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第8章 神々のたそがれ
その7
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わたしがユーナ様のもとに戻るとユーナ様はすでに目覚めていた。
大きな黒い瞳を見開いてベッドの上で自分の体を抱き締めて座っていた。
不安そうなユーナ様にわたしは、近づいて声をかける。
「眠れないの?」
ユーナ様は、こくりと頷くとベッドの端に腰を下ろしたわたしに抱きついてきた。
暖かい。
わたしは、その小さな体をぎゅっと抱き締めた。
「大丈夫ですよ、ユーナ様」
「うっ・・うぅっ・・」
ユーナ様は、静かな嗚咽を漏らした。
わたしは、その背中を優しく撫でながら呟いた。
「つらかったのね。もう、大丈夫よ」
ユーナ様が泣き止むまでわたしは、側にいてその小さな背中を撫で続けた。
どのぐらいたったのか。
気がつくとユーナ様は、わたしに抱きついたまま眠っていた。
わたしは、ユーナ様をベッドに横たえその長いきれいな黒髪をそっと撫でた。
病的なほどに白い肌。
きっと十分な栄養が与えられていなかったのに違いない。
静かに上下する薄い胸元を見ながらわたしは、ため息をつく。
なぜ。
今回に限ってこのような幼い、しかも、痩せ細った神がやってきたのか。
きっと、なんらかの意味があるのだろう。
でも、そんなことを考えるのはわたしの役目ではない。
わたしの役目は、この幼い神を無事にランナクルス王国へと連れ帰ることだ。
わたしは、静かで規則正しいユーナ様の寝息を聞きながら考えていた。
キース。
クロフクロスト王国が神を孕ませるために送り込んだ勇者である彼は、ユーナ様をどうするつもりなのか。
いや。
わたしは、頭を振った。
まさか、ね。
いくらキースでもこの幼い神に手を出したりはしないだろう。
だって。
わたしの知っている彼は。
高潔で優しくて。
わたしは、少しだけ胸がちくりと痛むのを押さえて苦笑した。
まだ、そんな痛みがあるの?
キースとの恋は、とっくに終わったのに。
彼は。
変わってしまった。
そう。
もう、わたしの幼い恋は、過ぎ去ってしまった。
わたしは、数回瞬いた。
「お姉さん」
ぽっかりと目を開いたユーナ様がわたしを見上げて手を伸ばしてきた。
「泣いているの?」
大きな黒い瞳を見開いてベッドの上で自分の体を抱き締めて座っていた。
不安そうなユーナ様にわたしは、近づいて声をかける。
「眠れないの?」
ユーナ様は、こくりと頷くとベッドの端に腰を下ろしたわたしに抱きついてきた。
暖かい。
わたしは、その小さな体をぎゅっと抱き締めた。
「大丈夫ですよ、ユーナ様」
「うっ・・うぅっ・・」
ユーナ様は、静かな嗚咽を漏らした。
わたしは、その背中を優しく撫でながら呟いた。
「つらかったのね。もう、大丈夫よ」
ユーナ様が泣き止むまでわたしは、側にいてその小さな背中を撫で続けた。
どのぐらいたったのか。
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わたしは、ユーナ様をベッドに横たえその長いきれいな黒髪をそっと撫でた。
病的なほどに白い肌。
きっと十分な栄養が与えられていなかったのに違いない。
静かに上下する薄い胸元を見ながらわたしは、ため息をつく。
なぜ。
今回に限ってこのような幼い、しかも、痩せ細った神がやってきたのか。
きっと、なんらかの意味があるのだろう。
でも、そんなことを考えるのはわたしの役目ではない。
わたしの役目は、この幼い神を無事にランナクルス王国へと連れ帰ることだ。
わたしは、静かで規則正しいユーナ様の寝息を聞きながら考えていた。
キース。
クロフクロスト王国が神を孕ませるために送り込んだ勇者である彼は、ユーナ様をどうするつもりなのか。
いや。
わたしは、頭を振った。
まさか、ね。
いくらキースでもこの幼い神に手を出したりはしないだろう。
だって。
わたしの知っている彼は。
高潔で優しくて。
わたしは、少しだけ胸がちくりと痛むのを押さえて苦笑した。
まだ、そんな痛みがあるの?
キースとの恋は、とっくに終わったのに。
彼は。
変わってしまった。
そう。
もう、わたしの幼い恋は、過ぎ去ってしまった。
わたしは、数回瞬いた。
「お姉さん」
ぽっかりと目を開いたユーナ様がわたしを見上げて手を伸ばしてきた。
「泣いているの?」
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