 「どういうことですか?」
 俺が問うと奥様が重いこ口を開いた。
 「その子は、生まれながらに強力な呪に守られているらしいのよ。誰も、その子を殺せない」
 「堕胎できないんですか?」
 俺がきくと奥様は、こくりと頷いた。
 「あなたが眠っている間に、ミミル先生や、他の術師が何度もチャレンジしたけど、誰もその子を殺すことができなかった」
 マジですか?
 俺は、血の気が引いていくのを感じていた。
 どうすればいいんだ?
 「俺を」
 俺は、奥様にすがった。
 「俺ごとにこの子を殺してください」
 「それもダメ」
 奥様がため息をついた。
 「あなたを殺すことも我々にはできないんですって」
 俺は、腹に手をあてて歯軋りした。
 この子は、呪われた子だ。
 父からも、母である俺からも疎まれて、世界からも憎まれて。
 「はいはい、暗い話しは、これぐらいにして」
 奥様がぱん、と手を叩いた。
 「そんな顔しないでティル。生まなきゃしかたないんなら、もっとポジティブに考えていかないと」
 奥様は、俺に額に角の生えた飛びウサギのぬいぐるみを見せて微笑んだ。
 「大丈夫よ、ティル。あなたは、一人じゃないんだし。あなたのこと大好きなテオとキュウもいるし、私だってついている。元気を出して」
 いや。
 俺は、不意にどす黒い炎に飲み込まれていくのを感じていた。
 これは、怒り、だ。
 
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