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第7章 聖女の戦い
その10
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フラウ様がエルフに嫁がれてしばらくしてエルフの長でありクロフクロスト王国の王である方からわたしとロクは、王都へと招かれた。
わたしたちは、王都のタウンハウスへと向かった。
アリサや母様も一緒だ。
数ヵ月前。
エルフに追われて命からがら領地へと逃げ帰った二人にとっても、一度は、国を追われたわたしにとってももう、二度と来ることがないと思っていた場所だった。
わたしたちの懐かしい屋敷は、エルフの手で焼け落ち見る影もなかった。
すぐ隣に父様が手配して新しい屋敷が建てられてはいるが、やはり思い出のある屋敷を失ったことは、悲しかった。
できるだけ使用人たちは、逃がすことができたのだが、それでも何人もの同族たちが被害にあった。
中には、これだけのことをされながらエルフと和解など言語道断と憤っている者もいる。
しかし。
王宮を訪れたわたしとロクの前に現れたのは、すっかり面変わりしてしまったエルフたちだった。
立派だった王は、すっかり老いさらばえ、玉座に座っているのがやっとのようだ。
その横に王を支えるように立っているのは、フラウ様だった。
薄いベールをかぶったフラウ様が笑顔で王の手をとり告げた。
「王よ。ゴブリン族の姫クロトとランナクルス王国の王ロクザナ-ル陛下があなたを訪れました。どうか、お言葉を」
だが、王は、フラウ様の言葉にも低い呻き声を発するのみで。
その様子は、まるで年老いて呆けてしまった老人のようだった。
周囲のエルフの重鎮たちも魂が抜けてしまっているかのよう。
不気味な謁見をすませてさっさと王城からおいとましようとしていたわたしたちを呼び止める者がいた。
キースだった。
ずいぶん時が流れてしまった。
キースは、少し。
いや、だいぶやつれていたが相変わらずの美丈夫ぶりで。
かつてのわたしの恋心がずきんと痛むのを感じた。
「少し、話がしたい」
そういうキースからわたしをかばうようにロクが立ちふさがる。
「彼女には、もう、君と話すことなどないと思うのだが」
「わかっている」
キースが苦い表情を浮かべる。
「ただ、一言、詫びが言いたかった。それにこれからのことも話したくて」
はい?
わたしは、まじまじとキースを見つめた。
わたしたちにこれからなんてものがあるの?
わたしの不信感を察したキースは、慌てて手を振った。
「いや、そういうことではなく」
ロクに睨まれてキースから笑顔が消えていく。
キースは、浮かない表情でわたしを見つめた。
「いよいよ『神』を迎えに行かねばならない。その旅にどうか、君も同行して欲しい、クロト」
わたしたちは、王都のタウンハウスへと向かった。
アリサや母様も一緒だ。
数ヵ月前。
エルフに追われて命からがら領地へと逃げ帰った二人にとっても、一度は、国を追われたわたしにとってももう、二度と来ることがないと思っていた場所だった。
わたしたちの懐かしい屋敷は、エルフの手で焼け落ち見る影もなかった。
すぐ隣に父様が手配して新しい屋敷が建てられてはいるが、やはり思い出のある屋敷を失ったことは、悲しかった。
できるだけ使用人たちは、逃がすことができたのだが、それでも何人もの同族たちが被害にあった。
中には、これだけのことをされながらエルフと和解など言語道断と憤っている者もいる。
しかし。
王宮を訪れたわたしとロクの前に現れたのは、すっかり面変わりしてしまったエルフたちだった。
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その横に王を支えるように立っているのは、フラウ様だった。
薄いベールをかぶったフラウ様が笑顔で王の手をとり告げた。
「王よ。ゴブリン族の姫クロトとランナクルス王国の王ロクザナ-ル陛下があなたを訪れました。どうか、お言葉を」
だが、王は、フラウ様の言葉にも低い呻き声を発するのみで。
その様子は、まるで年老いて呆けてしまった老人のようだった。
周囲のエルフの重鎮たちも魂が抜けてしまっているかのよう。
不気味な謁見をすませてさっさと王城からおいとましようとしていたわたしたちを呼び止める者がいた。
キースだった。
ずいぶん時が流れてしまった。
キースは、少し。
いや、だいぶやつれていたが相変わらずの美丈夫ぶりで。
かつてのわたしの恋心がずきんと痛むのを感じた。
「少し、話がしたい」
そういうキースからわたしをかばうようにロクが立ちふさがる。
「彼女には、もう、君と話すことなどないと思うのだが」
「わかっている」
キースが苦い表情を浮かべる。
「ただ、一言、詫びが言いたかった。それにこれからのことも話したくて」
はい?
わたしは、まじまじとキースを見つめた。
わたしたちにこれからなんてものがあるの?
わたしの不信感を察したキースは、慌てて手を振った。
「いや、そういうことではなく」
ロクに睨まれてキースから笑顔が消えていく。
キースは、浮かない表情でわたしを見つめた。
「いよいよ『神』を迎えに行かねばならない。その旅にどうか、君も同行して欲しい、クロト」
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