荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ~捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ

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第7章 聖女の戦い

その7

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 「んっ・・」
 わたしの顎の先に指をあててフラウ様は、わたしの顔を覗き込んだ。
 「かわいらしいこと。本当に食べてしまいたいくらい」
 わたしの体は、なぜだか動かない。
 冷気がわたしの体の表面を這っていく。
 全身がまるで何かで縛り上げられたように身動きができなかった。
 「しっかりしろ!クロト」
 ロクがわたしをぎゅっと抱きよせた。
 わたしは、ふはっと息を吐いた。
 わたし、息を止めてた?
 やばっ!
 体が震えている!
 何か。
 底知れない、恐ろしいものを見たような。
 そんな恐怖にわたしは、体を震わせていた。
 「フラウ、冗談は、やめてくれないか?」
 ロクがわたしをかばうように抱いたままフラウ様を睨み付けた。
 だが、フラウ様は、くすくすとかわいらしく笑うだけだ。
 「ごめんあそばせ。ただ、この方があまりにもかわいらしかったから、少し味見をしたくなってしまったのよ」
 味見?
 わたしの背中を冷たいものが走る。
 味見って、何?
 「でも、さすがは聖女だけありますわね、ロクザナ-ル陛下が夢中になるのもわかるような気がしますわ」
 フラウ様は、ふふっと微笑んだ。
 ロクが冷ややかにフラウ様を見た。
 「クロトが聖女であることは彼女の家族にも告げてないことだ。エルフのもとに嫁いでもそのことは秘してくれ」
 あら、とフラウ様が声を漏らした。
 「そんなこと、すぐにばれてしまいますわよ。ロクザナ-ル陛下とも思えない言葉ですわね。さすがの陛下も恋にかかっては、盲目ということですかしら?」
 「もういい」
 ロクが深いため息を漏らした。
 「君は、もう下がってくれないか、フラウ」
 フラウ様が部屋を出ていくとロクは、再びため息をつく。
 わたしは、ロクに訊ねた。
 「わたし、フラウ様にお詫びをしなくてはならないのではないかしら?」
 「なぜ?」
 ロクがわたしを不思議そうに見た。
 「君が、なんでフラウに詫びなくてはならないんだ?クロト」
 「だって、わたしたちの国のごたごたに巻き込んで、その、エルフのもとに嫁いでいただくことになってしまったから」
 
 
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