21 / 107
第2章 異界の悪魔
その3
しおりを挟む
洞穴に邪神が帰ってくる。
ローラは、笑顔で迎えた。
「おかえりなさい!」
一瞬、邪神が奇妙な表情をしてから答える。
「・・ただいま」
邪神は、背に負った獣を下ろしながら鼻をひくつかせた。
洞穴の中には、空腹を刺激する匂いが漂っている。
「すみません。勝手に料理を作らせていただきました」
ルシィがうつむき加減で言うとローラがかばうように口を挟む。
「私も一緒に作りましたから!」
邪神は、炉に近づくと火にかかっている鍋の中を覗いた。
「お前たちはみな、良家の令嬢だろう?なぜ、料理などできるんだ?」
「私は、ただの田舎の男爵家の娘ですから。家にも、使用人は、一人しかいませんでした」
ルシィが小さな声で言うのをきいてローラが感心したようにルシィを見やった。
「ルシィは、すごいわ!魔法も上手だし、料理もできるし」
「そんなこと」
ルシィが頬を赤く染める。
邪神は、部屋の中を見回した。
「もう一人は?」
「ミリアなら奥で修行してますわ」
朗らかに答えるローラに邪神が問う。
「修行?」
「はい」
ローラが笑顔で答える。
「なんでもみんながいると集中できないとか」
邪神は、手にぶら下げていた茶色い毛並みに覆われたウサギのような獣をローラに渡した。
ローラが慌てて受け取るとルシィの方を見た。
「これは、魔物ですか?」
問いかけたルシィに邪神が頷く。
「これは、我々が食べても安全な魔物だ。さばいて半分を干し肉に、半分を串に刺して焼いて喰おう」
「はい、わかりました」
ルシィは、ローラの抱えている魔物の死骸を受け取ると洞穴の入り口の方に向かった。
邪神は、そのまま洞穴の奥へと向かう。
寝台の置かれた場所のさらに奥の暗闇に向かって呼び掛ける。
「ミリア」
だが、返事はない。
邪神は、魔法で灯りをともして洞穴の奥を照らした。
小さな横穴の中に身を屈めて隠れるようにして座り込んでいるミリアを見て邪神は、怪訝そうな顔をする。
「どうした?」
「・・なんでもない」
ミリアが不機嫌そうな声を出した。
邪神は、ミリアの方へと歩み寄るとその前に片膝をついてミリアを覗き込んだ。
「顔色が悪いな」
「なんでも、ないって言ってるだろう」
邪神は、ミリアの方へと手を伸ばしてその頬にそっと触れた。
熱い。
「体調が悪いのか?」
「大丈夫、だ。こんなのしばらくじっとしてたらすぐ治る」
ミリアは、邪神の手を払おうとしたが邪神は、ミリアを抱き寄せた。
「ひどい熱だ」
ローラは、笑顔で迎えた。
「おかえりなさい!」
一瞬、邪神が奇妙な表情をしてから答える。
「・・ただいま」
邪神は、背に負った獣を下ろしながら鼻をひくつかせた。
洞穴の中には、空腹を刺激する匂いが漂っている。
「すみません。勝手に料理を作らせていただきました」
ルシィがうつむき加減で言うとローラがかばうように口を挟む。
「私も一緒に作りましたから!」
邪神は、炉に近づくと火にかかっている鍋の中を覗いた。
「お前たちはみな、良家の令嬢だろう?なぜ、料理などできるんだ?」
「私は、ただの田舎の男爵家の娘ですから。家にも、使用人は、一人しかいませんでした」
ルシィが小さな声で言うのをきいてローラが感心したようにルシィを見やった。
「ルシィは、すごいわ!魔法も上手だし、料理もできるし」
「そんなこと」
ルシィが頬を赤く染める。
邪神は、部屋の中を見回した。
「もう一人は?」
「ミリアなら奥で修行してますわ」
朗らかに答えるローラに邪神が問う。
「修行?」
「はい」
ローラが笑顔で答える。
「なんでもみんながいると集中できないとか」
邪神は、手にぶら下げていた茶色い毛並みに覆われたウサギのような獣をローラに渡した。
ローラが慌てて受け取るとルシィの方を見た。
「これは、魔物ですか?」
問いかけたルシィに邪神が頷く。
「これは、我々が食べても安全な魔物だ。さばいて半分を干し肉に、半分を串に刺して焼いて喰おう」
「はい、わかりました」
ルシィは、ローラの抱えている魔物の死骸を受け取ると洞穴の入り口の方に向かった。
邪神は、そのまま洞穴の奥へと向かう。
寝台の置かれた場所のさらに奥の暗闇に向かって呼び掛ける。
「ミリア」
だが、返事はない。
邪神は、魔法で灯りをともして洞穴の奥を照らした。
小さな横穴の中に身を屈めて隠れるようにして座り込んでいるミリアを見て邪神は、怪訝そうな顔をする。
「どうした?」
「・・なんでもない」
ミリアが不機嫌そうな声を出した。
邪神は、ミリアの方へと歩み寄るとその前に片膝をついてミリアを覗き込んだ。
「顔色が悪いな」
「なんでも、ないって言ってるだろう」
邪神は、ミリアの方へと手を伸ばしてその頬にそっと触れた。
熱い。
「体調が悪いのか?」
「大丈夫、だ。こんなのしばらくじっとしてたらすぐ治る」
ミリアは、邪神の手を払おうとしたが邪神は、ミリアを抱き寄せた。
「ひどい熱だ」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる