異世界に転生したもののトカゲでしたが、進化の実を食べて魔王になりました。

エピローグ

エピローグ

　魔法学園の３年生になると、もう夏休みがくる頃にはだいたいの卒業後の進路は決まっているものらしい。
　リリウスには、アナトリア公国の騎士団からのスカウトがきていたようだった。
　だが、リリウスは、それを断りラダクリフ辺境伯のところの飛竜騎士団へと入団することを決めた。
　「俺は、トカゲの谷に飛竜騎士団をつくるんだ！」
　リリウスは、以前からの変わらない夢に瞳を輝かせていた。
　エディットは、ラミアトス王国からの召喚を断り続け、トカゲの谷で治療院を開くことにしている。
　「私は、そのために魔法学園で学んだのですから」
　そう言って、エディットは、微笑んだ。
　俺は、この夏で１０才になる。
　まあ、中身は、もうおっさんなんだがな。
　俺にもいろいろな勧誘はきていた。
　でもその全てを断り、俺は、トカゲの谷へと帰るつもりだ。
　そんなある日、アナトリア公国の王城から使者がやってきた。
　その使者とやらは、俺に一方的に国王様からの召喚状を渡してきた。
　俺に王城へと来るようにという王様からの命令だ。
　俺は、嫌な予感がして断りたかったのだが、さすがにそれは無理だった。
　仕方なく、俺は、王城へと出向くことにした。
　俺は、トカゲの谷で普段着にしている羽織をきていった。
　それは、クローディア母さんが作ってくれたものだ。
　今では、トカゲの谷で作られた布は、かなりの貴重品として有名になっていた。
　王城へと出向いた俺は、王様の待つ玉座の間へと通された。
　緋色の毛足の長いふかふかの絨毯が敷き詰められた玉座の間には、幾人もの衛士たちと国の重鎮らしき人々が待っていた。
　俺は、ますます嫌な予感にさいなまれていた。
　「トカゲの谷のクロージャー」
　王様に呼び掛けられて俺は、顔をあげた。
　王様は、思っていたよりもずっと人間味のありそうな優しげな人で、俺は、少しだけ安心していた。
　なんか、ちょっとライディアに雰囲気が似ている。
　だが、髪の色はクロっぽい茶髪だし、ライディアよりもずっと男っぽい人だった。
　「いつも息子によくしてくれているようだな。感謝する」
　王様は、いきなり俺に頭を下げた。
　「ありがとう、クロージャー」
　マジですか？
　俺は、王様よりも深く頭を下げると応じた。
　「もったいないお言葉です」
　「ところで、魔法学園でのことを話してくれないか？」
　俺たちは、それからしばらく魔法学園の話やライディアの様子などを話した。
　そして、俺が円満にその場を辞そうとしたとき、王様が不意に俺に告げた。
　「そうだ、クロージャー」
　王様は、俺にやんわりと命令した。
　「トカゲの谷のクロージャー、お前に男爵位を与えることとする」
　はい？
　俺は、驚きすぎて断ることもできなかった。
　「では、また会おう、クロージャーよ」
　王様は、俺に言いたいことをいうとにやっと笑って去っていった。
　「ま、待ってください！」
　だが、王様は、決して待ってはくれなかった。
　俺は、拒む間もなく男爵位を授かってしまった。
　しかも、領地は、あのラダス男爵の領地だったところだ。
　ラダクリフ辺境伯の領地と境を接した肥沃な大地が広がる平原だ。
　ただ、ラダス男爵は、怠け者の愚か者だったため、まだ、開拓もされず、領民も少ないけどな。
　「マジかよ！」
　俺は、王城を出てからため息をついた。
　俺は、トカゲの谷のクロージャーで充分なのに！
　とにかく。
　俺の転生トカゲ人生は、まだまだスローライフには、程遠いようだ。