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2 旅の道連れは魔王様?

2―1 焼きもちですか?

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 2ー1 焼きもちですか?

 奥様と勇者アニタスが旅立ってから数日が過ぎた。
 俺たちは、アニタス様の案で西の辺境伯ウィーサム伯爵のもとへと向かっていた。
 シームズ・ウィーサム伯爵は、ルルゥ様の従兄弟にあたる方だった。
 子供時代を共に過ごされたお二人は、今でも大層仲がよく、アニタス様いわく、ルルゥ様は、彼をたよるだろうとの事だった。
 勇者アニタスは、地竜で、奥様は、俺の御する馬車で旅している。
 御者席には、なぜか、一匹の黒猫があくびしている。
 こいつは、テオ、だ。
 俺は、魔獣たちの世話を冒険者ギルドの同僚たちに頼んできたのだが、こいつだけは、置いていけずに一緒にくることを許可していた。
 だって、同僚たちにあんなことやこんなことされたらまずいし、同僚たちの中には女子もいるからな。
 テオがなぜ、人の姿ではなく猫になっているかというと、たぶん、拗ねているのだろう。
 テオの奴は、焼きもちをやいている。
 理由は、俺の腹に結わえられた大きな卵のせいだった。
 今回の事に腹をたてた奥様が腹立ちまぎれに『通販』で買ったものだが、なんでもタイムサービスとかだったらしく、お楽しみとかいって何の卵かもわからない。
 とにかく購入したはいいものの、そのまま放置して卵をみすみす見殺しにしてしまうのも寝覚めが悪い。
 仕方なくいつものように俺が世話をみることになってしまったのだった。
 こうしている間にもずっと俺の魔力を吸い続けているので、卵は、きっと近いうちに孵化することだろう。
 何が生まれてくるんだか。
 考えると怖いんだが、卵をいまさら見捨てるわけにもいかず、俺は、24時間肌身離さず卵を抱いている。
 それが、テオには気に入らない。
 「お前は、俺のものだ。なぜ、他のものに魔力を与えようとする?」
 そう言ってテオは、不機嫌さを隠そうともしないが、俺は、かまわなかった。
 「俺は、お前のものじゃないし、気に入らなければ他所へ行けばいいだろ」
 奥様は、俺とテオのやり取りを微笑ましげに見守っていた。
 とにかく嫌な予感しかしない。
 
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