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第8章 神々のたそがれ

その9

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 わたしは、泣いているユーナ様が落ち着くまでずっとそばについていた。
 ユーナ様が再び眠りにつくのを待ってわたしは、自分に与えられたテントへと戻った。
 通信用にロクから与えられている水晶玉を取り出すとわたしは、それに魔力を込めた。
 ぶおん、と低い音がしてロクの姿が浮かび上がる。
 ロクは、どうやら執務室でなにかの書類に目を通しているようだ。
 「ロク」
 わたしは、ロクの名前を呼んだ。
 いつもの連絡の時間ではなかったのでロクは驚いていたがすぐにわたしに向き直って微笑んだ。
 「クロト。何かあったの?いや、何もなくても連絡してくれたら嬉しいけど」
 わたしは、ロクにユーナ様のことを話した。
 痩せ衰えた神。
 その神が語った神の世界の滅び。
 ロクは、にわかには信じられない様子だった。
 「神が・・神の国が滅んだ?」
 ロクは、首をかしげる。
 「そんなことがあるのかな。私もその女の子の話を聞きたいな」
 ロクは、立ち上がるとすぐに魔法を発動し始めた。
 「ロク?」
 次の瞬間には、ロクの姿はわたしの手が触れられる場所にあった。
 「ロク!」
 「会いたかった、クロト」
 ロクがわたしの頬に指先で触れた。
 熱い。
 ロクの指先は、魔法の行使の後だからか燃えるように熱かった。
 「クロト・・」
 ロクがわたしを抱き寄せて髪を撫でる。
 わたしもロクを抱いた。
 その時。
 子供の甲高い鳴き声が辺りに響き渡った。
 「ユーナ様?」
 わたしは、ロクから体を離すとテントから走り出た。
 嫌な予感がする。
 一段と大きくて立派なユーナ様のテントへと向かうと入り口にクロフクロスト王国から来た騎士が数名立っていてわたしとロクがテントに入ろうとするのを妨げた。
 「今は、キース様がユーナ様とお話をされていますので。誰も通さないようにと命じられています」
 そう、若いエルフの騎士はわたしに告げるとどこか後ろめたそうに視線をそらした。
 「キースが?」
 わたしは、ロクを見た。
 ロクは、怖い顔をして騎士たちを見た。
 「さっきの悲鳴はなんだ?」
 「たぶん、神がふざけておられたのだと」
 「この神は、我がランナクルス王国へとお迎えすることになっている。その神の身に何かあればどうなるか、わかっているんだろうな?」
 ロクが言うとエルフの騎士たちもたじろぐ。
 ロクが押し入ろうとしたとき、中からキースが出てきた。
 キースは。
 右の頬にひっかかれたような傷があり血を流していた。
 彼は、わたしとロクの姿を見ると明らかに動揺した様子で取り繕うような笑顔を浮かべた。
 「ユーナ様が・・その、悪い夢を見たとかで、少し、添い寝して差し上げていたんだが・・」
 「添い寝?」
 ロクが牙をむく。
 「添い寝だって?」
 わたしは、キースの横をすり抜けてテントの中へと駆け込んだ。
 ベッドの上にはユーナ様が横たわっていた。
 「ユーナ様?」
 ユーナ様は、答えなかった。
 ぴくりとも動かないユーナ様にわたしは、近づいていくとそっと声をかけた。
 「ユーナ様?大丈夫ですか?」
 ユーナ様は。
 ぽっかりと開いた目を天井にむけたまま答えることはない。
 わたしは、ユーナ様の体にかけられていた掛布をめくった。
 ユーナ様は。
 わたしがお貸ししているチュニックの裾が乱され太ももが露にされていた。
 そして。
 内腿の辺りは、わずかに血で汚されている。
 「なんてことを!」
 わたしは、怒りで頭が真っ白になっていた。
 
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