スラムに堕ちた追放聖女は、無自覚に異世界無双する～もふもふもイケメンも丸っとまとめて面倒みます～

3 『ヴェータ』沼の聖女

3ー9 人間だけど

　３ー９　人間だけど

　私たちは、出来上がったジャムを例のかったい黒パンをスライスしたものに塗って味見してみることにした。
　あの固い黒パンをスライスできるなんてノマさんは、すごい力持ち。そして、買ってきてくれたナイフ、ぱねぇ！
　私は、少しパンに水分を含ませられないかと思って念を送ってみた。
　「おいしくなーれ！」
　「ふふっ」
　エリクさんに笑われた!？
　ショックで私は、固まっていた。そのすきにルシアさんがジャムを塗った黒パンをエリクさんに捧げる。
　「どうぞ、エリク様」
　「ありがとう、ルシア」
　エリクさんが受け取って一口齧る。
　くぅっ！
　先を越されて私は、ぎりぎりと歯軋りしていた。
　エリクさんが目を瞬く。
　「うまい・・」
　「ああ。驚くほどに」
　ノマさんもモグモグしながら頷く。クーノは、なんか部屋の隅でふてくされていたんだが、ジャムを一口食べてぱぁっと顔を輝かせる。
　「甘酸っぱくてうまい！」
　クーノは、もう一度鍋に手を突っ込んで指でジャムを一すくいするとぺろりと舐める。
　「こんなうまいもの、食べたことがない！」
　マジですか？
　ジャムごときでこんな喜んで。
　私は、ほろりとしていた。
　クーノ、かわいい奴だな。
　「うん・・なんか、このパン、しっとりしてて美味しくないですか？」
　ジャムを塗った黒パンを齧りながらルシアさんがぽつりと漏らす。
　マジで？
　私も黒パンを一口食べてみる。
　うん。
　確かに、ジャムも美味しいけど、パン自体も美味しいような。というかそんなに固くない？なんか、いつもより水分を含んでいるような気がする。
　ってか、黒パン、焼きすぎなんじゃね？
　もう少し、水気を残して焼いたらけっこういけるんじゃ。
　「この黒パンは、どこで手にいれてるんですか？」
　私がちょっとした好奇心から質問すると、ノマさんが答えた。
　「これは、王都のパン屋から失敗したパンをもらってきてるんだ」
　なんですと？
　マジでこげぱんだったんですか？ってか、買おうよ、パン！
　私が文句を言いたげにエリクさんを見つめているとエリクさんが申し訳なさげな顔をした。
　「この『ヴェータ』沼には、パン屋はないんだよ。そして、王都のパンは高い。だから、この辺りの住人は、パンを買うことはできない者が多い」
　はぁ？
　「じゃあ、ここの皆さんは、何を食べてるんです？」
　私がきくとルシアさんが答えてくれた。
　「穀物をすりつぶして水で練って乾燥させた物が主食です。後は、水です」
　マジですか？
　そんなもの食べて生きていけるんだ。人間って、すごい！いや、私も人間だけど。
　ちょっと、考えてから私は、みんなに質問した。
　「王都で流通してる穀物ってどんなものがあるんですか？」
　「穀物？」
　クーノが首を傾げつつも教えてくれた。
　「だいたいは小麦かな。それ以外は、わからないな」
　そうか。
　私は、考え込んだ。
　じゃあ、主食はパンか。
　もし。
　もしだけど、ここでパン屋をしたら儲かるんじゃね？
　「この中にパンの作り方がわかる人いる？」
　私がきくとルシアさんが手をあげた。
　「一度、パン屋で下働きを頼まれたことがあります」