荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ~捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ

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第5章 魔女の血族

その4

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 布を選び終わると、わたしは、ルティに案内されてもとの部屋へと戻った。
 ロクは、ソファに腰かけて透明な美しいカップに入った泡の浮かんでくる奇妙な飲み物を手に、白い巻き毛の男の人と話していたけどわたしに気づくとすぐに顔をあげて微笑んだ。
 「おかえり、クロト」
 ロクは、手を差し伸べてきた。
 わたしは、彼の手をとると引き寄せられてその隣に腰を下ろした。
 ロクは、わたしにもテーブルに置かれたしゅわしゅわ泡のたっている飲み物を差し出す。
 「これは、今、スワローティルで流行っている飲み物のソイルだ。君も気に入ってくれると思うよ。試してごらん」
 手渡されたカップを見てわたしは、息を飲む。
 透明なカップ?
 そんなもの、わたしは、初めて見た。
 そのカップは、すらりとしてて足がついていてカップではなくその足の部分を持って飲むようにできているようだ。
 わたしは、まじまじとそのカップの中の液体を見た。
 透明な水のようだけど、泡が出ている。
 キラキラしててきれい。
 わたしは、ロクに訊ねた。
 「この透明な素材は何?」
 「これは、ガラス、だよ」
 ロクは、面白そうにわたしのことを見ていた。
 わたしは、しばらくそのガラスとやらでできたカップを観察していた。
 一応、わたしだって錬金術師の端くれだもの。
 変わった素材には、興味がある。
 ロクは、そんなわたしを見て微笑むとそっと囁いた。
 「ガラスのグラスに興味があるならまた城に戻ったらプレゼントするよ」
 ロクは、そう言うとわたしが持っているカップの中に赤くて丸いものを落とした。
 しゅわしゅわっと音がして泡がたつ。
 キラキラ、しゅわしゅわ。
 わたしがぼんやりと見つめているとロクは、わたしを促した。
 「一口飲んでごらん、クロト」
 わたしは、こわごわそのグラスとやらに入った液体を口に運んだ。
 「!」
 口の中で弾ける。
 爽やかな甘味を感じてわたしは、それを飲み込んでほぅっと吐息をついた。
 「おいしい。けど、なんだか、その、変わってる感じ」
 「そうだろう?」
 ロクは、テーブルに置かれた赤くて丸いものを一つ摘まむとわたしの口許へと差し出す。
 「これも試してごらん、クロト」
 はいっ?
 有無をいわせない感じの笑顔のロクに仕方なくわたしが口を開くとロクは、わたしにその丸いものを食べさせた。
 少しだけ口の端にロクの指先が触れた。
 わたしは、頬が燃えるように熱くて。
 恥ずかしくって。
 黙ってうつむいて口の中のものをモグモグしてみる。
 口の中に甘酸っぱい風味が拡がっていく。
 何?
 こんなもの、食べたこと、ない!
 
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