63 / 86
6 魔王の森
6-1 1人ではない。
しおりを挟む
6ー1 1人ではない。
俺がアリスティア王国を出てから、はや4ヶ月が過ぎた。
トリアニティ王国は、今、連日のようにお祭り騒ぎが続いていた。
それは、かつて王と駆け落ちした異世界人の御子であるユウトの子である俺が異人の国へと嫁ぐことが決まったからだった。
この魔人の国において俺の母である御子ユウトは、伝説的な存在だった。
魔王の眷族である魔人の魔導師たちが召喚したユウトは、かつて魔界よりの瘴気で大地が腐り、国には病が溢れ滅びかけていたこの国とその周辺の国々を救ったのだった。
そのユウトの子であるマナ、こと俺は、王と御子の愛の証とされてもてはやされた。
人々は、王と駆け落ちし人知れず1人で子を産み、死んでいったユウトと、その後、残されたマナの物語に思いをはせて涙していた。
特に、異国の地に1人取り残されたマナが異人に売り飛ばされて奴隷になり、男娼へと身を堕としたにもかかわらず、王に見初められその後宮へと入れられていたが、1人の勇敢な騎士の手で救われ国へと連れ戻されたという話は、今、この国の民たちの涙を誘っていた。
うん。
すごい尾ひれハヒレがついているな。
物語には続きがあり、やっと再会を果たした父王とマナだったが、今度は、異人の王よりの申し込みで異人の国へと嫁ぐことになり親子は泣く泣く引き離されるというものだ。
「酷い誤解というよりも、すでに、悪意を感じられます」
ラウスとクレイは、怒り心頭だった。
「王とセイ様は、お互いに深くひかれあっておられるというのに!」
そうなのか?
俺は、ラウスたちの言葉に最後の夜を思い出して頬が熱くなるのを感じていた。
愛しています。
そんなこと、もう、俺には言えない。
これが最後だと思ったからこそ、言えた言葉だった。
それが、舌の根も乾かぬうちに王のもとへ嫁ぐことになるだって?
信じられない!
「でも、これは、同盟を結ぶために約束されたことであって、ほんとに王が今も俺のことを望んでいるとは限らないんじゃ?」
俺は、1人、呟いた。
すると、イェイガーが答えた。
『もっと己を信じたらどうなのだ?主は、自分も含めて人を信じなさすぎじゃ』
「でも」
俺は、もう、そんな素直に人生を信じることはできなかった。
王は、もしかしたらもう心変わりしているのかも。
こんな俺を誰が必要とする?
俺は、落ち込んでいた。
『元気を出さんか、主よ』
イェイガーは、俺を励ました。
『主は、1人ではないのだから』
俺がアリスティア王国を出てから、はや4ヶ月が過ぎた。
トリアニティ王国は、今、連日のようにお祭り騒ぎが続いていた。
それは、かつて王と駆け落ちした異世界人の御子であるユウトの子である俺が異人の国へと嫁ぐことが決まったからだった。
この魔人の国において俺の母である御子ユウトは、伝説的な存在だった。
魔王の眷族である魔人の魔導師たちが召喚したユウトは、かつて魔界よりの瘴気で大地が腐り、国には病が溢れ滅びかけていたこの国とその周辺の国々を救ったのだった。
そのユウトの子であるマナ、こと俺は、王と御子の愛の証とされてもてはやされた。
人々は、王と駆け落ちし人知れず1人で子を産み、死んでいったユウトと、その後、残されたマナの物語に思いをはせて涙していた。
特に、異国の地に1人取り残されたマナが異人に売り飛ばされて奴隷になり、男娼へと身を堕としたにもかかわらず、王に見初められその後宮へと入れられていたが、1人の勇敢な騎士の手で救われ国へと連れ戻されたという話は、今、この国の民たちの涙を誘っていた。
うん。
すごい尾ひれハヒレがついているな。
物語には続きがあり、やっと再会を果たした父王とマナだったが、今度は、異人の王よりの申し込みで異人の国へと嫁ぐことになり親子は泣く泣く引き離されるというものだ。
「酷い誤解というよりも、すでに、悪意を感じられます」
ラウスとクレイは、怒り心頭だった。
「王とセイ様は、お互いに深くひかれあっておられるというのに!」
そうなのか?
俺は、ラウスたちの言葉に最後の夜を思い出して頬が熱くなるのを感じていた。
愛しています。
そんなこと、もう、俺には言えない。
これが最後だと思ったからこそ、言えた言葉だった。
それが、舌の根も乾かぬうちに王のもとへ嫁ぐことになるだって?
信じられない!
「でも、これは、同盟を結ぶために約束されたことであって、ほんとに王が今も俺のことを望んでいるとは限らないんじゃ?」
俺は、1人、呟いた。
すると、イェイガーが答えた。
『もっと己を信じたらどうなのだ?主は、自分も含めて人を信じなさすぎじゃ』
「でも」
俺は、もう、そんな素直に人生を信じることはできなかった。
王は、もしかしたらもう心変わりしているのかも。
こんな俺を誰が必要とする?
俺は、落ち込んでいた。
『元気を出さんか、主よ』
イェイガーは、俺を励ました。
『主は、1人ではないのだから』
20
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
零れる
午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー
あらすじ
十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。
オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。
★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
★オメガバースです。
★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる