王のβ~異世界後宮物語~

トモモト ヨシユキ

文字の大きさ
上 下
28 / 86
3 後宮の薬師は、王に恋するか?

3-4 胸の高鳴り

しおりを挟む
            3ー4    胸の高鳴り

    図書館から出てきた俺たちに背後から誰かが声をかけてきた。
    「さっそく来たのか?セイ」
     この声は。
   俺が振り向くとそこには、王の姿があった。
    明るい光の下で見ると王は、若いというよりは、幼いというように思われた。
   ぼんやりと立ち尽くしている俺の脇腹をラウスが肘でつんつんとつついた。
   「セイ様!王の御前ですよ!」
     慌てて俺がラウスと同じようにひざまづいて頭を垂れた。
   「いや、いいんだ。セイ」
    王が苦笑した。
    「お前は、私に礼をとらずともよい」
     俺は、ラウスの方を窺ってから頭をあげて立ち上がった。
    「ずいぶんと忙しいらしいじゃないか、あんた」
   「セイ様!ご無礼ですよ!」
    ラウスが言ったのを王が片手をあげて制した。
   「かまわん」
    「しかし」
    ラウスに向かって王は、笑った。
   「私がこんなことを許すのは、この者だけだ」
    王は、俺に微笑みかけた。
   やばいっ!
    王のはにかむような優しい笑顔に、俺は、胸が高鳴っていた。
    静まれ!
   俺は、自分のマントの胸元を引っ張った。
    この高鳴りは、決して気づかれてはいけない。
   「お、俺・・用事があるんで・・」
    「まだ、よいではないか。一緒にお茶でもどうだ?セイ」
    王が優しく声をかけてくれたのに、俺は、背を向けた。
   「お、俺、急いでるから」
    俺は、その場から駆け出した。
   部屋に戻ると俺は、寝室へとこもった。
   1人になりたかった。
    しばらくたってから、ラウスが両手に本を抱えて息を切らせてやって来た。
    「いったい、どうされたのですか?セイ様」
    「別に」
     「別にって」
     ラウスは、俺に腹を立てている様で声を荒げはしないものの、怒りを隠そうとはしない。
     「王がせっかくお茶にお誘いくださったのに、あんな態度をとられて!」
    俺は、そっぽを向くと言った。
   「あいつは、そんなことしてる場合じゃないんだろ?」
   「しかし!」
    俺は、ベッドの掛布へと潜り込んだ。
    ラウスは、溜め息をつくと寝室から出ていった。
    俺は、ひたすら自己嫌悪に陥っていた。
   なんで。
   あんな子供相手に、俺は。
   もし、このまま、これ以上、奴を知ってしまったら。
    いつかは、捨てられる身だというのに。
    あいつを愛してしまったりしたら。
   俺は、そのとき、耐えられなくなってしまうだろう。
    俺は、このまま、あいつの体だけしか知らないままでいたい。
    そうすれば、別れのとき、苦しまずにすむかもしれないのだから。
   
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜

MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね? 前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです! 後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛 ※独自のオメガバース設定有り

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...