28 / 107
第2章 異界の悪魔
その10
しおりを挟む
ルシィの婚約者は、子爵家の嫡子だった。
親の決めた婚約だったがお互いにお互いを思いあっていた。
しかし、ルシィが生け贄の乙女に決まったとたん婚約は破棄された。
「仕方がないの。だって、私は、死ぬことになっていたのだから」
「それでも!」
ローラが憤る。
「本当に情けがあるならせめて婚約したままでいてくれてもいいんじゃないかしら」
ローラの言葉にルシィは、首を振った。
「私の前で終わらせてくれたことは、彼のせめてもの思いやりだと思いますわ」
「わからないな」
ローラは、水面を見つめているミリアに話を振る。
「ミリアは?」
「えっ?」
顔をあげたミリアにローラが訊ねた。
「ミリアだって、一応貴族なんでしょう?婚約者とかは?」
ミリアは、奇妙な表情を浮かべるがすぐに苦く笑った。
「私には、婚約者なんていない」
「でも、恋人ぐらいいたんじゃないの?」
なおも訊ねるローラにミリアは、手をひらひらと振ってそっけなく答える。
「この見た目だ。誰も女だとも思わない」
自分が醜いことは、よく知っている。
ミリアは、皮肉っぽく口許を歪めた。
「ミリアが冒険者だから?」
ローラが目を丸くする。
「でも、冒険者の方がそういうことにはすばやいのじゃないの?」
「例え荒くれ者の多い冒険者だって私のように醜い女には鼻もかけないさ」
ミリアが答えると背後から不意にきき心地の良い声がきこえた。
「私は、お前が醜いとは思わないがな」
三人がはっと振り向くとすでに身体を乾かして身繕いを整えた邪神が立っていた。
ミリアは、怒りでかぁっと顔が熱くなる。
そんなこと!
ミリアは、邪神がそんなつまらないお世辞をいうことに落胆していた。
同時に、悲しくなる。
自分は、邪神にすら同情される女なのだ。
「お前に何がわかる・・」
ミリアは、立ち上がると邪神を睨み付けると背を向けて駆け出した。
はやく。
少しでもはやくここから、みんなの側から、邪神の側から離れたかった。
「待て!どこに行く!」
邪神が声を発したがミリアは、決して立ち止まりはしない。
ミリアは、どんどんみなから離れて川上へと走った。
親の決めた婚約だったがお互いにお互いを思いあっていた。
しかし、ルシィが生け贄の乙女に決まったとたん婚約は破棄された。
「仕方がないの。だって、私は、死ぬことになっていたのだから」
「それでも!」
ローラが憤る。
「本当に情けがあるならせめて婚約したままでいてくれてもいいんじゃないかしら」
ローラの言葉にルシィは、首を振った。
「私の前で終わらせてくれたことは、彼のせめてもの思いやりだと思いますわ」
「わからないな」
ローラは、水面を見つめているミリアに話を振る。
「ミリアは?」
「えっ?」
顔をあげたミリアにローラが訊ねた。
「ミリアだって、一応貴族なんでしょう?婚約者とかは?」
ミリアは、奇妙な表情を浮かべるがすぐに苦く笑った。
「私には、婚約者なんていない」
「でも、恋人ぐらいいたんじゃないの?」
なおも訊ねるローラにミリアは、手をひらひらと振ってそっけなく答える。
「この見た目だ。誰も女だとも思わない」
自分が醜いことは、よく知っている。
ミリアは、皮肉っぽく口許を歪めた。
「ミリアが冒険者だから?」
ローラが目を丸くする。
「でも、冒険者の方がそういうことにはすばやいのじゃないの?」
「例え荒くれ者の多い冒険者だって私のように醜い女には鼻もかけないさ」
ミリアが答えると背後から不意にきき心地の良い声がきこえた。
「私は、お前が醜いとは思わないがな」
三人がはっと振り向くとすでに身体を乾かして身繕いを整えた邪神が立っていた。
ミリアは、怒りでかぁっと顔が熱くなる。
そんなこと!
ミリアは、邪神がそんなつまらないお世辞をいうことに落胆していた。
同時に、悲しくなる。
自分は、邪神にすら同情される女なのだ。
「お前に何がわかる・・」
ミリアは、立ち上がると邪神を睨み付けると背を向けて駆け出した。
はやく。
少しでもはやくここから、みんなの側から、邪神の側から離れたかった。
「待て!どこに行く!」
邪神が声を発したがミリアは、決して立ち止まりはしない。
ミリアは、どんどんみなから離れて川上へと走った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。
黒蜜きな粉
ファンタジー
元冒険者のアラサー女のライラが、離婚をして冒険者に復帰する話。
ライラはかつてはそれなりに高い評価を受けていた冒険者。
というのも、この世界ではレアな能力である精霊術を扱える精霊術師なのだ。
そんなものだから復職なんて余裕だと自信満々に思っていたら、休職期間が長すぎて冒険者登録試験を受けなおし。
周囲から過去の人、BBA扱いの前途多難なライラの新生活が始まる。
2022/10/31
第15回ファンタジー小説大賞、奨励賞をいただきました。
応援ありがとうございました!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる