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第8章 神々のたそがれ

その10

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 わたしは、動かないユーナ様の傍らに跪くと手をかざした。
 魔力をユーナ様に流し、その傷と痛みを癒していく。
 淡い光に包まれユーナ様は、目を閉じた。
  肉体にうけた傷は、魔法で癒すこともできる。
 しかし、心の傷までは、癒せない。
 わたしは、ユーナ様の傷を癒すと立ち上がってその場を去ろうとした。
 キースを。
 あのろくでなしを捕まえてその罪をあがなわせなくてはならない。
 だが。
 ユーナ様が手を伸ばしてわたしのスカートの裾を引っ張った。
 「いかないで」
 その消え入りそうなか細い声にわたしは、涙が出そうになった。
 振り向いたわたしにユーナ様が起き上がって抱きついてきた。
 わたしは、その小さな体を抱き締めた。
 「怖かったですね、もう、大丈夫ですよ」
 わたしは、ユーナ様の震える背を撫でながら繰り返した。
 「もう、大丈夫。大丈夫です」
 しばらくわたしは、ユーナ様のことを抱いていた。
 いつのまにかわたしの背後に近づいてきていたロクにわたしは、気がつかなかった。
 ロクは、そっとわたしの肩に手を置いた。
 「クロト」
 「ロク?」
 びくりと体を震わせるわたしにロクは訊ねた。
 「神は、大丈夫か?」
 わたしは、無言で自分にしがみついているユーナ様のことを見つめた。
 ユーナ様は、ぎゅっとわたしにしがみついたまま離れようとはしない。
 「クロト」
 ロクが低い声で言った。
 「ランナクルス王国へ帰ろう」
 わたしは、こくりと頷いた。
 いつまでもこのままこんなところにユーナ様をおいていてはいけない。
 はやくユーナ様を。
 この子を安全で安心できる場所に移さなくては。
 「ユーナ様」
 わたしは、ユーナ様に声をかけた。
 「わたしたちと一緒に行きましょう」
 「どこに?」
 ユーナ様は、わたしから体を離すとおずおずと訊ねた。
 「もしかしてわたしを食べる魔物のところに行くの?」
 「いいえ」
 わたしは、頭を振ると微笑んだ。
 「わたしたちの国へ・・家に帰るんですよ」
 「お家に?」
 ユーナ様が怯えた様子で訊ねる。
 「わたしがいってもいいの?」
 「もちろんですわ、ユーナ様」
 わたしは、頷いた。
 「これからは、わたしたちのところで一緒に暮らしましょうね」
 もう、二度とこの子供を悲しませたりはしない。
 わたしは、決意していた。
 神であろうとなかろうとかまわない。
 そんなことは関係ない。
 わたしは、この目の前にいる小さな子供を守りたい。
 守ってあげたい。
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