20 / 86
2 聖剣が指南する後宮生活
2-8 クロネ
しおりを挟む 宿舎の女将さんにあいさつを済ませてバスに乗り込む。席は前から三列目。大体いつも女子が前で男子たちは後ろの方の席に座る。なんで男子って後ろの方に座りたがるのかしら。
「愛、チョコいる?」
隣に座っている優里がバッグの中をゴソゴソと物色している。お目当てのものが中々見つけられなくて、「あれぇ、入ってるはずなんだけどなぁ」としょんぼりした顔を見せる。
「あっ、あった!」
遂に見つけた優里は嬉しそうに満面の笑みを私に向ける。ホント優里ってかわいいな。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとう」
んー、甘くておいしい。……合宿、疲れたなぁ。
バスが発車しても後ろの男子たちはワイワイ騒いでいたけど、数分後には静かになった。きっと寝たのだろう。優里もいつの間にか私に頭を預けて気持ちよさそうにしている。数分前には想像もつかないくらい車内はしんと静まり返っていて、何人かのスース―といった寝息が微かに聞こえるだけだ。私は運転席の大きな窓から見える日の暮れた街の景色とボーっと眺めていた。
まさか桜庭くんの方から言ってきてくれるなんて思わなかったな。後ろを見ると通路側の肘掛けに頬杖をついて眠っている。数秒間眺めた後、ふと我に返って再び前方に視線を戻す。
花火の時、久保となにやら話していたみたいだったけど、きっと久保がなにか言ってけしかけたに違いない。ホント久保ったら、いらない気が回るっていうかなんていうか。でも今回は感謝しているわ。
私は桜庭くんのことが好き……は好きだけど、同時に尊敬している。勉強面は置いといて、テニスに関してはホントに脱帽。つい最近始めたと思ったらグングン上手くなっていって、いつの間にか私よりも全然上手くなっていて、もう団体戦のメンバーにだって選ばれている。桜庭くんってスポーツ万能だから、初めは運動神経がいいからだって、私とは違うんだって妬んだりもした。でも毎日毎日真剣に練習に取り組んでいる彼の姿を見ていたら、桜庭くんを妬んでいた自分が悔しく思えてきた。彼があんなに上手くなっているのは日々のたゆまぬ努力と、その真摯な姿勢があったからなんだと思い知らされた。それからは私自身もがんばらなきゃなって思った。
だから彼がどこまで行けるのか、彼の挑戦を見守っていたいと思ったし、彼のことは待っていることに決めた。私の元に来てくれるのは彼が満足してからでも構わない。その代わり、桜庭くんの行く末はちゃんと最後まで見届けさせてもらうわね。
私って実はすごく恥ずかしがり屋で、だから人と話す時はそれを隠すようについ上から目線になっちゃって。そのせいでよく性格悪い女だって思われたり、チームメイトとも衝突しちゃうんだろうな。いつももっと素直に話せていれば……。もっと言い方に気をつけないと。優里と久保はつき合い長いから分かってくれているんだけど。でも桜庭くんといる時はなんだか私も素でいられる気がする。それで彼の情熱に感化されてやる気になったりなんかもして……あー、なんだか熱くなってきた。
だから、これからもずっと桜庭くんの隣にいれたらいいな、なんてね。
「愛、チョコいる?」
隣に座っている優里がバッグの中をゴソゴソと物色している。お目当てのものが中々見つけられなくて、「あれぇ、入ってるはずなんだけどなぁ」としょんぼりした顔を見せる。
「あっ、あった!」
遂に見つけた優里は嬉しそうに満面の笑みを私に向ける。ホント優里ってかわいいな。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとう」
んー、甘くておいしい。……合宿、疲れたなぁ。
バスが発車しても後ろの男子たちはワイワイ騒いでいたけど、数分後には静かになった。きっと寝たのだろう。優里もいつの間にか私に頭を預けて気持ちよさそうにしている。数分前には想像もつかないくらい車内はしんと静まり返っていて、何人かのスース―といった寝息が微かに聞こえるだけだ。私は運転席の大きな窓から見える日の暮れた街の景色とボーっと眺めていた。
まさか桜庭くんの方から言ってきてくれるなんて思わなかったな。後ろを見ると通路側の肘掛けに頬杖をついて眠っている。数秒間眺めた後、ふと我に返って再び前方に視線を戻す。
花火の時、久保となにやら話していたみたいだったけど、きっと久保がなにか言ってけしかけたに違いない。ホント久保ったら、いらない気が回るっていうかなんていうか。でも今回は感謝しているわ。
私は桜庭くんのことが好き……は好きだけど、同時に尊敬している。勉強面は置いといて、テニスに関してはホントに脱帽。つい最近始めたと思ったらグングン上手くなっていって、いつの間にか私よりも全然上手くなっていて、もう団体戦のメンバーにだって選ばれている。桜庭くんってスポーツ万能だから、初めは運動神経がいいからだって、私とは違うんだって妬んだりもした。でも毎日毎日真剣に練習に取り組んでいる彼の姿を見ていたら、桜庭くんを妬んでいた自分が悔しく思えてきた。彼があんなに上手くなっているのは日々のたゆまぬ努力と、その真摯な姿勢があったからなんだと思い知らされた。それからは私自身もがんばらなきゃなって思った。
だから彼がどこまで行けるのか、彼の挑戦を見守っていたいと思ったし、彼のことは待っていることに決めた。私の元に来てくれるのは彼が満足してからでも構わない。その代わり、桜庭くんの行く末はちゃんと最後まで見届けさせてもらうわね。
私って実はすごく恥ずかしがり屋で、だから人と話す時はそれを隠すようについ上から目線になっちゃって。そのせいでよく性格悪い女だって思われたり、チームメイトとも衝突しちゃうんだろうな。いつももっと素直に話せていれば……。もっと言い方に気をつけないと。優里と久保はつき合い長いから分かってくれているんだけど。でも桜庭くんといる時はなんだか私も素でいられる気がする。それで彼の情熱に感化されてやる気になったりなんかもして……あー、なんだか熱くなってきた。
だから、これからもずっと桜庭くんの隣にいれたらいいな、なんてね。
16
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。

オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
零れる
午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー
あらすじ
十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。
オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。
★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
★オメガバースです。
★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる