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7 愛する魔王たち

7-5 お互いのためにだけ

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          7ー5   お互いのためにだけ

   森の奥に隠れるように建っている小さな小屋があった。
   少年は、小屋の扉をそっと叩いた。
   「魔王様?コーダ魔王様?」
    「ルナか?お入り」
    中から声が聞こえた。少年は、扉を押し開くと中を覗き込む。
   「魔王様、セイ様がいらっしゃいましたよ!」
   「何?」
    中からバタバタという足音がきこえてきて、長い黒髪の男が現れた。
   灰色の煤けた服を着たその男は、俺を見ると涙ぐんだ。
   「やっと・・やっと来てくれたのか、セイ」
   男は、俺の手を取ると小屋の中へと招き入れ椅子を進めると欠けたカップにお茶を注いで俺に手渡した。
   「こんなものしかないが、どうぞ。セイよ」
    魔王は、コーダと名乗った。
   「私は、もうずいぶんと長い間、この森に住んでいる。そして、この数年間、ずっとあなたが来るのを待っていた」
    「はぁ・・」
     俺は、訊ねた。
    「でも、古い魔王は死んで、新しい魔王に代わったって、その、精霊王から聞いてるんだけど」
    「ああ」
     魔王は、暖炉の側に置かれた灰を被った台座を引き寄せると腰をかけた。
   「確かに、新しい魔王はやって来た。そして、私たちは、出会い、恋に落ちた」
    はい?
   俺は、魔王のことをじっと見つめた。
   「どういうことだ?」
    「つまり」
     魔王コーダは、俺に話した。
    「私は、本当ならとうの昔に死んでいる筈の者なのだ」
    彼が言うには、新しい魔王がやってきて彼を殺し、そして、新たな魔王の座に就く筈だったのだという。
   「だが、私たちは、出会った瞬間に恋に堕ちてしまった」
    恋に堕ちた魔王は、古い魔王を殺すことができなかった。
    それどころか、死ぬ筈だった魔王の命を繋ぐためだけに自分自身の魔力を彼に注ぎ込んでいるのだという。 
    彼がいくら力を注ごうとも、コーダの寿命は変わらない。
    ただ、魔力が打ち消されていくだけだった。
     「それでも、魔王は、私を殺さないために力を尽くしてくれているのだ」
     そのために、世界には、魔王の魔力が届かなくなっているのだが、それも、もはや彼らにとっては、関係のないことだった。
     「ただ、お互いのためにだけ」
     魔王コーダは、俺に語った。
    「今、私たちは生きているのだ」
     
   
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