上 下
37 / 170
3 『ヴェータ』沼の聖女

3ー10 空間収納

しおりを挟む
 3ー10 空間収納

 私は、翌日、キンドさんに水を売ったお金、金貨2枚で小麦粉と卵と牛乳とバターと塩を買ってきてもらうことにした。
 金貨2枚というとこの世界じゃ、普通の平民の3ヶ月分の給料になるらしい。それでパンの材料を大量に買ってきてもらってパンを作ることにする。
 パンを作るのにかかせないイースト菌もパン屋に頼んでわけてもらうことになっている。そのために今日は、買い物にルシアさんも同行してもらった。
 私は、1人残されて暇をしていた。
 エリクさんは、例の謎の液体を鍋で煎じていた。
 小屋の戸を締め切っていてもデッキの方までなんとも言えない臭いが漂ってくる。
 私は、クルの実を摘んでルシアさんが編んでくれたいい感じのカゴに入れていたが、すぐにいっぱいになってしまってどうしたものかと思っていた。
 クルの木は、なんか知らないが狂ったほどに木の実をならせているので、もう、近所の人たちも飽きたのか実を取りにも来なくなった。
 私は、カゴいっぱいで溢れそうになっているクルの実を見つめてふと、例のやつをつくれないかと思い付いた。
 そう。
 異世界ものにつきもののあれ、だ。
 空間収納。
 それは、よい子の夢見る憧れのスキル。
 私は、カゴに手をかざすと一心に祈った。
 「いい感じで空間に収納されろー!」
 すると。
 なんてことでしょう!
 いっぱいだったクルの実が一瞬にして消えた。
 「やったっ!私は、やったよ!」
 私がガッツポーズを決めているとどこからかルキエルのいつもより冷めた声が聴こえてきた。
 『何が、「いい感じで空間に~」ですか。そんなんで空間収納ができるわけがないでしょ』
 「じゃあ、カゴの中にあったクルの実は、どこに消えたわけ?」
 私が少しむくれてきくとルキエルが答えた。
 『それは、異次元空間を通じてどこかに消えたんでしょう』
 マジで?
 そういうのを空間収納って言うんじゃないの?
 『あなたが考えているのは、異空間に物を収納する魔法でしょう?今、ここで起きた現象は、異空間を歪めてどこか別の空間に物を移動させたという魔法ですから』
 はい?
 それでも十分すごいんじゃね?
 私は、カゴを覗き込んだ。
 カゴのそこには暗い闇があった。なんか近づいてはいけないような感じのやつだ。でも、せっかく収穫したクルの実がどこに消えたのかが心配になってしまう。
 だって、クルの実は、痛みやすいから。もしかしたら万が一にも、誰かの部屋のクローゼットの中で腐ったりしたらきっとその人は、トラウマになってしまうかも。
 そこで私は、思いきって闇の中に手を突っ込んだ。
 いや。
 こんなことしたくはないんだけど、どっかの誰かに迷惑をかけたくないし。
 闇に突っ込んだ手で中を探っていると何か柔らかいものに触れた。
 うん?
 なんか、毛並みのふさふさした猫かなんかみたいな感触?
 私は、そっとそのもふもふをつまみ上げると持ち上げてみた。すると、闇の中から手に捕まれてぶらんとぶら下がっている黒い子猫が現れた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
 身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

【完結】苦しく身を焦がす思いの果て

猫石
恋愛
アルフレッド王太子殿下の正妃として3年。 私達は政略結婚という垣根を越え、仲睦まじく暮らしてきたつもりだった。 しかし彼は王太子であるがため、側妃が迎え入れられることになった。 愛しているのは私だけ。 そう言ってくださる殿下の愛を疑ったことはない。 けれど、私の心は……。 ★作者の息抜き作品です。 ★ゆる・ふわ設定ですので気楽にお読みください。 ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様にも公開しています。

魔王の右腕は、拾った聖女を飼い殺す

海野宵人
ファンタジー
魔国軍の将軍ダリオンは、ある日、人間の国との国境付近に捨てられていた人間の赤ん坊を拾う。その赤ん坊は、なんと聖女だった。 聖女は勇者と並んで、魔族の天敵だ。しかし、ここでダリオンは考えた。 「飼い主に逆らわないよう、小さいうちからきちんと躾ければ大丈夫じゃね?」 かくして彼は魔国の平和を守るため、聖女を拾って育てることを決意する。 しかし飼い殺すはずが……──。 元気にあふれすぎた聖女に、魔国の将軍が振り回されるお話。 あるいは、魔族の青年と、彼に拾われた人間の子が、少しずつ家族になっていくお話。 本編二十六話、番外編十話。 番外編は、かっこいいお姉さんにひと目ぼれしちゃったダリオン少年の奮闘記──を、お姉さん視点で。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【完結】私の婚約者は、親友の婚約者に恋してる。

山葵
恋愛
私の婚約者のグリード様には好きな人がいる。 その方は、グリード様の親友、ギルス様の婚約者のナリーシャ様。 2人を見詰め辛そうな顔をするグリード様を私は見ていた。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...