荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ～捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます～

第６章 革命の夜

その10

　母様は、低い声で続けた。
　「あなたたちは、エルフと戦うつもりでいるけれど、今、この時に国を分けた戦いをするべきなのかしら？」
　わたしたちは、母様の言葉に耳を傾けた。
　「幸いなことにわたしたちの国クロフクロスト王国は、他の国々から山脈やら何やらで守られているかもしれないけれど、クロトの話からすると国力の差は歴然としているのでしょう。わたしたちが今なすべきことはエルフとの和平ではなくて？」
　「しかし、叔母上！」
　「幸いにしてこの世界でも有数の大国であるランナクルス王国の国王陛下であられるロクザナ－ル陛下もお味方してくださるとのこと」
　母様は、ぎん、とみなを見回した。
　「すぐにエルフに使者を送りこのことを伝えて和平を申し込むのです」
　「和平、か・・」
　父様が呻いた。
　「しかし、エルフが始めた戦いだ。我々に非はない」
　「どちらに非があると争っている場合でしょうか？旦那様、この国は、今、岐路に立っているのですよ？おわかりですか？」　
　母様は、静かに話した。
　「こんなときに国を分かって戦をするなどもっての他でしょう。わかりますね？イクセム」
　イクセムが母様を見た。
　母様は、にっこりと微笑んだ。
　「１人の女にこだわって国が危機に陥ることのないように。正しい判断をなさいな」
　「叔母上、でも」
　「でも、ではありません！」
　母様がぴしゃりと言った。
　「クロト１人でこの国の未来が買えるなら安いものではないですか？わたしたちは、今、もっと大きな危機に貧しているのだということ、理解しなさい」
　父様とイクセムたちは、その場に残りエルフへ送る和解のための使者について相談を始めた。
　わたしとアリサ、ロクと母様は、父様の執務室を出ると過ごしやすいサロンへと場所を移した。
　それぞれがソファに腰かけると、メイドたちがお茶を配る。
　母様は、手を振ってそれを断った。
　「お茶ではなくてもっとちゃんとした飲み物をお持ちして」
　すぐにメイドたちがお茶を片付けるとお酒の入ったカップを用意した。
　わたしは、それを手にするとそっと匂いを嗅いでみた。
　カップの中身は、この辺りでは、珍しくない地酒であるロフト酒を水で薄めたものが入っていた。