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第4章 変わらない世界
その11
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ロクは、クロフクロスト王国の人間とはまったく違っている。
猫に似ている種族は、クロフクロスト王国にはいなかった。
といってもわたしは、猫がどんな生き物かはよくは知らないのだけれど。
猫は、この世界にはいない生き物だから。
魔女ミリアを誘惑した『強欲』の悪魔は、猫に似ていたらしい。
わたしが猫を知ったのは子供の頃に読んだ魔女ミリアの絵本からだった。
大きな耳に大きな目裂けた口。
そして、長い尻尾。
凶悪な魔物として描かれた猫しかわたしたちは、知らない。
だから、わたしは、ロクが恐ろしかった。
『強欲』の悪魔は、魔女ミリアを堕落させた、と教会の大神官様がおっしゃった。
ミリア様は、自身の大切なものと引き換えに力を得たのだという。
魔女ミリアは、この世界に置いては、忌むべき存在とされている。
大人たちが聞き分けのない子供たちに小声で話するようなもの。
「いい子にしないと魔女ミリアに拐われてしまうわよ」
それが魔女ミリア。
だけど、我がエルダー家では少しだけ異なる。
わたしたちゴブリンにとっては、魔女ミリアは、隠された守護者。
他の種族には秘されているけれど、魔女ミリアの物語には続きがある。
魔女ミリアは、クロフクロスト王国の祖から離れたけれど悪魔のもとで双子の赤ん坊を産み落とした。
それが、わたしたちゴブリンの祖先だといわれている。
ゴブリンの父は、誰なのか。
昔、この話をきかされたとき、わたしが訊ねるとゴブリンの伝承者であるばあ様は、不思議な微笑みを浮かべた。
「わたしらのご先祖様の父親が誰かは、ミリア様しか知らないのさ」
でも。
『強欲』の悪魔であるロクならその謎の答えを知っているのかもしれない。
だって。
魔女ミリアは、その一生を『強欲』の悪魔とともに過ごしたのだから。
わたしは、ロクと暮らし始めてしばらくしてロクに訊ねてみた。
「魔女ミリアは、わたしたちゴブリンの祖なの?」
「ああ」
ロクは、頷いた。
わたしたちは、ロクのお屋敷の整えられた庭の一角にあるあづまやで二人腰かけてお茶を楽しんでいた。
ロクは、わたしに話してくれた。
「ミリアは、君たちゴブリンの始祖だよ」
「父親は?」
わたしは、ロクに訊ねてみた。
「ゴブリンの父は、いったい誰だったの?」
ロクは、その美しい指先でテーブルに置かれた白いカップの縁を撫でた。
「君たちの父親は」
ロクは、低い声で囁いた。
「秘密、だ」
猫に似ている種族は、クロフクロスト王国にはいなかった。
といってもわたしは、猫がどんな生き物かはよくは知らないのだけれど。
猫は、この世界にはいない生き物だから。
魔女ミリアを誘惑した『強欲』の悪魔は、猫に似ていたらしい。
わたしが猫を知ったのは子供の頃に読んだ魔女ミリアの絵本からだった。
大きな耳に大きな目裂けた口。
そして、長い尻尾。
凶悪な魔物として描かれた猫しかわたしたちは、知らない。
だから、わたしは、ロクが恐ろしかった。
『強欲』の悪魔は、魔女ミリアを堕落させた、と教会の大神官様がおっしゃった。
ミリア様は、自身の大切なものと引き換えに力を得たのだという。
魔女ミリアは、この世界に置いては、忌むべき存在とされている。
大人たちが聞き分けのない子供たちに小声で話するようなもの。
「いい子にしないと魔女ミリアに拐われてしまうわよ」
それが魔女ミリア。
だけど、我がエルダー家では少しだけ異なる。
わたしたちゴブリンにとっては、魔女ミリアは、隠された守護者。
他の種族には秘されているけれど、魔女ミリアの物語には続きがある。
魔女ミリアは、クロフクロスト王国の祖から離れたけれど悪魔のもとで双子の赤ん坊を産み落とした。
それが、わたしたちゴブリンの祖先だといわれている。
ゴブリンの父は、誰なのか。
昔、この話をきかされたとき、わたしが訊ねるとゴブリンの伝承者であるばあ様は、不思議な微笑みを浮かべた。
「わたしらのご先祖様の父親が誰かは、ミリア様しか知らないのさ」
でも。
『強欲』の悪魔であるロクならその謎の答えを知っているのかもしれない。
だって。
魔女ミリアは、その一生を『強欲』の悪魔とともに過ごしたのだから。
わたしは、ロクと暮らし始めてしばらくしてロクに訊ねてみた。
「魔女ミリアは、わたしたちゴブリンの祖なの?」
「ああ」
ロクは、頷いた。
わたしたちは、ロクのお屋敷の整えられた庭の一角にあるあづまやで二人腰かけてお茶を楽しんでいた。
ロクは、わたしに話してくれた。
「ミリアは、君たちゴブリンの始祖だよ」
「父親は?」
わたしは、ロクに訊ねてみた。
「ゴブリンの父は、いったい誰だったの?」
ロクは、その美しい指先でテーブルに置かれた白いカップの縁を撫でた。
「君たちの父親は」
ロクは、低い声で囁いた。
「秘密、だ」
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